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「極端な人」による「殺人」は世界中で起こっている

光文社三宅です。明日9月17日に、『ネット炎上の研究』(勁草書房)の共著者でお馴染みの山口真一先生の新刊『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社新書)が刊行されます。コロナ禍で特に顕著となった「SNSでの誹謗中傷」「不謹慎狩り」「自粛警察」といった主にネット上での負の現象を分析し、その解決策を提示した内容です。本記事では刊行に先立ち、「はじめに」に続き第1章を何回かに分けて公開します。

はじめに、目次はこちらで読めます。

第1章 ネットに「極端な人」があふれる理由

「極端な人」が人の命までも絶つ

 2020年5月23日、あまりにも悲しく、痛ましい報道が日本中を駆け巡った。女子プロレスラーの木村花さん(享年22)が、人気テレビ番組を発端としたネット上の誹謗中傷・非難に耐えられず、自殺してしまったというニュースだ。

 本件について調べていたら、理由がよく分からぬまま自然と涙が出てきていたのを覚えている。被害者の、あまりにも優しく悲しい発信から見えてくる悲痛な気持ちや、個人をどこまでも追い詰める人々の悪意に悲しくなったのだろうか。歳を重ねて涙もろくなってきたこともあるかもしれない。

 経緯について簡単に説明すると、木村さんはフジテレビなどが制作を手掛けてネットフリックスを中心に放送されていた番組「テラスハウス」に出演していた。「テラスハウス」はリアリティーショーという体裁をとっており、「台本がない」という設定の下、一つ屋根の下で複数の男女が暮らしている様子を記録・放映する番組であった。

 そして攻撃される主な要因となったのは、番組内で木村さんが出演者のコメディアンを目指している男性に対して激怒した一幕である。もともと木村さんとその男性は良い雰囲気であったのだが、京都への旅行を機に、自分の世界にこもりがちでマイペースな男性と木村さんはすれ違っていった。

 そして事件は起こる。木村さんが洗濯機の中に非常に大切にしていたリング衣装を入れたままにしているのに男性が気付かず、そのまま洗濯・乾燥させてしまったのである。そのことに激怒し、なおかつ怒られてもただ黙っている男性に対してフラストレーションを募らせた木村さんは、「人生を舐めている」といい、男性につかみかかって男性の被っていた帽子を取って投げ捨ててしまう。

「全日本人はあなたの敵です」
「早く消えろ」
「ブス」
「二度とテレビに出るな」
「おい! メスゴリラ! お前もうテラハじゃ恋愛でけへんし、邪魔やからやめてくれや!」

 これらは、放送後に実際に木村さんのツイッターアカウントに直接送られたメッセージ(リプライ)である。このような誹謗中傷・攻撃が、放送直後にはなんと一日に数百件付くこともあった。

 番組の内容が、どこまで台本があって、どこまで素だったかははっきりと分かってはいない。ただし、「プロレスのリング衣装は洗濯機で洗ったくらいでは縮まないので、縮んで怒るのはおかしい」という指摘や、「当該番組の9割には流れがある」といった指摘もある。

 さらに、7月15日には、木村さんの母・響子さんが、BPO(放送倫理・番組向上機構)に対し、放送による人権侵害があったとして審議を申し立てた。申し立てでは、誹謗中傷が集中するきっかけとなった事件について、スタッフからのやらせ指示があっただけでなく、「演出指示に従うこと」などを含んだ誓約書にサインさせられていたことを指摘している。

 本稿執筆時点では、フジテレビ側は社長会見で「無理強いはしていない」「感情表現を捻じ曲げるような指示はしていない」などと発表したうえで、社内調査中としている。

 ただいずれにせよ、その部分が放送されたということは、番組サイドが「これは使える(視聴率を稼げる)」と考えてコンテンツに組み込んだのは間違いない。

 この番組を見て、どう思うかは人それぞれだろう。男性に対して不快に思う人もいれば、木村さんに対して不快に思う人もいるだろう。しかし、本人に直接、ネット上で口汚い言葉で罵ろうと思う人は、ごく一部の「極端な人」だ。なんと中には、100件以上のメッセージを送っているような人もいた。

 木村さんは、最後まで誹謗中傷を送ってくる人に反論はしなかった。亡くなる直前には、次のようにSNSに投稿している。

「毎日100件近く率直な意見。傷付いたのは否定できなかったから。」
「弱い私でごめんなさい。」
「愛してる、楽しく長生きしてね。ごめんね。」

「極端な人」による「殺人」は世界中で起こっている

 このような悲劇は、何も日本だけの話ではない。例えば韓国では、2019年10月に韓国の女性アイドルグループ「f(x)」の元メンバー、ソルリさんが自宅で死亡する事件が起きた。この背景には、ネット上での悪質な書き込みにひどく悩んでいたということがあったようだ。

 彼女はもともと、愛くるしい容貌と天真爛漫なイメージで人気を得たが、その自由奔放さが時に誤解を受けて物議を醸すことが少なくなかった。そのため、ネット上では誹謗中傷が継続的に書き込まれるようになる。さらに、14歳年上の男性との交際が発覚したことも重なって誹謗中傷が殺到し、2014年には一時活動休止もしていた。

 さらにこの事件は、これで終わりではなかった。なんとその1か月後の11月には、ソルリさんの親友の、韓国の女性アイドルグループ「KARA」の元メンバー、ク・ハラさんが自宅で亡くなったのである。

 ク・ハラさんには、2016年のKARA活動休止後からトラブルが発生しており、元交際相手から訴えられたことで明らかとなった暴行疑惑や、対抗して自身で明らかにした相手男性からのリベンジポルノによる脅迫事件で、泥沼の訴訟が起きていた。

 これに対し、韓国国内のSNSで誹謗中傷の声が多く見られるようになっていった。例えば、元交際相手からのリベンジポルノによる脅迫を告白した際には、「1日雲隠れしている間にストーリー組み立ててアザ作ったのか」「外見と違ってわがままなんだな 気が強いよ とにかく今回のことで裏表の人格がバレた」などの、人格を否定するような誹謗中傷が多く書かれた。このようなことが重なり、親友の自殺も相まって、自らの命を絶つ選択をしてしまったと考えられる。

 実は、韓国はIT先進国であると同時に、このようなネット上の誹謗中傷先進国でもある。2008年には、人気女優のチェ・ジンシルさんが、同じくネット上の誹謗中傷を苦に自ら命を絶っている。

 しかし、これはアジア圏だけの話ではない。2013年4月、フランスのリアリティー番組「コー・ランタ」の専属医師であったティエリー・コスタさんが、ネット上の誹謗中傷を苦に亡くなる事件が起こった。この番組は無人島でのサバイバルの様子を描いたリアリティーショーであり、最後まで残った参加者に賞金が与えられるという人気番組であった。

 そのような人気番組であったが、出演者のジェラルド・ババン氏が亡くなってしまうという事故が起きてしまった。これに対し、ティエリー医師は現地で応急処置を行って、近くの病院にヘリコプターで搬送していた。しかしながら、この対応が不十分であり、ジェラルド氏が亡くなったのは医療処置に時間がかかりすぎたためだと複数のメディアで報道され、SNS上で多くの批判・誹謗中傷に晒されることとなってしまったのだ。

 その結果、思い悩んだティエリー医師は、カンボジアで自ら命を絶ったのである。「極端な人」による攻撃は、世界中で人の命を絶つに至っているのだ。

「極端な人」の方が立場が上の社会

 サイエンスライターの片瀬久美子さんも、「極端な人」の被害を受けた人だ。片瀬さんは、森友・加計問題に関する公文書開示について、政府は説明責任があるという趣旨のツイートをしたところ、誹謗中傷を受けたり、デマを流されたりするようになった。

「旦那は強姦魔」
「娘に淫売を強要」
「不正に学位を取得」

 根も葉もない話で、大量のアカウントから誹謗中傷をしつこく受けることになった片瀬さんは、ツイッター社に通報した。ところが、「ツイッターのルールに違反していない」という回答を受けたため、特に悪質な投稿者に対して発信者情報開示請求を行うこととした。

 匿名でネットに書き込んだ人を訴える場合、ツイッター社などのサービス事業者に対して、裁判所を通じてIPアドレスの開示を請求したうえで、投稿者を特定していく必要がある。そのための最初のステップが発信者情報開示請求である。

 見たくもない誹謗中傷的な投稿の保存、弁護士への支払い、本人特定のための相手の居住地への訪問――多大な時間的・金銭的・心理的コストをかけ、1年がかりで加害者を特定した。どうやらその人は、数百のSNSアカウントを保持し、別々の人物を装って誹謗中傷を繰り返していたらしい。

 そしてついに、片瀬さんは民事裁判で勝訴したのである。260万円の支払いと謝罪を求める片瀬さんの訴えが全面的に認められた。

 ところがこの話はハッピーエンドで終わらない。判決から約1年経った2020年6月時点でも、未だに謝罪も支払いもないというのだ。加害者は、検察の調べに対し、「悪気はなかった 遊びだった」と説明しているという。

 NHKの「クローズアップ現代+」でこの問題について取り上げた際には、「結局、加害者と私とを比べてみると、加害者は無傷なんですよ。今も普通に暮らしているんですよ。何ら罰せられることもなく、謝罪文も書かず。これって、このままでいいのかな」と、涙ぐみながら語る片瀬さんの姿があった。

「極端な人」ネット右翼

 本書冒頭で、「ネットは攻撃的な人が多く、怖いところだ」と書いたが、何もそのように思っているのはあなただけではない。私が以前約2000人を対象にアンケートをとったところ、75%の人は「ネットには攻撃的な人が多い」と考えており、70%の人は「ネットは怖いところだ」と考えていることが分かった。

「極端な人」によるネット上の誹謗中傷を見てネットに怖いイメージを持つ人は、世の中に大勢いるといえる。そして、ここまで「極端な人」による様々な誹謗中傷事例を見てきたが、これらは氷山の一角に過ぎないのだ。

 ネット右翼という言葉もある。ネット右翼とは、インターネットと右翼をかけ合わせた言葉で、ネット上の掲示板やブログ、SNSなどで保守的・国粋主義的な意見を発信する人のことを指す。

 画一的な定義は存在しないのが現状だが、大阪大学准教授の辻大介氏は、日本版のオルタナ右翼がネット右翼だとしたうえで、「中国と韓国への排外的態度が強い」「保守的・愛国的政治志向が強い」「政治や社会問題に関するネット上での意見発信・議論への参加を積極的に行う」という特徴全てを満たしている人と定義している。

 定義からも明らかであるが、排外主義的態度、保守的志向が強く、政治の話題によく首を突っ込むことから、自分の考えに合わない意見に対して行き過ぎた批判や誹謗中傷をしている例も多い。ネット上で政治的な話題を発信しにくくしている一端を担っているといえるだろう。

 また、活動はネット内に留まることがなく、2010年頃からは在日コリアンに対する差別的な言辞を掲げる街頭デモ等が繰り返されるようになった。いわゆるヘイトスピーチである。まさに極端な言説や行動をとり、社会に大きなインパクトを与えている「極端な人たち」といえる。

 なお、排外主義と関わらないためネット右翼ほど話題になることはないが、逆サイドのネット左翼と言われる人々ももちろんいる。このようなネット右翼とネット左翼は普段はそれぞれ隔絶され分離したコミュニティ・繋がりの中でコミュニケーションをしている。

 しかし、ひとたび叩ける材料があればこぞって批判とも言えないような差別的な誹謗中傷をすることも珍しくない。当然両者が分かりあうのは困難で、ネットでの自由な議論によって政治的な妥協点を見つけられる可能性は、極めて小さい。

社会に対して否定的で、不寛容で、攻撃的な人

 政治に限らない、ネット上に批判や誹謗中傷があふれる「ネット炎上」全般についても、そのメカニズムが近年明らかになってきている。

 私が以前、慶應義塾大学教授の田中辰雄氏らと研究したところによると、ネットで批判や誹謗中傷を書き込む人は、「ネット上では非難しあっていい」「世の中は根本的に間違っている」「ずるい奴がのさばるのが世の中」などの考えを持っている傾向があることが分かった。

 社会に対して否定的で、不寛容で、攻撃的で、まさに極端な考え方を持っている人たちだ。そういった「極端な人たち」が、ひとたびネット炎上が発生すると、我先にとネット上に批判や誹謗中傷を書き込みに行くのである。そして、先ほどの片瀬さんの例にもあったとおり、中には大量のアカウントを作成して執拗に攻撃するものまで現れる。

 ネット炎上がひとたび起こると、ネット上は批判や誹謗中傷であふれかえるように見え、「この人はこんなに叩かれているんだ」と思いがちだ。しかし炎上参加者のこのような極端さを知ると、まるで「極端な人」がネット世論をリードしてしまっているようにも見える。

「ネット上では『極端な人』が多い」は世界共通の認識

「極端な人」をネットでよく見かけるというのは、日本に限った話ではない。

 アメリカの歌手アリアナ・グランデさんと婚約していたコメディアンのピート・デイビッドソンさんは、2018年にインスタグラムのアカウントを消した。その理由が、SNSにあふれる攻撃的なメッセージだ。

 デイビッドソンさんは、グランデさんと正式に付き合うようになってから、彼女のファンに攻撃されるようになった。英国メディアBBCの報じたところによると、「インターネットは邪悪な場所だ。自分にとって気持ちのいい場所じゃない」と最後に書いて、アカウントを削除してしまったようである。

 また、人気作『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』に絡んで、アジア系米国人のケリー・マリー・トランさんは、インスタグラムで人種差別的な攻撃を大量に受けてインスタグラムから離れることとなった。アジア系のキャラクター(及び俳優)が、スター・ウォーズという40年以上続く超人気作に、重要な役回りで登場することが許せないファンが攻撃を仕掛けたようだ。

 そのような著名人が攻撃を受けるだけではない。ネット上のいじめも、世界の大きな問題となっている。AP通信とMTVがアメリカで行った世論調査では、15~26歳の若者の7%に、ネットいじめの被害経験があった。

 特に深刻なのが、アメリカで普及率の高いフェイスブックである。誹謗中傷が投稿されるだけでなく、それに対して同調するようなコメントや、いいねを押す人も被害者を傷つけるのに加担している。その一方で、誹謗中傷に反対意見を投稿するような子は少ない。その理由としては、被害者を守ろうとした子が今度はターゲットにされるのを恐れているということが挙げられる。

 仕組みは現実社会のいじめと似ているが、より手軽に出来てしまい、かつ、学校から帰っても24時間そのようないじめに晒される可能性があるというのが、ネットいじめの危険なところである。

 様々な研究も、ネット上では「極端な人」が多いということを示している。南カリフォルニア大学准教授のパブロ・バルベラ氏らが、2011年と2012年のスペインとアメリカで行われた選挙について、それぞれ1万2000人と5万人のツイッターユーザのツイートを詳しく分析したところ、極左と極右のユーザのツイート頻度がはるかに高く、ツイート全体に与える影響力が非常に高かったことが分かった。

 また、イエール大学のアントン・ゴルヴィッツァー氏の研究によると、年齢や政治的傾向に関係なく、SNSを利用する時間が長いと、社会における政治的意見を極端に感じるという結果も出ている。つまり、ネットを利用している人ほど、社会は極端な意見であふれ、分断が進んでいると感じるということだ。

 どうやらネットが怖いところというのは世界共通で、普遍的な認識らしい。

(続く)



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