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かに“かま”道楽|パリッコの「つつまし酒」#104

カニカマをカニにする魔法「昆布酒漬け」

飲み友達のライター、スズキナオさんと「酒の穴」というユニットを組んで、日々お酒の新たなる楽しみかたを探求しています。
 先日、そんな活動の一環で「いろんなものを昆布酒漬けにする」という検証実験をしてみました。「昆布酒漬け」とは、“板前の裏技”とも呼ばれる調理法で、主に白身魚などをこの方法で処理すると、スーパーのお刺身が料亭の味級にグレードアップしてしまうというすごい技。って、僕たちも偶然インターネットで見つけて知っただけなんですが、とにかくこれは試してみたい! となりまして。
 そこで白身魚の他、マグロやイカ、ハムにギョニソ、スルメに豆腐など、思いつく限りの食材を昆布酒漬けにしてみたところ、もちろん刺身はどれも美味しいし、その他も旨味が増してなかなかのもの。なかでもとりわけ変化に驚いたのが「カニカマ」でした。
 食べた瞬間に「わはは、これもうカニじゃん!」って笑っちゃうくらい、もともと企業の開発者さんの努力によりかなりカニっぽかったカマボコが、味、食感ともに、さらにぐっとカニににじり寄っていたんですよね。無論、ふたりして、「これでいつでもカニが好きなだけ食べられますね!」と大喜びしたことは言うまでもありません。
 そこで今回は、食材をカニカマにだけにしぼり、かに道楽ならぬ、かに“かま”道楽を堪能してやろうというわけなんです。

カニカマにもいろいろある

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カニカマあれこれ

 さっそくスーパーで、カニカマを手当たり次第に買ってきました。手に入れたラインナップはこちら。

・スギヨ「大人のカニカマ」
・スギヨ「匠のカニカマW」
・ニッスイ「香味焼 焼がに風味」
・一正「サラダスティック」
・一正「大ぶりカニかま」

 まず、2005年に伝説の「香り箱」を発売し、カニカマの世界をネクストステージへと導いてしまった「スギヨ」には、やはり意地を感じますね。「匠のカニカマW」なんかもう見た目はカニと見分けがつかず、食べたときのほぐれ具合はカニそのもの。同じ方向性でさらに食べごたえがあり、かに酢がついているのも嬉しい「大人のカニカマ」もすごいクオリティです。
 ニッスイの「香味焼 焼がに風味」は、それよりも若干のカマボコ感はあれど、炙ったような独特の風味が酒のつまみ向きの意欲作。
 一正の「サラダスティック」は、これぞ昔ながらのという感じで誰もが知る味。特筆すべきは「大ぶりカニかま」で、ひと切れがとてもひと口では食べられないようなボリューム感。1パック500円ほどとかなり高級で、これまたなかなか攻めた商品だなと感じました。

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ずっしりと重い大ぶりカニカマ

 さて、これらを昆布酒漬けにしていくわけですが、手順は簡単。まずはバットなどにだし昆布を敷き、そこにカニカマが浸るくらいの量の日本酒と、日本酒に対して3%の塩を加えて溶かします。そうしたらカニカマを並べ、冷暗所で約1時間。

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このような状態

 1時間経ったらカニカマと昆布を別皿に取り出し、ラップをかけて冷蔵庫でさらに寝かせます。2〜3時間もすればしっかりと風味が移りますが、余裕があれば一晩くらい寝かせるとさらに効果があるとのこと。
 ね? ぜ〜んぜん難しくないでしょう。唯一の難関は、そのまま飲めば美味しいお酒をけっこうな量ドボドボと料理に使ってしまうという点。もしも、気持ちとは裏腹にどうしてもバットにお酒を注ぐ手が動かなくなってしまったという方は、もうあきらめてカニカマをつまみに飲み始めちゃってください。
 僕はなんとかお酒ドボドボに成功したので、今回はしっかりと一晩寝かせ、いよいよ飲み始めたいと思います!

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家におあつらえ向きの皿があった

海に帰ったカニカマたち

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準備完了!

 すべてのカニカマ昆布酒漬けを皿に盛ってみると、なんとも壮観。これぞ豪遊。まさに、かに道楽。このカニカマたちがきちんとカニに近づいていてくれるならば、こんなに贅沢なおつまみはなかなかないんじゃないでしょうか。

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この標高!

 まずはやはり、安定のスギヨ勢から行ってみましょう。匠のカニカマをひと切れそもまま食べてみる。そうそうこれこれ! そもそもカニにそっくりな食感が、さらにほんの少しぎゅっと凝縮され、まるで生命力が宿ってしまったかのようなカニっぽさ。昆布と酒の旨味が染み込んだことにより、もとはなかった海っぽさが加わるのも不思議。
 そもそも海水の塩分濃度って、海域によってばらつきはあるものの、およそ3.1~3.8%くらいなんだそうです。と考えると、つまり昆布酒とは「海そのもの」なのではないか? カニカマたちを擬似的に海へと帰すことにより、「そうか、自分はカニだったんだ」と錯覚させ、極限までカニに近づける。昆布酒にはそんな魔法が宿っているような気がしてなりません。
 とはいえ、本物のカニと食べ比べてどうこうなんてのは無粋な話。そりゃあビールとノンアルコールビールのような差はありますよ。ただね、これをかに酢やポン酢につけて食べると、その差がさらに縮まるんだな〜! ちなみに、よりカニと錯覚するという意味において、僕は味の強いポン酢が好みです。

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もうカニでしょこれ

 他、「香味焼 焼がに風味」は香ばしい風味がより強調され、「サラダスティック」はさすがにカニにはならないものの、上品な美味しさがアップ。
 なかでも今回いちばん感動したのは「大ぶりカニかま」。そのまま食べた時は均一な繊維がふわりとほどけていくような感覚だったんですが、昆布酒漬けにすることにより、ほぐれかたに“野生み”のようなものが加わり、みっしりと身肉の詰まったたらば蟹足を思いっきりほおばっているような贅沢感! これには本当、うっとりしちゃいましたね……。

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酔っぱらいの8割くらいはカニといって騙せるんじゃないだろうか

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試しに炙りなんか入れてみたら、これには醤油が合いました
パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。
2020年9月には『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)という2冊の新刊が発売。『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。Twitter @paricco
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