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ChatGPTがすべてのサービスの窓口になるかも――ChatGPTの基礎知識⑮by岡嶋裕史

彗星のごとく現れ、良くも悪くも話題を独占しているChatGPT。新たな産業革命という人もいれば、政府当局が規制に乗り出すという報道もあります。いったい何がすごくて、何が危険なのか? 我々の生活を一変させる可能性を秘めているのか? ITのわかりやすい解説に定評のある岡嶋裕史さん(中央大学国際情報学部教授、政策総合文化研究所所長)にかみ砕いていただきます。ちょっと乗り遅れちゃったな、という方も、本連載でキャッチアップできるはず。お楽しみに! そして本連載に大幅加筆をした『ChatGPTの全貌 何がすごくて、何が危険なのか?』(光文社新書)の刊行が8月18日に決まりました! 下記よりご予約ください。

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ChatGPTがすべてのサービスの窓口になるかも――ChatGPTの基礎知識⑮by岡嶋裕史


 危険な技術というのはある。

 物理的なやつとか、化学的なやつなどが典型的だ。

 GPTシリーズは音速を出したり、放射線をまき散らすタイプの技術ではない。なのになぜそんなに危険視されるのだろう?

AIの統合

 一つには統合が期待されるからだ。

 以前の回でも触れたように、現在の技術は弱いAIしか生み出せていない。人間のように汎用性の高い能力を持つ単体のAI(AGI、強いAI)はしばらく無理である。描画AI、法務AI、会計AIなどがその分野での力を磨くに留まるだろう。

 賞賛を浴びるGPT-4 ですら言語能力のAIでしかない。しかし、言語は人間がそうしているように、他のさまざまな能力の核になり、互いを結ぶ役目を担える。多くの「AI」を標榜するシステムが、そのインタフェースとして言語を受け付けているのが良例である。

 描画AIも法務AIも言語によって指示を受け、その言語の背後にいる人間の望む振る舞いをするのだ。

 これらを結ぶインタフェースが言語であるならば、GPTシリーズ(言語AI)は他のあまたのAIを操れることになる(図3‐1)。

 強いAIを作るのは無理でも、複数の分野の弱いAIを言語AIが統合して「中くらいのAI」を作ることは可能になるかもしれない。この「中くらいのAI」は私が2021年の年頭に出版した書籍に記した言い方だが、その予測が現実味を帯びてきた。

 この場合、言語AIの重要性は極めて大きくなる。
 描画AIや法務AIに瑕疵(かし)がなくても、それを人間が直接使うのではなく、GPTを経由して利用するのであれば、GPTに瑕疵があると描画AIや法務AIの成果物がおかしくなる。車に瑕疵がなくても、運転する人が無茶をすれば車はがけから落ちるだろうし、包丁に瑕疵がなくても、使う人が殺意を抱いていれば凶器になる。それと同じである。

権力の集中

 また、GPTに権力が集まることもあるだろう。

 人間にとって描画AIの使い方(第2章で実演した)を覚え、法務AIの使い方を理解し、会計AIの使い方を諳(そら)んじることは苦痛である。やりたくない。

 だから、手近にあるGPTに自然言語で指示を発し、GPTに仲介してもらって個々のAIを使う方法は早晩普及するだろう。

 描画AIを操るプロンプトを、少なくともへたくそな人間よりは、ずっと上手に生成できることは以前に示した通りである。

あまたのサービスの結節点に

 今はAIの使い方自体が揺籃(ようらん)期にあるため、ChatGPT にプロンプトを生成させて、それをコピーしてStable Diffusion へペーストするという、非生産的な手順を踏む必要があったが、いずれAPIが整備されればChatGPT とStable Diffusion は直接つながる。

 APIを整備するのが面倒であれば、互いに音声出力と音声入力に対応してもよい。今文字を使っているのを発声したり(ChatGPT 側)、認識したり(Stable Diffusion 側)するだけである。音声出力の技術も、音声入力から文字起こしする技術もすでに確立されている。

 その場合、GPTはあまたのサービスの結節点になる。

 結節点は富と力と争いを生むのだ。交通の要衝と同じだ。覇権が争われ、勝ち残った者に絶大な富と力をもたらし、敗者には搾取(さくしゅ)構造が下賜(かし)される。

 仮にGPTがこの立場を獲得したとして、A社をいじめたくなったらこう囁けばいい。

「あれえ? A社のサービスとはうまくつながらないなあ。プロトコルの解釈に相違があるのかな。安定した接続が難しいので、サポート対象から外すね」

 GPTを経由せずに直接A社のサービスを使ってくれる忠誠度の高い利用者がたくさんいればいいが、利便性の前に忠誠心など風前の灯火である。

 グーグルのクロームで表示できないWebサイトに意味がないのと同様に、GPTと連携できないAIサービスは存在していないのと等価になってしまうかもしれない。(続く)

岡嶋裕史(おかじまゆうし)
1972年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。富士総合研究所勤務、関東学院大学経済学部准教授・情報科学センター所長を経て、現在、中央大学国際情報学部教授、政策文化総合研究所所長。『ジオン軍の失敗』『ジオン軍の遺産』(以上、角川コミック・エース)、『ポスト・モバイル』(新潮新書)、『ハッカーの手口』(PHP新書)、『思考からの逃走』『実況! ビジネス力養成講義 プログラミング/システム』(以上、日本経済新聞出版)、『構造化するウェブ』『ブロックチェーン』『5G』(以上、講談社ブルーバックス)、『数式を使わないデータマイニング入門』『アップル、グーグル、マイクロソフト』『個人情報ダダ漏れです!』『プログラミング教育はいらない』『大学教授、発達障害の子を育てる』『メタバースとは何か』『Web3とは何か』(以上、光文社新書)など著書多数。

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