【第19回】古代人から何を学ぶのか?
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【第19回】古代人から何を学ぶのか?

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★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、哲学者・高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

日本人のルーツの謎

日本列島では、ホモ・サピエンスよりも古い旧人類の化石は発見されていない。発見された化石は、約3万8千年~3万年前の年代に集中していることから、日本人の祖先は、その頃に大陸から渡来したというのが定説である。

その後、日本人のDNA解析によって、ホモ・サピエンスが日本列島に渡ってきたルートは、サハリンから北海道への「北海道ルート」、朝鮮半島から対馬への「対馬ルート」、アジアから沖縄への「沖縄ルート」の3つとみなされるようになった。古代の海面は低く、サハリンと北海道は陸で繋がっていたし、対馬ルートでは、多くの小島伝いに、簡単に渡ることができたはずである。

ところが、沖縄ルートは最短でも111キロメートルの距離があり、しかも海峡全域には「黒潮」の激流があるため、現在の動力船でも困難なルートである。いかなる方法で古代人が海峡を渡ることができたのか、大きな謎だった。

この謎に迫るため、国立科学博物館の研究チームがクラウドファンディングで資金を集め、3万年前の道具と材料だけを使った渡航の再現実験を行った。2016年、台湾に多く生息する「ヒメガマ」という草を刈って「草舟」を作製、2017年、「麻竹」で「竹舟」の筏を作製して挑んだが、どちらも黒潮に流され、舟が大きなダメージを受けて失敗した。しかし、2019年、丸太を繰り抜いた「丸木舟」で、ついに台湾から与那国島への渡航を成功させたのである!

本書の著者・雨宮国広氏は、1969年生まれ。山梨県の高校卒業後、丸太小屋造りのアルバイトをきっかけに大工修業を開始した。「一般住宅、文化財修復、社寺建築、数寄屋建築、民家再生、水車」などの現場を体験した後、独立して「雨宮大工」を開業。「縄文大工」と自称し、縄文式小屋に暮らしている。

古代人の道具と材料で、長さ7.5メートル、5人乗りの「丸木舟」を作製したのが、この雨宮氏である。彼は、木製の柄に尖った石を嵌め込む「石斧(せきふ)」を数多く作製し、それらの石斧だけを使って能登半島の森にある巨大な杉の木を切り倒した。彼が石斧を振り下ろした回数は、6日間で3万6000回に及んだ。その木を石斧で繰り抜いて「丸木舟」を完成させたのである。

さて、静岡県沼津市の「井出丸山遺跡」には、約3万8千年前の石器群が出土しているが、その中に、神津島産の黒曜石が含まれていることが考古学界で注目されている。つまり、井出丸山の古代人は、わざわざ神津島に舟で渡って黒曜石を持ち帰っていたわけで、それが人類最古の「意図的な往復航海」の事例だというのである。なぜ古代人は、それほど黒曜石を必要としたのか。

本書で最も驚かされたのは、その黒曜石の凄さである。そもそも黒曜石は火山活動で生み出された天然のガラスで、打ち割ると鋭く剥がれるが、それが鋭いナイフの役目を果たす。雨宮氏は、車に轢かれて死んだタヌキを見つけて、「空豆ほどの大きさ」の黒曜石で一匹全体を「見事に解体できた」そうだ。その切れ味は「レーザーメスのように指先に何の抵抗もなく切れる」という。本書に登場する古代人の知恵の数々には、実に驚かされるばかりである!


本書のハイライト

現代社会の暮らしには、ハイスピードで効率よく仕事をこなさなければ、利益が生まれず暮らし向きがよくならないという殺伐とした雰囲気があるが、石斧を手にすると穏やかな心持ちになる。「時は金なり」の束縛からの解放感は、たまらなく刺激的なのだ。人間本来の生き方は、ここにあると確信してしまうほどだ。解放された心は、とても敏感に自然を感じ取る。「コン、コン、コン」と響き渡る石斧の音は、すぐに森の静寂に吸い込まれていく。同時に、風の声、虫の声、小川のせせらぎがいつになく聞こえてくる。足元のアリ達の足音まで聞こえてくるかのように、心が研ぎ澄まされていくのである。(pp. 212-213)

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著者プロフィール

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高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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