【第43回】なぜ官邸が大暴走してしまうのか?
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【第43回】なぜ官邸が大暴走してしまうのか?

光文社新書

官僚とマスコミを支配し、倫理観に欠け、戦争のできる国を目指す人々

2017年2月17日、当時の安倍晋三首相は、国会で「私や妻が関係していたということになれば、間違いなく総理大臣も国会議員も辞める」と大見得を切った。大阪府で「安倍晋三記念小学校」の開設を目指していた森友学園に、国有地を8億円も値引きして売却した問題を追及された際の発言である。

一般に、平気で嘘をつく人間ほど「嘘だったら辞める」とか「嘘だったら死ぬ」などと信じ難い大見得を切るものだといわれる。安倍氏が大噓をついていたことも、その後、明らかになった。というのは、国有地売却契約の決裁文書に、安倍昭恵夫人の関与を示す明確な記述が何カ所もあったからである。

安倍首相の発言を正当化するため、当時の財務省理財局長・佐川宣寿氏が、決裁文書の改竄かいざんを指示した。その際、上司に向かって泣きながら「改竄なんてやめてください」と抗議したのが、近畿財務局職員・赤木俊夫氏だった。

赤木氏は、日常的に近所の知人に「私の雇用主は日本国民なんですよ。その日本国民のために仕事ができる国家公務員に誇りを持っています」と話すほど、誠実で責任感の強い人物だった。その彼が、公文書の改竄を命令されたのである。どれだけ不正に手を染める自分を嫌悪したか、察するに余りある。

そもそも財務省のような組織で上からの命令に抵抗すると、村八分にされて職場にいられなくなる。ところが、辞職しても、財務省に逆らった人間を採用する企業はないという。なぜなら、税務署を敵に回すことになるからだ。

赤木氏は、改竄前と改竄後の決裁文書のコピーや誰が何をどのように指示したのかを示すメールなど518ページの文書をすべてファイルに綴じた。これが「赤木ファイル」である。その冒頭で赤木氏は「現場の問題意識として決裁済の文書の修正は行うべきでないと財務省本省に強く抗議した。本省が全責任を負うとの説明があったが納得できず、過程を記録する」と記している。

2018年3月2日、決裁文書の改竄がマスコミにスクープされた。3月7日、赤木氏は自殺した。その2年後、妻の赤木雅子氏が手記と遺書を公開した。「最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ。手がふるえる。恐い」

本書の著者・古賀茂明氏は、1955年生まれ。東京大学法学部卒業後、通商産業省に入省。経済産業政策課長、中小企業庁経営支援部長などを経て退職し、テレビ朝日コメンテーターなどを務めた。現在は政治経済評論家。著書に『官僚の責任』(PHP新書)や『国家の共謀』(角川新書)など多数。

さて、長く官僚の世界にいた古賀氏によれば、赤木氏のように正義感の強い官僚は今や「絶滅危惧種」であり、大多数は「長いものには巻かれろ」と上司の命令に従う「凡人型」である。ただし「官邸官僚」だけは首相を動かす。

本書で最も驚かされたのは、安倍氏が「能力の低いペテン師兼パフォーマー」に過ぎず、彼のように「能力がない人が総理になった場合、官邸官僚の万能感はマックスとなる」という言葉だ。8年近く首相を操ってきた「官邸官僚」が何をしてきたのか、本書では実名を挙げて実態を暴露している。彼らが推し進めてきた「負のレガシー」は、「官僚支配」「マスコミ支配」「地に堕ちた倫理観」「戦争のできる国づくり」だという。まさに国難を招く大暴走だ!


本書のハイライト

私たちは誰のことも当てにできない。政治家も官僚も、危機感が欠如しているからだ。だが一番大事なことは、私たち国民自身が、危機意識を持つということだ。警鐘を鳴らす人は結構多い。だが、多くの国民にはそれが届いていないように感じる。本当に爆弾が落ちるか、あるいは経済的にどん底に落ちるしかないのだろうか(p. 330)。

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著者プロフィール

高橋昌一郎_近影

高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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