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返品率にかんする提言―Z世代書店主の読書論(書店論)③by大森皓太

2022年9月1日に東京・三鷹にオープンした独立系書店のUNITÉ(ユニテ)。お洒落な店構え、ユニークな品揃え、美味しいコーヒー、TwitterやYouTubeを駆使した情報発信やイベント開催で大いに注目を集めています。特筆すべきは店主の大森さんがまだ20代であること。一般的に本を読まない・買わないといわれる世代でありながら、なぜ書店を始めたのか? 勝算はあるのか? 今の出版業界に対する提言等々、本連載で舌鋒鋭く語っていただきます。

過去の連載はこちら。

返品率にかんする提言―Z世代書店主の読書論(書店論)③by大森皓太

仁義ある協働の道を探る

 さて今回は返品率について考えてみたい。返品率とは、取次会社から書店に送品された書籍に対して書店が取次会社に返品した書籍の割合を指す。それが今、30%後半から40%を超えると言われている。この割合が他の小売業に比べて高いのか低いのかは不明であるが、書店をやっている身としては高く、無駄が多いと感じる。率直に言おう。その無駄の皺寄せが返品率の低い買切ベースの店(私の店だと2%未満)に押し寄せているので、はやくどうにかしてほしいのだ。

 一方で、もし自分が委託ベースで返品のできる書店だったらと考える。いや実際に勤務した経験があるのでわかるのだが、返品率など気にはしない。掛け率が78%、つまり利益率が22%程度という薄利なのだから、返品は当然の権利だと訴える。それにそもそも配本制度によって書店側が注文していない書籍も入荷してくるのだから返品率云々の前に要らない書籍を送ってくるなとも主張できる(とはいえ、そういう条件で契約を結んでいるのだから書店側に責任はあると思うが)。反対に、出版社からするとこの返品率なのだからその掛け率で十分でしょうと反論したいだろうし、仮に私が出版社に勤めていればそう思う。このように返品率と掛け率には仁義なき戦いがあるのだが、そろそろ真剣に仁義ある協働の道を探る必要があるだろう。

適正な返品率は?

 あらかじめ適正な返品率はどの程度かという点について私の見解を述べておくと、それは規模に応じて中大規模の書店(要するに前回分類した委託ベースの書店)であれば20%〜30%、小規模の書店(買切ベースの書店)であれば10%〜15%あたりが現実的かつ妥当ではないかと考えている。
この割合からすると、やはり現状の40%近くの返品率というのはモラルハザードをきたしていると言え(78%の掛け率も同様にモラルハザード的ではあるが)、その解決策のひとつが「買切」という選択肢の登場であったわけである。しかし、前回も述べた通り、やはり現状では買切は書店側にリスクの大きい条件であり、読者と書籍の接点が少なくなるという観点からも委託の条件で多様な書籍を仕入れられる方が望ましい(またそれは新たな書き手を発掘し育てることにもつながるだろう。買切では、これは売れるだろうと確実性の高い書籍を優先的に仕入れることになるので先細りする恐れがある)。

返品率に応じた変動掛け率制

 であるとすると、目指すべきはモラルハザード的な委託か返品不可の買切という両極端ではないその中間、つまり返品率に応じた変動掛け率制とでもいうべきものだ。どのくらいの返品率に対してどのくらいの掛け率を定めるのかというのは、取引の規模や個々の書店と取次会社との関係性、そして出版社ごとに個別に条件を精査した上で合意するべき点であるので一概には言えず一例でしかないが、「返品率10%で掛け率65%」という水準が一つの目標になるのではないかと考えている。そしてこれもあくまで一例だが、その目安と現状の「返品率40%で利益率78%」という点を数直線に結び、「返品率30%で掛け率74%」、「返品率20%で掛け率70%」など段階的な取り決めがなされるべきで、そうすれば書店の利益率改善への可能性が開けてモラルハザードの抑止になりうるであろう。また返品率に応じた掛け率変動のシステムくらいは簡単に設計できると思うので、是非具体的に取り組んでいただきたい。

書店主導の新たな取り組み

 実は今年に入って高返品率・低利益率問題について具体的な動きがあった。それは2023年6月23日に発表された「紀伊國屋書店×カルチュア・コンビニエンス・クラブ×日本出版販売 書店主導の出版流通改革及びその実現を支える合弁会社設立に向けて協議を開始」というものだ。

 その主眼は「書店と出版社が販売・返品をコミットしながら送品数を決定する、新たな直仕入スキームの構築」という点にあり、AIを活用しながら書店が主体的かつ効率的に書籍を発注し、その販売について責任ももつことで返品率の削減を図る、そして書店側の利益率が30%以上となる取引を増やすという内容である。要するに今回述べたようなことの実現に向けて大手書店3社がすでに動き出していたということで、この枠組みが実現すれば書店の景色はガラッと変わるであろう。そしてそれが私のような零細書店主ではなく、大手書店から働きかけがなされるという点も非常に大きい。3社が運営する1000店舗という規模は出版社の無視しうるものではなく実効性が高いものと思われる。なにより「より豊かな未来を築いていくために、私たち3社の志に賛同いただいた他書店様も合流できる、オープンな仕組みを目指していきます」とあるので、是非仲間に入れていただきたい。

 さて、今回は返品率の問題についてモラルハザードとなっている現状とその解決策を述べ、その解決に向けた大手書店の取り組みを紹介した。しかし、その実現はまだ少し先になりそうで、私の店のような小規模な書店はコツコツと利益率の改善に向けて努力をしないといけない。なので、次回はそろそろ私の店の話をしたいと思う。(続く)

大森皓太(おおもり・こうた)
1995年兵庫県生まれ。UNITÉ店主。
大学生のときに書店と出版社でアルバイトを経験、その後一般財団法人出版文化産業振興財団にて読書推進に携わる。2022年9月に東京都三鷹市にて「UNITÉ(ユニテ)」を開店し現在に至る。2023年に新店舗開業予定。


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