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無限の可能性!ホットサンドメーカークッキング|パリッコの「つつまし酒」#65

人生は辛い。未来への不安は消えない。世の中って甘くない。
けれども、そんな日々の中にだって「幸せ」は存在する。
いつでもどこでも、美味しいお酒とつまみがあればいい――。
混迷極まる令和の飲酒シーンに、颯爽と登場した酒場ライター・パリッコが、「お酒にまつわる、自分だけの、つつましくも幸せな時間」について丹念に紡いだエッセイ、noteで再始動! 
そろそろ飲みたくなる、毎週金曜日だいたい17時、更新です。

衝撃の出会いからはや半年

 一向に飽きる気配がありません。
 えぇ、お察しのとおり、「ホットサンドメーカー」の話です。きっかけは昨年の12月、Twitterのタイムラインで、フォローしている人の誰かがリツイートしているのを偶然目にした、リロ氏さんという方のツイートでした。ホットサンドメーカーって本来、その名のとおり、パンで具を挟んで焼き固めた「ホットサンド」を作るための調理器具ですよね。ところがリロ氏さんは、それで卵とパン粉をまぶした豚肉を焼いて、とんかつ風のものを作っていた。超~ハイカロリーそうなんだけど、めちゃくちゃ美味しそう! 気になってさっそくリロ氏さんをフォローしたところ、そのとんかつにとどまらず、連日ヤバい料理を生みだしては、ありがたくもその動画をアップしてくれてるんですね。つまり、ホットサンドメーカーを、ホットサンドを作るための道具ではなく、あれこれ使える調理器具として、利用し倒しているというわけ。
 もうね、即おんなじやつを買いましたよ。それからというもの、一向に飽きる気配なく、定期的にホットサンドメーカーを使って晩酌のつまみを作っていると、こういうわけなんです。

 まぁ僕は、リロ氏のような、ホットサンドメーカーの神に選ばれし天才ではありません。誰でも思いつくようなごくありふれた使いかたしかしていない。……すいません、そろそろ「ホットサンドメーカー」と何度も書くのに疲れてきたんで、ここからは「HSM」と略させてください。で、えーと、そう。天才ではないんだけれども、それでも日々楽しくHSMを使っている。使えば使うほど、利点だらけのその良さが身にしみてくるんですよね。先にたったひとつの欠点をお伝えしておくとすれば、構造が若干複雑なので、ちょっとだけ洗いづらいくらいかな。

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リロ氏がやっていたのをまねした、ハンバーガーのバター焼き。味はハンバーガーなのにサクッとクリスピー

利点が多すぎる

 それじゃあHSMの利点、今から思いつく限りあげてみますね。例えば、牛のホルモンをシンプルに塩味で焼いていくと仮定しましょう。牛ホルモンって脂が多いので、フライパンやホットプレートで焼くと、べちゃっとなりがちですよね。理想としては脂を落としながらの網焼きなんかが望ましい。けれども、煙問題もあって、家庭で気軽にやるのはなかなかハードルが高い。ところがHSMならですよ。まず、焼いている途中何度でも、HSMを水平を保ったままシンクまで持っていって、そこで縦にすると、隙間から余分な脂を切ることができるんですね! 加えて、フタをして焼くので蒸し焼きに状態になり、食材全体にまんべんなく火が通ってふっくらと仕上がる。それから、基本弱火でじっくりと火を通していくので、焦げる心配が少ない。途中でパカッと開けて、なかの状態を何度でも確認できるので、さらに失敗率が減る。必要であれば仕上げに強火にし、隙間からシューっと煙が出だしたら約15秒。それを両面やると、表面に美味しそうな焦げ目をつけることもできる。そしてそして、基本密閉状態で焼くので、脂はねがなく、キッチンが汚れない。しかもですよ。これはモデルによるので、すべてのHSMがそうだというわけではないんですが、僕のHSMは、2枚の鉄板の連結部分をずらすと簡単に外れるようになっているんですね。なので、焼きあがったら切り離し、食卓に鍋敷きかなんかを用意しておいて、そのまま乗せちゃう。これが、ちょっとしたアウトドア気分で楽しいんですよね~。どうです? 買うしかないって気になってきません? HSM。

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鶏皮、ネギ、ご飯を醤油味に炒め、玉子でとじた謎の創作料理

HSMならなんと、ホットサンドも作れる!

 あとは自由な発想でなんでも焼いてみたらいいわけですよ。これが本当に楽しい!
 例えばさっき例に出した牛ホルモン。そこに、ざく切りのキャベツ、ニラ、ニンニク、鷹の爪も加えて焼く。全体に火が通ったらさっとだし醤油を回しかけ、もういっぺんフタをしてシャカシャカと降り、醤油を全体にいきわたらせる。最後に強火にして焦げ目をつける。これで、なんだろう、インスピレーションだけで作ったのでメニュー名がないんですが、強いて言えば「もつ鍋風牛ホルモン焼き」の完成ですよ。ビールにもう最高!

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気軽に好物のもつ鍋っぽい味が楽しめる

「野菜の肉巻き」なんてのは、なんだか面倒そうで今まで一度も作ったことがありませんでした。が、インゲンやらアスパラをてきとうに豚の薄切り肉で巻き、塩をふってHSMに並べ、弱火にかけておけば、勝手にふっくらジューシーに焼きあがる。
 僕の大定番は、スーパーで安定して安い鶏の手羽先や手羽元。これも塩コショウやてきとうなスパイスなんかを表面にまぶして焼けば、ほっといてもこんがりチキンができてしまう。毎日でもいいくらい好きですね。

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てきとうスパイシーチキン

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焼鮭だってこのとおり!

 それから、串焼きもの。つまり焼鳥とかやきとん。コロナウィルスによる外出自粛期間中、個人的にもっとも恋しくなった味でもあるんですが、これもHSMなら気軽にできます。方法は、串に刺した肉をHSMに並べて焼くだけ。

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見よう見まねで串打ちした鶏肉をこんなふうに並べて

 このとき、はみ出た串に火が当たると焦げてしまうので、そこにだけ注意が必要ですが、それ以外は他の食材を焼くのとまったく一緒。

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こちらはやきとん。自宅で酒場欲がほんの少しだけ満たせて嬉しかった

 そういえば、HSMを使いたすぎて、一週間毎日昼ご飯を焼き固めるなんてこともしたなぁ。その時いちばん美味しかったのはカレーライスで、上面だけではなく表面全体がカリッと香ばしい、世にも不思議な焼きカレーになって絶品でした。鶏肉を焼いたあと、脂がのこったHSMでマッシュルームを焼く「なんちゃってアヒージョ」も楽しい。そうそう、突然ピザが食べたくなって、残っていたパンの耳の上に玉ねぎ、ピザソース、チーズを乗せて焼いてみたら、ずいぶんピザ欲が満たされた夜もありました。
 考えれば考えるほどに、可能性は無限大。こんなに楽しい調理器具、なかなかないですよ。あ~、書いてたら使いたくてたまらなくなってきたぞ。今夜は何を作ろうかな~!

 そういえば余談なのですが、HSMを買って3ヶ月ほど経った頃だったかな。「そういえばこれって、ホットサンドを作るための道具なんだよな……」と思いだし、家にあったチルドハンバーグとキャベツ、チーズ、ピクルスをパンに挟んで、焼いてみたことがあったんです。そしたらこれが、自分で作っておきながらあまりにも美味しすぎ! 思わずひとりで大爆笑しちゃいましたよ。

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ホットサンドってこんなに美味しいものなんだ!
パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。著書に『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)など。Twitter @paricco


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