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【第72回】どうすれば「ペアレントクラシー」を打破できるか?

光文社新書

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★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

「親ガチャ」社会の教育現場

1996年10月20日、「中選挙区制」に代わって「小選挙区比例代表並立制」による衆議院選挙が初めて実施された。それ以降の総理大臣は、橋本龍太郎→小渕恵三→森喜朗→小泉純一郎→安倍晋三→福田康夫→麻生太郎→鳩山由紀夫→菅直人→野田佳彦→安倍晋三→菅義偉→岸田文雄と引き継がれてきた。
 
この12人の中で二世や三世でない政治家は菅直人・野田佳彦・菅義偉の3人だけである。つまり、「小選挙区比例代表並立制」が始まって以来の26年間、日本の総理大臣のうち9人つまり75%は「世襲」政治家だったわけである!
 
2018年の第2次安倍内閣では「世襲」の閣僚が6割を超えて大きな話題になった。現在も国会議員の3割が「世襲」であり、地方議員でもその割合は増え続けている。まるで大名時代のように、殿様が引退すれば子が地盤を引き継ぎ、その親子を支える家臣の利権も、家臣の子に引き継がれる。小選挙区では一人しか当選しないため、地盤を引き継ぐ候補者が圧倒的に有利である。
 
そもそも立候補するためには、世界一高い供託金(小選挙区300万円・比例区600万円)を準備しなければならない。たとえ真摯に世の中を改善したいと願う有意な人材がいても、立候補そのものが困難なのが日本の現状である。逆に、有力議員の子というだけで、信じ難いほど無能で無教養、あるいは倫理観の完全に欠如した人物が、堂々と議員や大臣になってしまうこともある。
 
本書の著者・志水宏吉氏は1959年生まれ。東京大学教育学部卒業後、同大学大学院教育学研究科修了。大阪大学助手・講師・助教授、東京大学助教授などを経て、現在は大阪大学教授。専門は教育社会学・学校臨床学。著書に『学力を育てる』(岩波新書)や『公立学校の底力』(ちくま新書)などがある。
 
さて、現在の日本では、政治家に限らず、芸能人や音楽家やスポーツ選手をはじめ、あらゆる分野で「二世化」が進行している。彼らは生まれながらにして、一世の知識と技能、モチベーションの高さと経済的豊かさ、人間関係とネットワークを引き継ぎ「サラブレッド化」される。その結果、とくに教育の世界で多様な「格差化」が広がっているというのが、本書の指摘である。「アリストクラシー(貴族支配)」から「メリトクラシー(業績支配)」を経て、「ペアレントクラシー(親支配)」時代に突入したというわけである。
 
教育現場では、「一人一人が等しく大事にされている」ことを示す「公正(equity)」と「一人一人の力を向上させることができている」ことを示す「卓越性(excellence)」の二つの概念が競合している。子どもの学力を考える際、「公正」から「格差是正」、「卓越性」から「水準向上」が具体的に望まれる。
 
本書で最も驚かされたのは、教育において第一に重要なのは「公正」であり、その後に「卓越性」が追求されるべきであり、「公正無視の卓越性は危険きわまりない」と志水氏が現状を批判している点である。子どもたちの「卓越性」は、単に学力に限らず、スポーツや音楽や芸術、外国語やコミュニケーション能力、手先が器用とか発想がおもしろいなど、多元的に測られなければならない。たしかに、個性を尊重する「公正」が満たされて、多元的な「卓越性」も伸ばせたら、「ペアレントクラシー」を打破できるかもしれないが……。

本書のハイライト

ペアレントクラシーのなかで、恵まれた社会層のなかには、子どものために必要な教育を自由に選択・購入しようとする人々がいる。彼らにとっては、その中身が公教育(学校)であるか、私教育(塾や習い事)であるかは、いわば二の次である。子供のためになるなら、どちらでもいいのだ。その結果として、公教育の内実が掘り崩されていくという現状が生じつつある。言葉を変えるなら、卓越性追求のために、公教育が大切にしてきた公正の原理がないがしろにされ、その中身が侵食されはじめているのである。(pp. 237-238)

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著者プロフィール

高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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