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エンタメ小説家の失敗学 by平山瑞穂

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本連載は小説家の平山瑞穂さんが、自らの身に起こったことを赤裸々に書き綴ったものです。 平山さんは、2004年に『ラス・マンチャス通信』で第16回日本ファンタジーノベル大賞を受賞… もっと読む
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2022年4月の記事一覧

ライトノベルの誘惑――エンタメ小説家の失敗学10 by平山瑞穂

ライトノベルの誘惑――エンタメ小説家の失敗学10 by平山瑞穂

第2章 功を焦ってはならない Ⅳライトノベルの誘惑

 功を焦り、下手を打ってしまったという点で、この『シュガーな俺』の発表はひとつの失敗を物語るケースといえるが、寸前で踏みとどまった経験も、僕にはある。それについても、この章で併せて明かしておこう。

 時期的には『シュガーな俺』が出た翌年くらいのことなのだが、僕はある編集者から執筆の打診を受けていた。その人のことは、仮にY氏と呼んでおこう。実は

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「カミングアウト損」――エンタメ小説家の失敗学9 by平山瑞穂

「カミングアウト損」――エンタメ小説家の失敗学9 by平山瑞穂

第2章 功を焦ってはならない Ⅲ「カミングアウト損」

「来た!」と思った。今度こそ波が来たと思ったのだ。糖尿病であることを明かすことには一定の抵抗があったが、これで作家として名を上げることができるなら、代償としては安いものだ。そんな思いで僕は重版の知らせを待ち受けていたのだが、肝腎の売れ行きのほうはなぜかあっという間に失速し、メディアであれだけ派手に取りざたされていたことが夢だったかのように思い

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驚くほどよかったメディアの反応――エンタメ小説家の失敗学8 by平山瑞穂

驚くほどよかったメディアの反応――エンタメ小説家の失敗学8 by平山瑞穂

第2章 功を焦ってはならない Ⅱブログ形式での連載という試み

 結果として、二〇〇六年一一月、『シュガーな俺』は、僕にとって三作目の小説、そして初のオートフィクションとして、世界文化社から刊行された。

 原型が私的なエッセイだっただけあって、この小説も、僕自身の個人的な体験に大幅に依拠した内容となった。語り手・片瀬恭一は、ある意味で僕自身とイコールといってもよく、劇中では、糖尿病に罹患してから

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功を焦ってはならない――エンタメ小説家の失敗学7 by平山瑞穂

功を焦ってはならない――エンタメ小説家の失敗学7 by平山瑞穂

過去の連載はこちら。

平山さんの最新刊です。

第2章 功を焦ってはならない Ⅰ
 二作目の『忘れないと誓ったぼくがいた』のスマッシュヒットを受けて起稿した、新潮社での三作目に当たる『冥王星パーティ』の原稿がほぼまとまりかけていた頃のことだったと思うが、前章で述べた担当Gさんに、ある忠告を施されたことをよく覚えている。

『冥王星パーティ』から改題。

 それは、同じ日本ファンタジーノベル大賞を

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