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【66位】ブッカー・T&ザ・MGズの1曲―職人の葱グルーヴが、ソウルの鯔背な星になる

「グリーン・オニオンズ」ブッカー・T&ザ・MGズ(1962年8月/Stax/米)

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Genre: Soul, Instrumental Rock
Green Onions - Booker T. and the M.G.'s (Aug. 62) Stax, US
(Booker T. Jones • Steve Cropper • Lewie Steinberg • Al Jackson Jr.) Produced by Booker T. Jones, Steve Cropper, Lewie Steinberg and Al Jackson Jr.
(RS 183 / NME 169) 318 + 332 = 650

史上最も有名なソウルの――あるいは、広義のロックの――インストゥルメンタル・ナンバーと呼ばれる1曲が、これだ。ハモンドM3オルガンのなまめかしいグルーヴに、素早く切り込んでくるフェンダー・テレキャスターの稲妻フレーズ……12小節のブルースがワルい響きのダンス・チューンに転生して、60年代初頭の人々を踊らせた。

この当時、原型が一気に形作られたソウル音楽の世界の一画、いわゆる「メンフィス・ソウル」「サザン・ソウル」と称されたサブジャンル(もしくは流派)を背負って立っていたのが、彼ら4人組だった。当初17歳だったキーボーディストのブッカー・T・ジョーンズと、20歳だったギタリストのスティーヴ・クロッパーを擁するバンドは、メンフィスを代表する名門となるスタックス・レコードのハウス・バンドとして、多くのアーティストのバッキングをつとめた。この時期だから当然そこには、オーティス・レディングやウィルソン・ピケットらを筆頭に、ものすごい顔ぶれがいた。つまり史上屈指の「超高所の現場」にて、日々身体を張っている若き職人たちだったわけだ。

そんな彼らが、ある種肩の力を抜いて「自分らの感じ」でキメてみたら、大化けしてしまったのがこの曲だ。当初は「ビヘイヴ・ユアセルフ」のB面曲として発表したのだが、評判がいいので両サイドを引っくり返して再リリースしたところ、ビルボードHOT100で3位、R&Bチャートで1位を奪取。日本語で言うと「葱」のグルーヴが、予想外の大ヒットを記録する。この曲を収録した同名アルバムもビルボード33位と健闘した。

面白いのがUKでの動きで、全英ランキングでは最高位7位、12週にわたってチャート内に留まったのだが――なんとこれは、79年12月から80年1月にかけての出来事だった。映画『さらば青春の光(原題:Quadrophenia)』のサウンドトラックに使われたからだ。ザ・フーの同名ロック・オペラ・アルバムにもとづいて、60年代UKのモッズ少年・ジミーの彷徨を描いた同作の、ブライトンのクラブでのシーンでこの曲が流れた。

2代目ベーシストのドナルド・"ダック"・ダンとクロッパーが、ブルース・ブラザーズ・バンドに参加、映画にも出演していたことをご記憶の人も多いはずだ。「タイム・イズ・タイト」や「ソウル・リンボー」、ヒップホップDJのクラシックでもある「メルティング・ポット」……などなどものちに世に送り出す名バンドが、その鯔背なかっこよさを、直接的に世に認めさせた第一歩が、いきなりのこの、大名曲だった。

(次回は65位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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