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【第48回】なぜ「超新星爆発」が起こるのか?

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★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

「リアルタイム」で観測された超新星爆発

2022年1月6日、アメリカ天文学会の会誌“The Astrophysical Journal”に掲載されたカリフォルニア大学バークリー校の宇宙物理学者ウィン・ジェイコブソン=ガランらによる論文が大きなニュースになった。人類の天文学史上初めて、超新星の爆発を「リアルタイム」で観測できたというのである!

星間ガスが重力によって結合して収縮すると「原始星」が生まれる。内部では加速度的に密度が高くなり、水素をヘリウムに変換する核融合反応が生じる。エネルギーを外部放出することによって収縮が止まり、安定した「主系列星」になる。太陽は、すでに46億年にわたって一定のエネルギーを安定して供給してきたが、今後54億年も同じように輝き続けるはずである。

恒星の最後がどうなるかは、その恒星の質量によって大きく異なる。太陽の約10 倍以上の質量をもつ赤色巨星では、核融合反応が進むと中心に鉄のコアが生成される。鉄は核融合できないのでガンマ線で原子核が分解され、急激に圧力が下がり「重力崩壊」が起こる。そこで膨大な重力のポテンシャル・エネルギーが解放され外層が吹き飛ばされる。これが「超新星爆発」である。

今回観測されたのは、地球から約1億2000万光年離れた銀河NGC5731に位置する超新星爆発だった。それにしても興味深いのは、天文学で「リアルタイム」というのが、実際には約1億2000万年前の出来事だということ(笑)!

本書の著者・戸谷友則氏は、1971年生まれ。東京大学理学部卒業後、同大学大学院理学系研究科修了。国立天文台助手、プリンストン大学客員研究員、京都大学准教授を経て、現在は東京大学教授。専門は天文学・宇宙論。著書に『宇宙の「果て」になにがあるのか』(講談社ブルーバックス)などがある。

さて、バスケットボールの上にテニスボールを載せて手を離すと、床に衝突して跳ね返る。このテニスボールには、バスケットボールが床に衝突した反発力が加わるので、単に床に落とした場合よりも遥かに高く飛び跳ねる。ここでバスケットボールを「鉄のコア」、テニスボールを「外層」とみなせば、超新星爆発をイメージできる。本書の例示や解説は、実にわかりやすい。

本書で最も驚かされたのは、最初の「まえがき」が「芸術は爆発だ」という岡本太郎の言葉から始まることである。その言葉に続く「全身全霊が宇宙に向かって無条件にパーッとひらくこと。それが『爆発』だ。人生は本来、瞬間々々に、無償、無目的に爆発しつづけるべきだ。いのちの本当のあり方だ」という岡本の著書『自分の中に毒を持て』からの文章を引用して、戸谷氏は「何やら妙に腑に堕ちるような気がする」と述べている。私には、岡本の言葉も文章も、まったくの「意味不明」としか思えないのだが……(笑)!

とはいえ、読み進めるにつれて、戸谷氏が超新星爆発やガンマ線バーストのような専門分野の解説だけで読者を飽きさせないように、工夫を凝らしてエピソードを挿入していることがわかる。東大の公開講座で「悪」という統一テーマを与えられて困った話とか、6歳の娘さんと一緒に国立天文台の天体観望会に遊びに行ったら天文クイズで間違えた(お嬢さんは正解だった)話とか、藤原定家の『明月記』にまつわる話など、楽しく読み進められる!


本書のハイライト

自然科学における謎というものは尽きることがない。ガンマ線バーストの謎があらかた片付いたかなと思っていたら、今度は電波で光る謎の天体現象「高速電波バースト」が発見され、今、世界中の天文学者を悩ませている。本書ではこれについてもご紹介し、最新の天文学の興奮を感じ取っていただければと考えている。そして最終章では、宇宙における爆発が、私たちの存在にどのように関わっているのかについて、思いをはせてみるつもりである(p. 5)。

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著者プロフィール

高橋昌一郎_近影

高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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