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【第34回】「世界的キャラクター」を生み出した2人の天才!

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★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

チャーリーとミッキーマウス

高校生の長女にチャップリンを知っているか尋ねたら「レオンでナタリー・ポートマンが物真似した人」と答えた。ジャン・レノが孤独な殺し屋を演じる映画『レオン』では、殺伐とした状況描写が続くが、一瞬だけ息をつかせるのは、ポートマンの演じる少女マチルダが物真似をしてみせる一幕である。

彼女は、最初にマドンナ、次にマリリン・モンロー、最後に鼻の下にチョビ髭を描きダブダブのズボンをはいてチャップリンを演じる。だが、イタリア系移民のレオンは、どれも当てられない。この映画を観ていて、いくら何でもチャップリンはわかるだろうと、違和感を抱いたことを思い出した(笑)。

レオンは少年時代からマフィアで殺人に加担し、学校に通わなかったため、ろくに読み書きもできない設定になっている。その彼がニューヨークに流れてきたのだから、アメリカで流行したマドンナとモンローを知らなくても無理はない。しかし「世界的キャラクター」のチャップリンを知らないとは?!

そもそも「映画」は1895年12月28日に誕生した。「映画の父」と呼ばれるリュミエール兄弟が、パリのグラン・カフェ地階のサロンに入場料を払った観客を集めて、「工場の出口」から出てくる人々の映像を上映したのである。

その映画に「生命」を吹き込んだのが、イギリスのミュージック・ホールの一人芝居で人気のあったチャーリー・チャップリンだった。彼は舞台に登場したとたん、お辞儀をして山高帽を落としてしまう。慌てて手で拾い上げようとするが、足が帽子を蹴って拾えない。この繰り返しで観客は爆笑した。

チャップリンは、映画でもドタバタ喜劇を披露して有名になっていったが、1918年には初めて自身で監督・主演を務めて制作した映画『犬の生活』を発表した。この作品の「放浪紳士チャーリー」は、キャバレーで虐められている少女と野良犬と助け合って生きる。大衆は、コメディとペーソスの絡まった映像に感動し、チャップリンは映画を「芸術」にまで高めたと評価した。

本書の著者・大野裕之氏は、1974年生まれ。京都大学総合人間学部卒業後、同大学大学院人間・環境学研究科修了。大阪市立大学特任講師などを経て、現在は脚本家・演出家。専門は、映画・演劇学。著書に『チャップリンとヒトラー』(岩波書店)や『京都のおねだん』(講談社現代新書)などがある。

さて、そのチャップリンに憧れて俳優を志したものの夢破れ、漫画家になったのが、彼よりも12歳年下のウォルト・ディズニーである。ディズニーは、当時発明されたばかりの「アニメーション」の世界で頭角を現し、1928年11月18日に公開したミッキーマウス主役の『蒸気船ウィリー』を大ヒットさせた。ちなみにこの日は、今ではミッキーの誕生日ということになっている。

本書で最も驚かされたのは、ミッキーマウスのモデルがチャップリンだったという指摘である。ミッキーの黒い耳はチャーリーの山高帽、大きな尻はブカブカのズボン、極端に大きな靴はドタ靴……。社会的「弱者」のネズミと放浪者が、「権力」に立ち向かい、愛する女性のために「献身的」に尽くす。

チャップリンとディズニーの不思議な「師弟関係」は、本書に詳細に描かれている。2人が紆余曲折を経てハリウッドで出会う光景は、運命的である!


本書のハイライト

なぜ、チョビ髭に山高帽とステッキの放浪紳士と、小さなネズミが世界中に愛されたのか? その問いは壮大すぎて完全に答えることは不可能だが、共通する特徴といえば、両者とも普遍的に変わらないイメージにして、どんなものにも変わることができるキャラクター、つまりは<常に不変で、常に可変>であるということだ(p. 115)。

第33回はこちら

著者プロフィール

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高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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