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もつ焼きをおかずにごはんを食べる|パリッコの「つつまし酒」#165
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もつ焼きをおかずにごはんを食べる|パリッコの「つつまし酒」#165

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いつものセットで昼飲みを

「サワー」という言葉を生み出したお店として知られる「もつ焼きばん」という名酒場があります。昭和33年に中目黒で創業し、現在は都内に5店舗。それがどこも、なんと午前11時半から夜までの通し営業をしているので、僕の大好きな昼飲みをするのにありがたすぎるんですよね。
 僕がよく行くのは「高田馬場店」。最近、期間限定で「昼飲みセット」というのを出していて、これがなんと、レモンサワーにおまかせもつ焼きが5本ついて税込み858円という大サービス価格! こないだもここでね、昼間っからぽーっと飲んでたんですよ。

「もつ焼きばん 高田馬場店」
レモンサワーと「ぬか漬け盛り合わせ」(308円)

 もつ焼きが来るまでのおつまみとして、ぬか漬けを頼んで、レモン丸々1個ぶんを絞って作るレモンサワーをちびちびと飲みはじめる。この時点でもう幸せ。するとしばらくして、焼きたてのもつ焼きがやってくる。もうそれでじゅうぶんなんですけれども、僕、ここの「レバカツ」もまた大好物で。ひとり飲みにはちょっとおつまみ過多だと思いつつ、どうしても頼んじゃうんですよねぇ。

右上が「レバカツ」(308円)

 まずもって、単品でも1本121円とリーズナブルなもつ焼きが、どれも大ぶりでジューシーでものすごくうまい。そしてレバカツ。これが食感から推察するに、スライスしたレバーを繋ぎ合わせてカラッと揚げたであろう、成人男性の手のひらくらいはある巨大さ。そこにさらりとした甘酸っぱいソースがたっぷりと染み込んで、も〜、お酒が進んでしょうがない。
 はぁ〜、今日も大満足だなぁ……。

定食もあったんだ!

 な〜んて悦に入っていた僕の穏やかな心を突如かき乱したのは、あとから入ってきたサラリーマンふたり組だったのです。
 お、この時間から昼飲みですか?  同士同士……なんてニヤニヤと横目に存在を感じていたところ、次の瞬間、店員さんに対して衝撃の注文をしたんですよね。
「オレ、『もつ焼き定食』ね」
「あ、オレもそれで」
 え?  も、もつ焼き定食!?  そんなものがあるの?  と店内を見回すと、あ、真横の壁に思いっきりあるわ。

「定食メニュー」

 ふだん街を歩いていても、まったく興味のないジャンルの店、僕の場合は、たとえば美容院なんか、目の前にあっても視界に入らないものです。その現象、酒場のなかでも起きるんですね〜。あんなにくまなくおつまみメニューを検討し、目ざとく昼飲みセットなんかも発見しておきながら、定食メニューだけがまったく視界に入っていなかった。なぜならば、この店でごはんを食べるという選択肢が、自分になかったから。
 青天の霹靂とはこのことです。突然、もつ焼きをおかずにうまそうに白メシをほおばるふたりが、うらやましくてしょうがなくなってきた。自分がなんだか、無粋でみじめな存在に思えてきた。僕は、恥ずかしさから半泣きになりながら、残りのもつ焼きとレバカツを口に押し込み、レモンサワーであわてて流し込んで、そそくさと店をあとにしたのでした。

そして開拓者となる

 数日後のお昼どき、当然僕はもつ焼きばん 高田馬場店にいましたよね。注文はもちろん、もつ焼き定食。ただ、酒に意地汚い僕のことですから、やっぱりそれだけでは帰れません。ホッピーセットももらいましょうね。そうなんです。つまり今日は、もつ焼き定食をつまみに飲んでやろうというわけなんです。それからついうっかり、いつものクセでレバカツも注文。

「ホッピー・白」(462円)
安定のレバカツ

 すぐにホッピーセットとサービスのピーナッツ。それからレバカツが到着。ここまでは完全にいつもやっていることです。が、今日の僕はここからが違う!  しばし後、ついに念願のもつ焼き定食が到着!

「もつ焼き定食」(680円)

 おおお〜、なんて新鮮な景色。お盆の上は、もつ焼きが4本に、ごはん、ぬか漬け、ポテサラ、みそ汁。サイドの小鉢も全部つまみになるから、レバカツはやっぱり過多だったな〜。まぁいい。いざ、もつ焼き&ごはんの新大陸へ!

未開の地

 おまかせでお願いしたもつ焼きは、塩の「かしら」「あぶら」、タレの「ガツ」「しろ」かな。
 まずはウォーミングアップとしてみそ汁をズズズとすする。すると一気に脳が食事モードになるから不思議。ところが続いて、おもむろに串焼きを手にとり、肉にかぶりついて串を引き抜くという、いわゆる“酒場行為”を敢行。このへんのちぐはくさがもう、楽しくてたまりません。
 で、すかさずホッピーをごくり……ではなくて、今日はなんと、ごはんをはふはふ、のほうなんですよね。旨味がぎゅっと詰まってクセのないかしらや、その名のとおり脂たっぷりのあぶらが白メシに合うのは予想どおり。おもしろかったのはガツやしろで、それぞれのクニュクニュ、しゃきしゃき、ふわふわ、とろとろとした食感と、串焼きならではのタレの味、さらには、ほんのりとあるもつらしいクセがごはんと合わさる新感覚。これがなんとも楽しいし、美味しい。なぜ今までこの発想にいたらなかったんだろうか。もつ焼き、こんなにもごはんに合うのに!
 と、なったところでやっとホッピーをぐい〜! あぁ、こりゃあいいわ……。
 なんて、夢中でごはんを半分くらい食べすすめたところで、何者かが僕の脳内に呼びかけます。
「お〜い、僕のことも忘れないで〜、ここだよ〜」
 よくよく耳をすませてみたところ、声の主はなんと、食べかけのままお盆の外に追いやられていたレバカツ君!
 おっと、ごめんごめん。忘れてたわけじゃないんだけど、つい定食に夢中になっちゃって。……というか、あれ?  もしかしてレバカツもこれ、めちゃくちゃごはんに合うんじゃないの?

そこでこう!

 そこであわてて、残っていたレバカツをオンザライス!  みっしりとして食べごたえのあるレバーの旨味と、ザクザクの衣と、たっぷりのソースが、白メシに合わないはずがない!  一般的なカツ丼とも、ソースカツ丼とも違う、新しいカツ丼だ!  レバカツ、過多じゃなかった!
 なんて、自分で自分を大絶賛したくなる美味しさ。もしかして僕、初めてやってきた新大陸で、ものすごい財宝を発見をしてしまったんじゃないでしょうか……。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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