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缶詰温泉|パリッコの「つつまし酒」#174

1000円ぽっきりシリーズ

 飲み友達で、飲食関係にめちゃくちゃ強いライター、泡☆盛子さんに「1000円ぽっきり」シリーズの存在を教えてもらいました。
 なんでも、インターネット通販サイトの「楽天市場」にそういうコーナーがあって、飲食物を中心としたお得なセット商品が、どれも送料込みの1000円ぽっきりというお得な価格で販売されているらしいんです。そこで楽天市場へ行って、「1000円ぽっきり」というキーワードで検索してみたところ、その規模、ちょっと想像を絶してましたね……。なんと検索の結果、ヒットした商品数が26328件!(2022年8月17日時点)
 3種から選べる焼き海苔50枚、訳あり半生さぬきうどん1kg、国産ドライフルーツお試し食べ比べ7種セット、北海道銘菓詰合せセット、とんこつラーメンスープ計16食ぶん詰め合わせ、などなど……。ページをめくってもめくっても、魅力的な商品が表示され続けるんです。
 こりゃあ楽しいやと言うことで半日ほどぼーっと眺め、よし、試しにひとつ買ってみんべ、と、僕が選んだのが「【おつまみ2種オマケ!】1000円ポッキリ 送料無料 選べる おつまみ缶詰 5缶セット」!
 いいでしょう? 響きからして。具体的にどういう内容かというとですね、まず、下記の缶詰のなかから好きなものを5種類選べます。

・オイルサーディン
・いわし照り煮
・いわし生姜煮
・いわし蒲焼
・さば照焼
・ベビーホタテ水煮
・牡蠣燻製
・赤貝味付
・あさり水煮

 酒飲み的にはやはり、下4つの“貝もの”を中心にいきたいところ。そこで僕が選んだのは、ベビーホタテ水煮、牡蠣燻製、赤貝味付、あさり水煮、そしてオイルサーディンの5種類。
 ただ、ここからがさらにすごい! 商品名に【おつまみ2種オマケ!】とありましたよね。なんと太っ腹なことに、おまけとしてまず、缶詰をもうひとつ追加で選べるんです。というわけでここは、牡蠣燻製をチョイス。さらにさらに、おまけのふたつめ。なぜそれなのかはよくわからないんですが、「おつまみコーン」というスナックもひと袋ついてきて、これも、塩味、チーズ味、バーベキュー味の3種から選べる。ここはチーズ味チョイス。
 最終的に、ベビーホタテ、赤貝、あさり、オイルサーディン、牡蠣×2で、缶詰が6個。それにチーズ味のコーンスナックがついて、送料込みで1000円ぽっきり!

3日ほどで到着!

 そりゃあさ、産地や製法にものすごくこだわった高級缶詰というわけでもなさそうだし、自分でスーパーに買いに行けば、同じようなものを同じような値段で、いや、もしかしたらもう少し安く手にいれることだってできるかもしれません。
 だけど、1000円ぽっきりという値段でおまけまでついてきて、自分の好きな缶詰を選んで組み立てられて、しかも、あさりやベビーホタテの水煮なんていう、ふだんなら自分から買わないような缶詰を食べてみる機会にもなって、そのセットが届くのをわくわく待って……という、体験を込みで買うわけですよね。こういうものは。届くまでの数日間が、ほんのすこしだけわくわくの日々になるというか。
 というわけで、今夜は久しぶりに「缶詰晩酌」としゃれこむか〜!

ホットプレートだ!

 で、だ。この缶詰たちをどうやってつまみにしましょうか。すべてをザバーっとざるにあけて、ごはん、玉子と一緒に一気に炒めて、具沢山チャーハンに! なんて食べかたは、もちろん言語道断。極力ちみちみとつまんで、少しでも長くお酒を飲みたい。ただ、開けてそのままってのも味気ないよな。せっかくの缶詰たちだもの、ちょいとひと工夫してやりたい。
 となると、「缶ベキュー」かな。缶ベキューとは、これまた飲み友達のライター、スズキナオさんに教わった缶詰の食べかたで、アウトドア用の小型バーナーで、フタを開けた缶詰をぐつぐつと直接炙りながら食べるというもの。ポイントは面倒がらずに薬味などを用意することで、ちょっとしたアウトドア感が楽しく、実際にやってみると、本家バーベキューにひけをとらないほどに楽しいんですよね。
 ただ最近、缶詰の直火調理はメーカーが推奨していないという話も聞きました。缶ベキューはあくまで、アウトドアで荷物を最小限にしつつ、ミニマムに楽しむ自己責任の遊びであって、自宅であれこれ缶詰を食べるのには向かないか。
 さて、そこで思いつきました。思いついてしまったんです。ホットプレートだ! ホットプレートにならば、缶ベキューと違って数個の缶詰を並べて一度に温めることができるんじゃないか? もちろん、そのまま温めれば直火になってしまう。けれどもそこに、お湯を張れば……? そう、ほとんどのメーカーが、缶詰の温めかたとして「湯せん」は禁止していないんですよね。
 これ、缶詰飲みの方法としてけっこう革新的なんじゃないでしょうか? 我ながら。うまくいったらすごいぞ!

こういうことですね

 はい。さっそく試してみましょうよ。
 まずはひとり用の小型ホットプレートに、オイルサーディン、牡蠣燻製、ベビーホタテ水煮の缶詰を並べてみました。そうしたら周囲に、缶詰の高さの半分くらいまで水を注いで、スイッチオン!
 初めてなので、どのくらいの時間で温まるか、そもそもうまく温まるか、まだ未知数。しばらくは、サービスでついてきたコーンスナック、あれをつまみながら気長に待つことにしましょう。

コーンスナックぽりぽり

 これ、勝手にジャイアントコーンだと思い込んでたんですが、いわゆる普通のとうもろこしをカリカリに揚げたもののようですね。初めて食べるな、こういうのは。ちょっとおかきみたいな素朴さで、いいつまみになります。

湧出! 缶詰温泉

 なんてことをしていると、予想してたよりもずっと早く、5分もしないうちに、プレート内のお湯が湧いてぐつぐつしだしました。このへんは、プレートの性能や水の量にもよるんでしょうが。

ぐつぐつ

 そこで試しにひとつ、牡蠣の燻製を食べてみます。すると、おー! あっつあっつだ! こりゃあいい! 良すぎる!

温めることで風味が増すよね

 と、しばらくはプレーンな状態のあったか缶詰をつまみに、チューハイをぐびぐび。いや、もう確信しました。この食べかた、超楽しい! と。まるで缶詰たちが仲良く温泉につかっているように見えるから、そうだな、「缶詰温泉」と呼ぶのはどうでしょう!?

もちろん味変も用意して

 缶ベキューでもそうですが、薬味や調味料による味変は、缶詰飲みの満足度を上げる大きなポイント。というわけで、各缶詰を1/3ずつくらい味わったら、オイルサーディンに唐辛子、牡蠣に黒胡椒、ベビーホタテにマヨ七味醤油&刻みねぎを、それぞれたっぷりトッピング。
 あぁ、これまた酒がすすんじゃうな〜。どれもいいんだけど、特にベビーホタテ! 貝の旨味たっぷりのスープとマヨ七味醤油の味が融合し、それを吸ったとろとろねぎのうまいこと! これ、ねぎさえ追加し続ければ延々と飲めるぞ。

さらに缶詰を追加

 初めの3缶の中身をひととおりさらってしまったところで、缶詰飲みはまだまだ続きます。
 食材がなくなりオイルだけになったオイルサーディン缶に、ほんの少し残っていた牡蠣、そして新しく開けたあさりの水煮、さらに黒胡椒とニンニクチューブをたっぷり加えてしまいましょう。イメージは、牡蠣とあさりの「アヒージョ」。
 もちろん、超うまいスープだけになったベビーホタテ缶のほうにも、残ったあさりを入れて、さらに追いねぎもして……。

あ〜、たまらん!

 なんてこった、ず〜っと楽しいぞ、缶詰温泉。こうなったらもう、最後の1種類、赤貝味付もいっちゃうか。
 ……と、赤貝缶詰を温めて七味をふる。ぷりぷり肉厚の身が、甘辛こってり味のたれをまとって、これまたたまらんな〜。というか、ここにきてぐっと和風味のおつまみ。がぜん、あれが欲しいな〜。あれとはつまりあれですよ、日本酒!

カップ酒どぼ〜ん

 またまた思いついてしまったんですよね。そういえば冷蔵庫に、しばらくしまいっぱなしにしちゃってる「ワンカップ大関」があった。あれを持ってきて……ん? そのままこの温泉に浸しちゃえば、自動的にお燗までつけられちゃうんじゃないの? と。
 えぇ、はたしてその作戦が、大成功してしまいましてね。ものの3分くらいで、ちょうどいい〜お燗具合に。あちあち言いながら、温泉から直接取り出しては飲み、ちょっと温まりすぎてきたら、一時的にコースターに避難させて。なんてことをしながら飲むのがまた楽しい。

ポー……

 最終的に、こっちまで風呂上がりのようにポーッといい気持ちになってしまいまして。いや、いいお湯でございました。


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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