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【第81回】なぜ「少年法」が必要なのか?

■膨大な情報に流されて自己を見失っていませんか?
■デマやフェイクニュースに騙されていませんか?
■自分の頭で論理的・科学的に考えていますか?
★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

「少年犯罪」の根本的な原因はどこにあるのか

アメリカに留学して最も驚いたことの一つは、ショッピング・モールの一角で普通に「銃」が販売されていることだった。日本でいえばイオンやドン・キホーテに相当する総合小売店のスポーツ・コーナーの奥に鍵のかかったショーケースがあり、そこにピストルやライフルが展示されている。野球のバットやテニス・ラケットの隣に殺人兵器があることに異様な違和感を覚えた。
 
当時はミシガン州の運転免許証さえ持っていたら、最低100ドル程度で誰でも小型拳銃を買うことができた。私が大学院時代に個別指導していたレバノンの部族長の息子アリは、何丁ものピストルやライフルばかりでなく、どこで手に入れたのかスナイパー・ライフルやハンド・マシンガンも持っていた。
 
アメリカ合衆国の連邦法は「人民が武器を保有しまた携帯する権利」を保障し、アメリカ人の50%は何らかの銃を保有するといわれる。万一の場合は自分の銃を持って「民兵」に志願するのが「一人前の大人」だと考えるアメリカ人も多く、誕生日やクリスマスにピストルやライフルを贈る習慣もある。
 
2013年にケンタッキー州でクリケット社製の「マイ・ファースト・ライフル」を誕生日のプレゼントにもらった5歳の男児が2歳の妹を撃ち殺した事件が発生した。2021年にミシガン州で15歳の少年が高校で11人を死傷させた銃撃事件では、使用されたライフルは母親のクリスマス・プレゼントだった。これらの事件で、5歳の男児や15歳の少年に「罪」の全責任を負わせることはできるだろうか。そのためにアメリカにも日本にも「少年法」が存在する。
 
本書の著者・鮎川潤氏は1952年生まれ。東京大学文学部卒業後、大阪大学大学院人間科学研究科修了。松山商科大学専任講師、金城学院大学助教授、関西学院大学教授などを経て、現在は関西学院大学名誉教授。専門は刑事法学・少年法。著書に『犯罪学入門』(講談社現代新書)や『少年犯罪ほんとうに多発化・凶悪化しているのか』(平凡社新書)などがある。

さて、2022年4月、「民法」の成年が18歳と定められたのに合わせて「改正少年法」が施行されたが、こちらは従来通り20歳を「成年」、18~19歳を「特定少年」とみなすことになった。なぜ「未成年・特定少年・成年」の3種類になったのか、その詳細な経緯が本書で分析されている。鮎川氏は成人前の不安定な成長期の少年を「マージナルマン(境界人)」と呼び、日本の社会がどこまで彼らの「更生」の可能性を追求できるかが試されているという。
 
本書で最も驚かされたのは、現実の「事件」と裁判の「罪状」のギャップである。たとえば、読者が裁判員裁判で未成年者の「放火」事件を担当することになったとしよう。放火は不特定多数の人命を危険に晒し、社会に多大な損害を与える大罪であり、成年並みの重罪に課すべきだと思われるかもしれない。ところが、犯人の少年は放火した時期に大きな心理的ストレスを抱え、あるいは知的障害があり、「心神喪失」や「心神衰弱」が疑われる場合もある。少年の放火は保護者や周囲から十分な愛情を与えられないため精神的に追い詰められ、自分への関心を取り戻すため起こされることも少なくないという。

自転車に乗った少年が出来心で歩行者のバッグをひったくれば「窃盗」である。ところが、歩行者がすぐにバッグを離さなかったため怪我をしたら「強盗」とみなされる。その「罪状」で少年の人生が大きく変わるのである!

本書のハイライト

少年法は矛盾の塊だ。解きほぐすことができないアポリアを持っている。成人モデルを当てはめて、理論的に鈍化させることによって解決できるような問題ではない。それは法律の問題ではなく、対象としている少年の元来の特性および、現代社会に置かれている社会的および存在論的な位置による。(p. 287)。

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著者プロフィール

高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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