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早婚化が進んでる? 女性ファッション誌でも取り上げられる「20代で結婚」

簡単には結婚できない=婚難
平成に入って加速した結婚離れ。男性の4人に1人、女性の7人に1人が生涯未婚(50歳までに一度も結婚しない)であることは周知の事実となっています。一方で、それに反比例するかのように「婚活」はどんどん多様に。住職がサポートする「寺コン」や我が子に代わり親が相手を探す「代理婚活」、燃えるような「シニア婚活」、はたまたコロナ禍で活況となった「オンライン婚活」まで。十人十色の婚活模様が広がっています。
そこで本記事では、そんな現代人の婚活・結婚観に当事者目線で迫った『ルポ 婚難の時代』から抜粋して「若者たちの新たな結婚観」を紹介します。晩婚化が進む日本。今の20代も同じようにキャリアを積んでから30代で結婚・出産を考えていると思いきや、中には早くに出産してキャリアを積もうとする考えの人も。結婚相談所に入会する人も増え始め、20代前半をターゲットにした女性誌も結婚特集を組むようになっています。これはZ世代の新たな結婚観なのでしょうか。

結婚相談所に入会する若者が増えている

取材で大変お世話になった結婚相談所のツヴァイの広報担当者から、20代前半で結婚相談所に入会する人が増えていると聞いた。私は、「なんで? そんなに急がなくてもいいのに」とにわかに信じられない気持ちになった。たしかに、バブル時代の1980年代後半は、女性の結婚適齢期が「クリスマスケーキ」にたとえられていた。12月25日までしか売れないケーキのように、25歳までに結婚しないと「売れ残る」という意味だ。

しかし、2019年の厚生労働省の統計によると、女性の平均初婚年齢は29・6歳で、バブル期よりも約4歳も上昇している。

年齢の若さに加えて、合コンなど恋愛がメインのカジュアルな出会いではなく、最初から結婚相談所を選ぶというのも私には意外だった。「若者の保守化」という言葉がふと頭をよぎる。私自身のことを思い出してみると、20代前半は仕事に夢中で結婚など頭の片隅にもなかったからだ。

令和の世代を生きる若い世代の価値観を知りたいと思い、取材を始めた。

「産んでからキャリア」を目指すZ世代

東北地方に住む女性のなおさん(仮名)は22歳。昨年、21歳でツヴァイに入会した。高校を卒業して働き始め、今は地元の会社で正社員として働いている。社会人としての経験があるせいか受け答えはとてもしっかりしている。とはいえ、今まで取材で出会った婚活中の人よりも一回り以上年下。見た目はやはり若々しい。

なおさんは、異性には「感情的で怖い」という苦手意識があり、ずっと恋人はいなかった。入会のきっかけは、周りで授かり婚をする友達が出始めたことだった。「体力があるうちに子育てをした方が楽だよ」と言われて「そうかも」と考え始めた。

もともと結婚願望はあったものの、遊びで男性とつきあう気持ちは起こらなかった。なあなあでつきあうよりも結婚前提。そこで思いついたのが「お見合い結婚」だった。相談した母親にも「早いんじゃないの」と驚かれたが、1年限定で活動してみることにした。

今は相談所で出会った20代後半の会社員と交際中。結婚観を率直に語ってもらった。

「老後を考えると、一人で生きていくのが不安なんです。結婚のイメージは『安定』。結婚して楽になりたいというか、誰かと一緒なら人生が楽しくなるんじゃないかなって。年収や学歴はあまり意識しないです。きちんと人生の計画を立てないと最終的にどうなるか分からなくて怖い。早めに見通しが立っている方が、子育てや仕事をするときも安心できる気がします。フルタイムではなく、できるだけ自分の時間や家族との時間を作りたい」

結婚が「安定」というところは、これまで取材で出会った30〜40代の女性たちとも共通している。一方で若いうちに計画を立てて子育てや仕事をしたいという意見はこれまで聞いたことがない新しい視点だった。30〜40代の人たちの多くが結婚をゴールと捉えているのに対し、なおさんにとっては結婚が人生計画のスタート地点なのだ。

堅実なワードが飛び交う大学生の結婚観

データでも同じような傾向が出ている。結婚準備クチコミ情報サイト「ウエディングパーク」が大学生と短大生の男女496人を対象に実施した「若者の恋愛結婚観」に関する実態調査(2018年)では、「将来結婚(入籍)したいと思いますか」という問いに72・8%が「したい」と回答した。そして、49・8%が25歳前後の結婚にメリットを感じると答え、早婚にプラスイメージを持っていた。また、早婚を希望する理由の自由記述には、

「社会的な信用があるし、子どもも持つなら早い方がいい。収入はそれほど多くない年齢なので大変だが、老後も考えると子どもが成人する年齢が早い方がいい」(22歳男性)
「働くモチベーションが上がると思うから」(21歳男性)
「将来の準備が早くできる」(22歳男性)
「仕事の経験もでき、将来的に子どもを産んだとして、その子どもが育った後も、まだ働ける年齢だし、遊びもできるだろうし、老後に余裕ができると思うから」(20歳女性)
「結婚しなきゃいけないという呪縛から解き放たれる」(19歳男性)

といった意見があった。「信用」「将来」や「準備」「老後」といった堅実なワードが並ぶ。

20代前半がターゲットの女性ファッション誌も結婚特集

主婦の友インフォスが発行する女性ファッション誌「S Cawaii!」も読者の要望に応える形で、20代の結婚を取り上げている。2017年に「20代で結婚する!」と題した特集を掲載。「20代で結婚できる女にはウラがあった! 〝私、30才までに結婚できるでしょ?〟って思ってる女、ちょっと来ーい!」「なにがなんでも30才までに結婚した〜〜〜いっ!!! 22才からの婚カツ」など直球の内容を集めた。翌年には、「今すぐ彼をつかまえて、20代のうちに結婚する方法」というタイトルで1冊まるごと、恋愛と結婚を特集した。このとき表紙は、お互い21歳のときに結婚したぺこさんとりゅうちぇるさん夫婦。二人はインスタグラムにたびたび子どもと一緒の仲良しショットを掲載していて、20代が憧れる「理想の芸能人夫婦」の第1位に選ばれたこともある。

なおさんの話にもあるように、現在の20代の女性にとっては「安定」は、相手の収入や職業などのスペックで得られるわけではなく、ぺこ&りゅうちぇるカップルに代表されるような、一緒にいて楽しく安心する相手との生活を意味しているのかもしれない。上の世代が婚活や仕事と育児の両立に苦しむ様子を見聞きして、早婚化に向かっている──というのは私の考えすぎだろうか。

社会全体としては晩婚化が進んでいて、全ての20代に結婚願望があるわけでもない。

今の日本社会では、子どもを早く産む可能性がある早婚はキャリアの断念と捉えられがちで、女性は働いてポジションを確保しながら、出産のタイミングを探らなければならないのが現実だ。早婚がメジャーになっていけば、新卒の女性が20代のうちに結婚・出産をして社会復帰をする「産んでからキャリア」という流れを活発にする可能性もある。新たな動きとして、令和の時代でさらに主流になるか注目していきたい。

以上、『ルポ 婚難の時代』、最終章──令和の恋愛と結婚より一部抜粋し、再編集して掲載しました。

『ルポ 婚難の時代』目次

はじめに(筋野)
第1章――結婚するって、大変ですか?(筋野)
第2章――夢見るシニア(尾原)
第3章――悩む親たち(筋野)
第4章――母になりたい(井上)
最終章――令和の恋愛と結婚(筋野)
あとがき①(井上)
あとがき②(尾原)

著者プロフィール

筋野茜(すじのあかね)
共同通信社仙台支社編集部記者。1981年埼玉県生まれ。2004年朝日新聞社に入社し、’09年から共同通信社。社会部、盛岡支局を経て、’13年東京本社生活報道部。’20年から東日本大震災取材のため現職。

尾原佐和子(おばらさわこ)
共同通信社ニュースセンター副センター長。1962年生まれ。福岡県出身。1986年共同通信社入社。ロンドン駐在、経済部、社会部、生活報道部などを経て2018年奈良支局長。’21年2月から現職。

井上詞子(いのうえのりこ)
共同通信社大阪支社社会部記者。1982年米国生まれ。出版社から2008年共同通信社に入社。甲府支局、千葉支局を経て、’14年から生活報道部で厚生労働省や国会などを取材。’21年2月から現職。


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