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気持ちを最もストレートに伝える品詞は、じつは「副詞」だった……センスと精度をアップさせる方法を教えます!

名詞、動詞、形容詞…に比べて、「副詞」はわかりにくい、地味な存在だと思っていませんか? ところがどうして、「副詞」はじつは私たちにとても身近な存在なのです。それどころか、一日の中で、驚くほどたくさん使っている可能性も! 
そんな「副詞」に着目した新刊『コミュ力は「副詞」で決まるの、「はじめに」と「目次」を公開。コミュニケーション向上の鍵を握る品詞「副詞」を知る旅に、日本語研究者の石黒圭氏(国立国語研究所教授)が案内します…!


はじめに――『コミュ力は「副詞」で決まる


人にとってもっとも切実な問題の一つ。それは、人間関係です。人間関係で悩んだことがない人はおそらくいないでしょう。

職場でも、学校でも、家庭でも、地域社会でも、人の集まるところでは、かならず大なり小なり人間関係のトラブルが生じます。人間関係を悪くしてプラスになることなど、一つもありません。

人間関係が悪化すると、自分にとっても大きなストレスですし、周囲にも悪影響を及ぼします。仕事も学業も家庭生活もすべて停滞し、深刻な場合は破綻を来(きた)してしまいます。

多くの企業の人事部が、コミュニケーション能力の高い人を採用の第一条件に挙げるのも、コミュニケーション能力の多寡(たか)が業務の成果に直結することをよく知っているからです。


では、どうすればコミュニケーション能力が上げられるのでしょうか。

コミュニケーションが言葉によって担われるものである以上、言葉遣いの質を高めることが必要です。そこでまっさきに思い浮かぶのは敬語です。かくして人は敬語の本を手に取り、敬語を身につけようとします。

しかし、敬語の習得はしばらくすると、壁に突き当たります。過剰な敬語を使っても、よそよそしくなるばかりで、自分が本来備えているよさが失われるように感じられるからです。

一方で、苦労して身につけた敬語が仮面のように機能してしまい、機械的な話し方でかえってその人の印象を下げることもあります。敬語は大事ですが、とってつけたような言葉遣いになり、人間関係の改善に役立たないことも少なくありません。


そこで、本書では副詞に着目しました。

いきなり副詞と言われても、「副詞って何?」とピンと来ない方もきっと多いことでしょう。

でも、大丈夫です。副詞はふだん意識しなくても、日々の生活で驚くほど多く使っている言葉だからです。意識せずに頻繁に使っている言葉だからこそ、肉声として響く、敬語以上に大事な言葉だともいえます。

私たちは、日本語の言葉遣いを日常生活のなかで周囲の人から学び、成長するものです。

たとえば、休みの日、自治会の掃除に出て、長い作業が終わったあと、ご近所の年配の方に別れぎわに、

「どうぞお疲れが出ませんように」

と声を掛けられます。
そんなとき、一瞬戸惑ってしまい、とっさに、

「あっ、ありがとうございます。では、また」

という出来合いの言葉しか出てこない我が身が恨めしいのですが、それと同時に、この「どうぞ」という副詞から始まるこの一文が、自分の発想にはない、さわやかな言葉だと気づかされるのです。

何気ない、じつに自然な、それでいて品のある一言をさらっと言えるお年寄りになりたい。せっかく教えてもらったのだから、次回からは自分もそんな言葉を使っていこう。

そう多くの人が考えることで、社会のなかで渡し渡される言葉のバトンは、思いやりのあるものへと変わっていくのでしょう。



私たちは周囲の世界をあるがままに見ているわけではありません。かならず自分というフィルターを通して見ています。自分なりの捉え方、考え方、価値観、先入観から周囲の世界を見ているのです。

副詞という品詞には、そうした話し手自身のものの見方が自然と反映されるようにできています。

つまり、副詞は素の自分が出てしまうところなので、話し手のよい面が出れば魅力となり、悪い面が出てしまうと欠点となります。

そこで、私たちは自分が使っている副詞を知り、その副詞を磨く必要があるのです。本書はそのお手伝いをする本です。

さあ、これからご一緒に、副詞を知る旅、ふだん無自覚に使っている副詞から透けて見える自分自身の姿を知る長い航海へと出港することにしましょう。


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コミュ力は「副詞」で決まる 

《目次》


はじめに

第1章 副詞とは何か――「副詞って『やっぱり』難しい?」

1.副詞の混乱
マイナーでわけのわからない副詞
品詞のゴミ箱
2.副詞の整理
山田孝雄の品詞分類――ゴミだって分別できる
情態副詞――動詞を助け、様子を詳しく描写する
程度副詞――形容詞などに添え、量的尺度を示す
予告副詞――言いたいことを先回りして表現する
検討副詞――頭のなかで検討した、物事の見方・考え方・言い方を示す
副詞の分類
3.副詞とは何か
副詞の五つの性質
副詞の期待性――気持ちを効果的に伝える
副詞とは――話し手の先入観の反映

第2章 副詞の多用――「『ホントにホントに』ライオンだ♪」

1.副詞の重要性
言語コーパスで副詞の使用状況を分析する
「書き言葉コーパス」での副詞ランキング
「話し言葉コーパス」での副詞ランキング
歌詞における副詞ランキング
2.副詞の連呼
連呼する副詞に個性が表れる
「もう」の連呼
「まあ」の連呼
「ちょっと」の連呼
「やっぱり」の連呼
「けっこう」の連呼
「本当に」の連呼

第3章 情態副詞――「『ちゃんと』やってよ!」

1.情態副詞の範囲
意味の三角形
形容詞・形容動詞の連用形
2.オノマトペの特徴
オノマトペの語源
オノマトペの音象徴性
オノマトペのイメージ喚起力
幼児語としてのオノマトペ
3.オノマトペの表現効果
感覚的に伝える効果――料理、スポーツ、医療
臨場感を高める効果――会話が盛りあがり、読みが深まる
行動を促す効果――「しっかり」「きっちり」「どんどん」
人目を惹く効果――番組名、商品名
気持ちを伝える効果――漫画、歌詞

第4章 程度副詞――「『超』気持ちいい!」

1.「程度の副詞」の実態
「とても」はよく使われるのか
外国人にどんな「程度の副詞」を教えるか
2.「数量の副詞」のあいまいさ
「数量の副詞」の選び方
程度副詞の恣意性
3.「時間の副詞」の広がり
「頻度の副詞」と「時間の副詞」
「時間の副詞」の表現効果

第5章 予告副詞――「『ぜんぜん』面白くない……」

1.「呼応の副詞」の種類
「呼応の副詞」の特徴
七種類の「呼応の副詞」
2.「呼応の副詞」の規範意識
規範意識の個人差
規範意識の調査
3.「評価の副詞」の考え方
「評価の副詞」の種類と形
「評価の副詞」と「評価を表す副詞」

第6章 検討副詞 ――「『ぶっちゃけ』、年収いくら?」

1.「認定の副詞」と話し言葉との相性
話し言葉で多い「認定の副詞」
フィラーとして働く「認定の副詞」
聞き取りに役立つフィラー
外国人が使いにくい副詞――「やっぱり」9
相づちになる「なるほど」「たしかに」
思った以上の副詞――「けっこう」「案外」「意外と」
2.「限定の副詞」と取りだす感覚
「限定の副詞」のいろいろ
特立のポイント――「とくに」は語順が重要
3.「発話の副詞」
「何を言うか」ではなく「どう言うか」
「発話の副詞」の種類
「発話の副詞」の留意点――予告になっていない予告、本音のリスク

第7章 副詞と印象――「『一生懸命』のんびりしよう。」

1.類義副詞の使い分け
言葉選びの楽しみ――引き出しを増やし、文脈に合った副詞を探す
大人の和語副詞――センスよく、精度も高く
簡潔な漢語副詞――手垢のついていない表現で差をつける
「一」のつく副詞の活用
慣用句を使う
2.誤用の副詞
混乱の起きやすい副詞
よく考えるとおかしい副詞
3.心に響く副詞
うるっとくる副詞
アスリートの副詞
逆説の副詞

第8章 副詞と配慮――「『わざわざ』すみません。」

1.心遣いの副詞
感謝の気持ち――間接的に伝えることで効果が高まる
気持ちを強める
2.ハラスメントにつながる副詞
直接的な暴言
副詞による間接口撃
意外な一言で人は傷つく

第9章 副詞と文体――「『すごく』? 『とても』? 『きわめて』?」

1.話し言葉と書き言葉
副詞の文体差――選択を間違えると強い違和感が
漢語副詞の話し言葉化――和語よりもくだけた語感に
意味の希薄化――「ある意味」「逆に」「適当に」
畳語の副詞――「ほぼほぼ」「まだまだ」「ついつい」
2.副詞と俗語
短くなる語形――「都度」「結果」「原則」「究極」
偽悪副詞――「鬼」「くそ」「ど」「ばか」
副詞の力み――「いっつも」「とっても」「すんごく」

第10章 副詞と社会 ――「『せっかく』神様がいるのなら……」

1.異次元の副詞
「極限の強さ」を持つ人々
ライバルたちが藤井聡太を評するときの「ちょっと」
副詞に見る藤井聡太の「強さの秘密」
「いつの間にか」に示される異次元の強さ
2.政治の副詞
政府の「スタンスの副詞」
政治家の「ポーズの副詞」
マスメディアの副詞使用の問題点
3.方言と副詞
方言コスプレとしての方言副詞
方言副詞とものの見方――伝わる本音とサービス精神
全国区化する方言副詞――「知らんけど」「めっちゃ」「まるっと」

第11章 副詞と世代 ――「『本気(マジ)』? 『本気(ガチ)』?」

1.副詞の意味の変化
副詞の意味そのものの変化
副詞の語感の変化
副詞の用法の変化
品詞の転換
2.時代を映す副詞
新しい副詞の出現
副詞と時代

おわりに/【参考文献】/索引


以上、光文社新書『コミュ力は「副詞」で決まる』(石黒圭著)より一部を抜粋して公開しました。


◎内容

「『なるべく』『ちゃんと』やります」
       ↓↓↓
「『極力』『しっかり』取り組みます」

「気持ちを伝える」最強の助っ人、副詞
その効果的な使い方をマスターする!!

◇これも副詞です!

「ぶっちゃけ」=「率直に言うと」
「ワンチャン」=「ひょっとして」
「めっちゃ」=「たいへん」


【説 明】
副詞というと、わかりにくくて地味な品詞のイメージを持つ人が多いだろう。しかしそんな人でも、じつは日々の生活の中で、驚くほどたくさんの副詞を使っている。「めっちゃ」「やっぱり」「じつは」「なるほど」「まことに」「せっかく」「あいにく」「おかげさまで」等々……。名詞、動詞、形容詞のようにSVOCのいわゆる5文型を構成する要素とはならないが、
しかし副詞は単なる添え物ではない。書き手の気持ちをもっともストレートに伝える要素であり、読者は副詞に敏感に反応するのである。その選択に成功していれば共感を得られるが、失敗するとそっぽを向かれるだろう。
本書ではコミュニケーション向上の鍵となる副詞について、その分類と機能を知るとともに、使い方の勘所を、社会・文化的背景も交えて解説する。
もう、「品詞のゴミ箱」なんて言わせない!

光文社新書『コミュ力は「副詞」で決まる』(石黒圭著)は、全国の書店、オンライン書店にて好評発売中です。電子版もあります。

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【著者プロフィール】

石黒圭(いしぐろけい)
1969年大阪府生まれ。神奈川県出身。国立国語研究所教授・共同利用推進センター長、一橋大学大学院言語社会研究科連携教授。一橋大学社会学部卒業。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専門は文章論。著書に文章は接続詞で決まる』『「読む」技術』『日本語は「空気」が決める』『語彙力を鍛える』『段落論(以上、光文社新書)、『よくわかる文章表現の技術Ⅰ[新版]―表現・表記編―』『同Ⅱ[新版]―文章構成編―』『同Ⅲ―文法編―』『同Ⅳ―発想編―』『同Ⅴ―文体編―』(以上、明治書院)、『「予測」で読解に強くなる!』(ちくまプリマー新書)、『この1冊できちんと書ける! 論文・レポートの基本』(日本実業出版社)、『大人のための言い換え力』(NHK出版新書)など多数。


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