「送料無料」でホントにいいの?
【連載】農家はもっと減っていい:大淘汰時代の小さくて強い農業⑥
㈱久松農園代表 久松達央
大きなトレンドには目を塞ぎ、「緊急対策」で目先の不満をガス抜きするのは農政の変わらぬ十八番です。コロナ禍の下でも「販売促進緊急対策事業」と称して、一部の農産品、水産品のEC販売の送料を無料にするというキャンペーンが行われています。
「農家や漁師を助けて下さい!」というフレーズは、とにかく一部の都市住民の心をくすぐるようで、様々なECサイトがこの枠組みを利用しています。
しかし、本来は物流や業務を集約することの効率性を求めて大きな流通システムが発展してきたわけです。2000円の商品に1000円の送料をかけて産地から顧客に直送などというのは、そのセオリーに反する非合理なやり方です。
その非効率を一時的に税金で賄っても、キャンペーン終了後も高い送料を顧客が払い続けたいと思うような付加価値のあるビジネスが育つケースは稀です。東日本大震災の際も、産直で応援キャンペーンのようなものがたくさん生まれましたが、産地の直販体制への転換が定着した例はほとんどありません。
何より私自身が、個人宅配という非効率な販売方法を20年以上続けている立場なので、その難しさと矛盾を身に沁みて知っています。このような手法が、ビジネスとして大きなスケールになることはありえないし、なるべきでもありません。
緊急対策といえども、大きな潮流に沿った次の形につながるような施策でなければ、ただの無駄金です。「農家や漁師が困っている」が本当ならば、送料無料キャンペーンは、市場から退出して他の事業に移行すべき農家や漁師の「辞め時」を奪っているのかもしれないのです。(続く)
※本連載は今夏に刊行予定の新書からの抜粋記事です。
久松さんと弘兼さんの対談が掲載されています。