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【54位】デヴィッド・ボウイの1曲―俺節の裏マイ・ウェイで、「変・身!」とポーズを決めて

「チェンジズ」デヴィッド・ボウイ(1972年1月/RCA/米)

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※画像は西ドイツ盤ピクチャー・スリーヴです

Genre: Art Pop, Rock
Changes - David Bowie (Jan. 72) RCA, US
(David Bowie) Produced by Ken Scott and David Bowie
(RS 128 / NME 162) 373 + 339 = 712

必殺フレーズ「チ・チ・チ・チ・チェーンジーズ!」でお馴染み、デヴィッド・ボウイのテーマ曲みたいなナンバーがこれだ。ロック史に永遠に残る不世出の芸術的巨人の彼が、自らのアーティスト人生を「こうするのだ!」と宣言したマニフェスト文とも言える。ライヴの定番曲であり、06年の引退公演で最後に演奏されたのも、この曲だった。

ボウイのアーティスト人生とは「変わり続けること」と同義だった。「違う男にならなきゃ。時間が僕を変えるかもしれない。でも僕は時間に逆らえない」との意味が歌詞にあるように、彼はペルソナを変え続けた。そして「転じて『異質なもの』と向き合え(Turn and Face the Strange)」と自らに課すことの連続のなかから、ロック音楽を未来的な総合芸術の域にまで高めていった。だから全ロック・ファンは彼に恩義がある。

という出発点となったこの曲では、傑出したシンガー・ソングライターとしての才気が、まず見てとれる。本人いわく「ナイトクラブ・ソングのパロディ」調の曲想を、この上なく美しくピアノで展開したのは、直後にイエスの一員となる名手リック・ウェイクマンだ。

当曲はボウイの4枚目のアルバム『ハンキー・ドリー』(『教養としてのロック名盤ベスト100』では28位)のオープニング曲だった。そして同作の4曲目までが(「ピアノと歌」のナイトクラブ調で)ゆるやかな連作関係となっている。つまり、あの「ライフ・オン・マーズ?」までだ。だからこの曲も「裏マイ・ウェイ」の一幕と見るべきなのだ。

フレンチ・ポップの曲「いつものように(Comme d'habitude)」がポール・アンカの英詞を得て「マイ・ウェイ」になって大ヒットしたのは有名な話だが、じつはアンカ以前にボウイも詞を書き、音楽出版社に提出していた。しかしボツにされていた。このことを根に持った彼は、「マイ・ウェイ」と同じコード進行で「ライフ・オン・マーズ?」を書いたのだが、この「チェンジズ」にも「仕返しの魂」は大いに波及している。そこが「人生は『変化してなんぼ!』」というテーマにつながった。さらに、ザ・フーの「マイ・ジェネレーション」や、ディランの「時代は変わる」にも大きくインスパイアされていた。

当曲のシングルはイギリスではチャート・インせず、ビルボードHOT100では66位止まりだった。しかし、すでにこの時点でメンツが揃いつつあったバンドを引き連れて、次作『ジギー・スターダスト』でボウイは天下を獲ることになる。つまり、まるで変身ヒーローが「変わるための掛け声」を発している瞬間みたいなナンバーこそが、これだった。

(次回は53位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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