見出し画像

数学0点の男が「最も美しい数式」を解説

高校時代は数学0点にとどまらず、学年ビリになった落ちこぼれの過去を持ち、現在は再生回数2,200万超、10万フォロワーを集める数学講師ユーチューバーが、小説『博士の愛した数式』で知られる超シンプルな公式を日本一分かりやすく解説した新書『中学の知識でオイラーの公式がわかる』を刊行。オイラーの公式が分かれば、高校数学の基礎が一通り身に着くのも嬉しい。ナビ動画もあるので、併せて読むと万全! 「人類の至宝」に触れる喜びをあなたに。

以下、著者・鈴木貫太郎氏が、オイラーの公式の根幹をなす「e」との出会いを綴ります。

オイラーの公式との出会い「eってなんだよ?」

私が人類の至宝「e^iπ=−1」(^の後は指数を示す)というオイラーの等式を初めて見たのがいつだったかは、はっきりと覚えていません。しかし、鮮明に残っている第一印象は「この式の意味を理解するのは俺には無理だ」というものです。そう感じたのは、「e」というものが何なのかそもそも分かっていなかったからです。

かろうじて「無理数」であることだけ知っている他は何も知らない「e」という数の指数に、虚数iと無理数πがついているのに右辺が「-1」というシンプルな整数になるなんてあり得ないと思いました。

「e」というのは日本の教育課程では数Ⅲで学習します。日本の多くの高校では悪しき伝統として大学進学を文系・理系で分類し、文系を選択した生徒は数Ⅲをやらないのが普通です。私が進学した早稲田大学社会科学部は文系ですが、それだから私は「e」を学習しなかったわけではありません。

私の出身高校である埼玉県立浦和高校は文系理系を問わず全員が数Ⅲまで必修で、しかも高校1・2年の2年間で数Ⅰ〜数Ⅲまで終わらせるというスピードカリキュラムでした。そのハイペースについていけなかったのが半分、もう半分は別の理由で完全に落ちこぼれてしまい、結局「e」については何もわからないまま、というよりその存在すらも知らずに卒業してしまいました。

私は、高校サッカー全国制覇3回という伝統を持ち、超進学校でありながら強豪ひしめく埼玉において常に上位に進出していた浦高サッカー部に強く憧れ、入試をパスするのに必要な95%の点数を得るために受験前の数ヶ月は連日12時間以上勉強しました。合格後はその反動で学業については完全に燃え尽きてしまい「部活だけ行けばいいや」ということで、午前中は授業をサボって遊びに行ってしまうことが多かったです。なので、授業の進度が早かろうが遅かろうが受けないことにはついていきようがありません。落ちこぼれた理由の半分は「そもそも授業を受けていなかった」ということです。

そんな高校生活だったので大学に入るのに2浪してしまい、文系だったから数学は数Ⅱまでしか勉強しなかったので、「e」については知らないまま時が過ぎていきました。それでも数学自体は高校受験の時は得意科目で一番好きな科目だったので、何となく始めたアルバイトの塾講師でも教える科目は算数・数学でした。

なりゆきで始めたアルバイトから正社員となり、その後結婚して次男の誕生を機に専業主夫となり、妻の転勤でロンドンに住んでいた45歳の頃、子供の学校(米国系インターナショナルスクール)の日本人ママ友ランチに毎回出席していたところ、元塾講師であることがバレて3人の日本人高校生の家庭教師をすることになってしまいました。

もちろん教科書は英語で書かれていましたが、英語が苦手な私でも苦になりませんでした。というのも、数学の問題なんて何語で書かれていてもほぼ意味はわかります。アメリカのカリキュラムではそもそも文系理系の区別などなく、高校2年になると日本の数Ⅲの内容がじゃんじゃん入ってきました。それ自体はとてもいいことだと思いますが、如何せん数Ⅱまでしか勉強していない私にとっては困ったことになり、そこで日本から本を取り寄せて数Ⅲを勉強することにしました。

しかし、受験生に一番多く使われているような参考書をどんなに読んでみても「e」ついての定理・公式が理解できません。定理・公式そのものは当然書いてありますが、なぜそれが導かれるのかが書かれていない(書かれているかもしれないが分からない)。日本の高校生は果たして理解して「e」を使っているのだろうか? そんな疑問を持っている時にたまたま、日本で5本の指には入るであろう難関大の慶應医学部の学生と話す機会がありました。純粋に教えて欲しいという気持ちで、「e^xはなんで微分してもe^xなの?」と聞いてみました。するとその返事は「そういうものだから」「え!じゃー理由は知らないの?」「うん」

たったサンプル数1で結論づけてしまうのはどうかと思いますが、理系の難関大学の学生ですらそういった状況であるので、他は推して知るべしでしょう。日本の高校生の事情はさておき、私は理由もわからず、自分で導き出すこともできない公式・定理を「これは覚えておきなさい」と言うのが大嫌いなので、とにかくできるだけ多くの本を読み、そして現代ならではのネット検索も利用して、謎が氷解していった経緯は忘れてしまいましたが、なんとか、「eの定義とそこから導かれる3つの重要な定理・公式」を論理的に結びつけて理解することができました。それが本書の主要部分となっている「eの本質」です。

「e」の本質がわかれば次は、「人類の至宝」であり「博士の愛した数式」である「e^iπ=−1」というオイラーの公式を理解してみたくなりました。やはり日本から「オイラー」と名のつく本をすべて取り寄せて読みあさってみましたが、これが実にわからない。とかく数学の本というのは数式が次々と改行されていくのを目で追っていくうちに何が何だか分からなくなってしまうもので、これらの本もその例外ではありませんでした。理解力のない私が悪いのですが、つい、サーっと読んでいくうちに分からなくなってしまうというのを繰り返していました。それでも散々苦労し相当な時間を要してなんとか理解することはできました。

オイラーの公式をもう少しコンパクトに、それでいてきちんと論理を一つ一つ納得しながら理解できる方法はないかと考え、本質はそのままにできるだけ無駄な部分を削ぎ落としてまとめたのが本書です。「オイラー本」としては画期的な薄さでしょう。

内容は、元々私が公開していた10本の動画がベースとなっています。本書も紙ないしは電子書籍である以上、改行されていく式を目で追っていくうちにわけが分からなくなるという数学書の宿命は避けて通れませんが、私が動画発信をしているというメリットを最大限生かし、読むだけではつまずきやすい数式部分を動画で解説することで理解しやすくなっているはずです。ぜひ本をご購入の上、動画と合わせてお読みください。

本書の解説動画の再生リスト(Vol.1〜Vol.20)


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

光文社新書ではTwitterで毎日情報を発信しています。ぜひフォローしてみてください!