見出し画像

陰陽道から見る日本人の決定論と自由意志―僕という心理実験13 妹尾武治

トップの写真:ビッグバン直後に誕生した最初の分子「水素化ヘリウムイオン」が発見された惑星状星雲NCG 7027 © Hubble/NASA/ESA/Judy Schmid

妹尾武治
作家。
1979年生まれ。千葉県出身、現在は福岡市在住。
2002年、東京大学文学部卒業。
こころについての作品に従事。
2021年3月『未来は決まっており、自分の意志など存在しない。~心理学的決定論〜』を刊行。
他の著書に『おどろきの心理学』『売れる広告7つの法則』『漫画 人間とは何か? What is Man』(コラム執筆)など。

過去の連載はこちら。

第2章 日本社会と決定論⑤

なぜ占いや血液型性格診断を信じるのか?

古来より、日本人は決定論と自由意志を絶妙なバランスでハイブリッドして来た。平安時代には、陰陽道で「方違え」のように、日によって不吉な方向に歩かないなどの、不運を避けるための様々なルールがあった。

怨霊や鬼の仕業で、不吉な運命はある程度事前に決まっているけれども、種々の対応するお祓いと技で、それを自由意志によって避ける努力が可能だとするのである。

この自由意志と決定論の微妙なバランスは、実は平安時代に限らず現代の日本人の体感的なものとほとんど同一であるとも言える。

多くの人は、自由意志を信じているにもかかわらず、占いを信じたり、血液型性格診断に科学的エビデンスが無いと心理学者が何度も論文で報告しても、多くの人はそれ(A型は神経質、B型は変人でO型はおおらかだ)を信じ続けている(詳細についてはこれまでの著作をお読み頂きたい)。生まれや親など決定論的な「定まった運命」というものを信じているし、「信じたい」のだ。

神社では大人しく礼節をもって振る舞う。それは「バチが当たる」と思うからだ。仏滅には結婚式が極端に少ないし、大安に宝くじが大量に買われる。日本人の心の源流には、陰陽道時代と同じような決定論と自由意志のハイブリッドな価値観がある。

人々の不安に応えるものとして、過去には宗教がその役割を果たした。現在、宗教の権威は相対的に下がり、その不足分を補うものとして科学が台頭している。心理学的決定論は、新しい時代の科学風宗教思想と言えるのかもしれない。

飛鳥時代、安部氏は中国からの先進技術を扱う一族として活躍する。中国で発達した占いの技術もその中にあり、当時は最先端の「科学」だった。

時代が流れ、平安時代にこの一族の中から陰陽師、安倍晴明が生まれる。彼は『占事略决』という本を書いた。彼以前は、陰陽道は加茂家という家が最高権威であり、彼らがその方法論を管理しそれらを門外不出としていた。しかし安倍晴明は、その秘技を本という形で、世間に公開してしまったのである。

それ以前の彼は40歳にもなっても、加茂家の使い走りのような状態だった。一念発起して本を出したことで人気を博し、「蔵人所陰陽師」という当時の最高権威である、一条天皇の側近になった。

安倍晴明がやったことは、今で言えば中田敦彦のYouTube大学のような、知の既存利権構造の打破と同じであったと私は思う。彼の動画は賛否が多いが、100万人以上もの人が新しい学びとして受容しているのは、揺るぎのない事実である。彼の日々継続した努力は凄い。

「1日3ミリバス停ずらす。」
「2年を費やし自宅の前へ。」
「武勇伝!武勇伝!武勇伝伝デデンデン!」

(続く)

 

 


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

光文社新書ではTwitterで毎日情報を発信しています。ぜひフォローしてみてください!