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すべての本好きのみなさんへ。「本棚の整理なくして新年はなし!」

今日は12月24日です。クリスマスイブなわけですが、この日みなさんはどんなことを思うのでしょうか。

哀しいかな、街のイルミネーションを見ても、別段ときめかない程度に歳を重ねてしまったnote担当の田頭です(泣き笑い)。まあ重ねているだけに、個人的には、この季節になるとかつて愛読していたあるエッセイを思い出したりします。

それは松浦寿輝さんの「点の滴り」と題された文章で、思潮社の現代詩文庫に収録されているものでした。なんだか青春っぽいですね。文庫という名前ながら新書判よりも大きい、ハヤカワのポケミスみたいにビニールカバーがかけられたあの懐かしのシリーズです。

うろ覚え(←※後述)で要約しますと…

「冬」という漢字がただひたすら好きである。それは客観的でも合理的でもない嗜好の話で、強いて言うなら左右対称に見えて、それでいて少しだけ対称性のバランスが崩れているところが好ましい。加えてすらりと両腕を垂らしているような形もよく、視覚的に惹かれるがゆえに、好きな字同士を組み合わせて、かつて自分の詩集に『冬の本』というタイトルをつけた…

と、前半はこんな感じだったろうと思います。そうして「冬」や「本」、「水」や「木」といった字への傾倒ぶりを書いて、松浦さんは「そう言えば」と続けるのです。

 「柊」という樹木の名前は、文字も音も本当に美しい。

うーん、なんて素敵な一文。「柊」が登場したところで、ようやく話がかろうじてクリスマスイブに繋がるわけですが(笑)、若き日の私は、このちょっぴりフェティッシュな感性のみずみずしさ、選び抜かれた言葉の美しさにすっかりしびれたものでした。

文章はその後、さらなる偏愛の対象が「冬」という字の下部にあって文字を支える「、、」なのだとマニアックに綴られていきます(だからタイトルが「点の滴り」)。

…って実は私、ここまでを昨日の朝に一気に自宅で書いたのですが、残りは松浦さん本を参照しながら会社で仕上げるつもりでした。

が、ないんです。

ない!

松浦寿輝さんの現代詩文庫が本棚に見当たらない!!

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20分ほど探し回ったでしょうか。発見できないまま諦めて出社し、そんなわけで昨日は暗澹たる気持ちを抱えて日中を過ごしていました。いったいどこに紛れているのか。引越ししてからまだ荷ほどきしていないダンボール箱の中か。すみません、引用がうろ覚えなのは、現物が手元にないからなのです…。

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と、ここからが本題。

鬱屈した思いのまま校了やら精算やらに没頭していると、18時を過ぎた頃にはひどくお腹が空いてきました。ふらふらとゾンビのように立ち上がった私は、ふと編集部の書棚をのぞき込みます(そこに食べ物はないだろうに笑)。すると、まさに今の私の境遇にぴったりなタイトルが目に飛び込んできたのです。

『蔵書の苦しみ』…!

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そう、たくさん本を持つって苦しいんです。しみじみ本はただ多けりゃいいというものじゃないと思います。探している本が見つからないことほどモヤモヤするストレスもありませんし、引越しに至ってはとにかく辛い…。そもそもどんな住環境でも置けるスペースには限りがあるわけで、処分しなければやがて収納が破綻するのは当たり前ですものね。

この本は、本を所有する喜びを描きつつも、そんな面倒やバカバカしさ、果ては経済的コストから蔵書を処分する実践的アイデアまでもが、半ばぼやき気味に、そして思わずくすりと笑ってしまうエピソードとともに書かれています。すべては本への愛ゆえに。酸いも甘いも噛み分けられた大人の味わいがたまりません。しかも…

 ・蔵書は500冊あればいい(あの大教養人、吉田健一が言っていた!)

 ・多すぎる本は人生を破綻させる(本当に全部読めたのか、草森紳一!)

 ・手の届く範囲に置かれた本こそもっとも必要な本(本棚はあってもなくても同じ!?)

という具合に、あちこちに登場する刺激的な断定も痛快です。ああ岡崎さん、本を買ったり読んだりする楽しさだけじゃなく、苦しみまでしっかり書いてくれるなんて! 物事には、光もあれば影もあり。こういう分別のある大人に私もな、り、た、い――

みなさんもぜひ、大切な本が見つからなくなる前に本棚を整理してください。真面目な話、生活も思考もすっきりクリアになるんだろうと思います。私も、年末に大掃除をする前にもう一度しっかりこの本を読みこむつもりです。とりあえず、収納の限界を超えたまま放置されているダンボール箱内の本をなんとかしなくては…。

かくて聖夜は更けゆきます。みなさんよきクリスマスを(雑)。


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