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「筑波巻」と「牛蒡将軍」|パリッコの「つつまし酒」#154

150以上の物産品を食べ比べ

 以前、「ヤングコミック」という月刊漫画雑誌で『ほろ酔い!物産館ツアーズ』という漫画連載をしておりまして、2019年にはありがたいことに単行本も出してもらうことができました。内容は、物産館、アンテナショップに月一で行って、担当の編集さんとふたりで3000円という軍資金をもとに、お酒やつまみをあれこれ買っては宴会するというもの。東京の、特に有楽町や銀座あたりって物産館の密集地帯で、ネタはいくらでもあり、最終的に18軒の物産館を巡って、150品以上の物産品を食べ飲み比べたのでした。いや〜、楽しいお仕事だった。
 単行本の最後では、すべてのなかから僕が勝手に気に入ったベスト5を紹介させてもらっていて、その5位に選ばせてもらったのが「筑波巻」という商品。失礼ながら「知ってる!」という方は、全国的にはそれほど多くはないと思います。というのもこちら、茨城県の地名にちなんだご当地グルメっぽい名前ではあるんですが、実は「鳥末食品」という食肉加工会社が昭和57年に開発した、オリジナル商品なんですね。具体的には、全国2位のごぼうの産地である茨城県産の良質なごぼうとにんじんを鶏肉で巻いて、秘伝のタレで煮込こんだお惣菜。見た目はおせち料理なんかに入ってそうな感じ。

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「筑波巻」

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こういうの

 これがですね、税込み550円という非常にお手頃な価格、かつ、ちょっと素っ気ないような、ありふれたような見た目から、失礼ながら過度な期待はせずに食べてしまいがちなんですが(さっきから失礼が多いな)、そうやって油断してると、食べる前に想像してたのの10、いや20、いや30倍は美味しい!

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これが大好きで!

 なんというか、まったく奇をてらったところのない愚直な美味しさ。それでいてひとつひとつの素材も味つけも、妥協一切なしの姿勢が伝わってくる。しゃきしゃきとしたごぼうとにんじんの味の濃さ。びっくりするくらい柔らかい鶏肉と、周囲を覆う鶏皮のぷるぷる感の二重奏。ベストバランスのタレ。もうね、こんなにもシンプルな構成の料理をここまで高められるのか! しかもチルド食品で! と驚くばかりなんです。さっき勝手に「5位」に選んだと言いましたけど、それはほら、その他の物産品はもっと見た目やコンセプトにインパクトがあったりするからで、むしろそのなかに、このシンプルさで食いこんだことがすごい。実質1位。

まさかの展開が……

 なんて話をですね、たまに取材などで「なにかお好きなおとりよせ品はありますか?」といった質問をされると、よく答えていたんです。そうして発表された記事のひとつを、なんと鳥末食品の広報さんが偶然目にしてくれたらしく、先日、とってもていねいなお礼のメールをいただいてしまったんですよね。で、「お礼なんてとんでもない! 感謝したいのはこちらです!」とお返事をさせてもらって、しばしやりとりが続くなかで、大変恐縮ながらこんなご提案までいただいてしまいました。
「よろしければ、パリッコさんが以前、記事のなかで気になるとおっしゃってくださっていた『牛蒡将軍』をお送りさせてください」
 あ、牛蒡将軍とはですね、鳥末食品のホームページに、筑波巻に続いて紹介されている野菜肉巻き商品なんですが、これがなんと、野菜を巻いた鶏肉にさらにごぼうが巻いてあるという、ごぼう大国茨城の意地を感じる商品。将軍の名にふさわしく、お値段も筑波巻の約倍で、税込み1080円! 確かに気になってたんですよね。
 すかさず「いやぁ、さすがにそんなたいそうなものをいただいてしまうわけにはいきません! 自分で買いますのでお気遣いなく!」とご返信したのですが、欲しい気持ちが前面に出すぎて手が滑ってしまったのでしょうか。後日もう一度確認してみると、なぜか「お、お、お言葉に甘えていいのでしょうか……ぜ、ぜ、ぜひ!」という由の誤メールを送ってしまっていたのでした。

完成! 「鳥末弁当」

 というわけで、鳥末食品さんのご好意と僕の手違いが重なり、後日我が家には「牛蒡将軍」が到着。さらには、「もしよろしければこちらもお味見ください」と、「鶏」と「牛」、2種類の「肉ちりめん」まで同封されて!
 これはまいったぞと。そういうことならばこっちも、全力でこれらの商品に向き合わねばと。そう考え、思いついたのが、お送りいただいた食品を総動員した「鳥末弁当」をこしらえ、それをつまみに飲む。そこである朝、こしらえましたよ。鳥末弁当を。

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パリッコ作「鳥末弁当」

 お気に入りのわっぱ弁当箱にご飯をよそい、その横に輪切りにした牛蒡将軍を配置。ごはんの上には鶏と牛、2種類の肉ちりめんをたっぷり敷きつめ、アクセントにきゅうりの漬物をちょこん。う〜む、なかなかに魅力的な「茶色弁」だ。
 で、これを冷暗所に保管し、一日中そわそわしながら仕事をしてやっと迎えた夕方。いよいよ待ちに待った「鳥弁飲み」を始めましょう!

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天気が良かったのでベランダの縁台で

 お酒に「天覧山 立春朝搾り」の今年最後の残りを用意し、鳥末弁当のフタをぱかっと開けて、数時間ぶりの鳥末弁当とご対面。時間が経ってしっとりした肉ちりめんやごぼう、そしてわっぱの香りの合わさった魅惑の芳香がふわりと漂い……もう、たまりません。

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ではでは、牛蒡将軍から

 いざ、まずは牛蒡将軍をぱくり。もぐもぐもぐ……う、うおおおお! これは衝撃。しゃきっとしたにんじんといんげんを巻いた鶏肉の柔らかさは相変わらずの鳥末クオリティ。が、それを包みこむごぼうの存在感が圧倒的! 茨城産の良質なごぼうのなかでも生産量が限られた極太のものを使ったというだけあり、特有の香りと味が濃く、シャッキシャキの歯ごたえが快感なのはもちろんのこと、経験したことあります? ごぼうがジューシーって感覚。そう、ものすっごいみずみずしいんです。このごぼうが。いやぁすごいわ。まさに将軍。ごぼうの将軍様。

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肉ちりめんエリア

 そしてそして、説明がまだでしたが、肉ちりめん。これは、厳選した鶏肉を甘辛く味つけ、しっとりふわふわにほぐしたごはんのおともで、茨城県を代表するおみやげ品を決める「茨城おみやげ大賞2016」で最高金賞を受賞したという逸品。色の濃いほうは、茨城のブランド黒毛和牛「常陸牛」を使った牛肉版。
 ……こんなのがさ、ごはんに合わないわけがないわけですよ。鶏肉のプロフェッショナルたる鳥末食品の誇りを感じる鶏ちりめんの、じんわりとありがた〜い旨味。「ここまでやるのって反則じゃない?」とすら感じる、牛ちりめんのチート感。それと冷やごはんのハーモニーがさ、また、お酒に合わないわけがないですよ。あぁもう、幸せすぎて嫌んなっちゃうなぁ……。
 と、久しぶりにステルスマーケティング、提灯記事であることを疑われかねない今回でしたが、これだけは誓えます。僕が自腹で何度となく「筑波巻」を買ってきたこと。そしてそのたび、着々と“鳥末愛”を深めてきたこと。そこに一切の損得勘定などなかったこと。
 そんな信頼の鳥末食品なので、牛蒡将軍をはじめとしたその他の商品も、やっぱりめちゃくちゃ美味しかったな〜。ご興味があれば、リンクまで貼っちゃうといよいよステマっぽくなるので、ご自身でオンラインストアを検索してお試しあれ〜。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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