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ひとり芋煮会|パリッコの「つつまし酒」#96

「はあ、今週も疲れたなあ…」。
そんなとき、ちょっとだけ気分が上がる美味しいお酒とつまみについてのnote、読んでみませんか。
混迷極まる令和の飲酒シーンに、颯爽と登場した酒場ライター・パリッコが、「お酒にまつわる、自分だけの、つつましくも幸せな時間」について丹念に紡いだエッセイ、それが「つつまし酒」。 
そろそろ飲みたくなる、毎週金曜日だいたい17時ごろ、更新です。

明日は芋煮だ!

 東北地方の秋の風物詩に「芋煮会」がありますね。家族や友達と河原などに集まり、大鍋でサトイモ、牛肉、ネギ、こんにゃくなどを煮て、それをつつきつつ宴会をするという噂の。
 若い頃は、お花見やバーベキューと比べてなんだか地味に感じることもあり、なんで芋煮? なんて思ったりもしてしまってたんですが、ああいうものは、歳を重ねるごとにしみじみと美味しく感じるようになってくる。ぜひとも一度、芋煮会ってのをやってみたい。いつからか、そんな思いを抱くようになりました。 
 ところで先日、仕事で埼玉県の飯能市を訪れる機会があったのですが、その前夜、突然ひらめいたんですよね。「明日は芋煮だ!」って。飯能は自然豊かな街で、入間川沿いの「飯能河原」では火器の使用も許可されており、気候のいい時期にはバーベキュー客で大変なにぎわいとなります。というのは以前「突然の野外鍋焼きうどん」の回でも書いたか。
 もう秋は過ぎ、冬も終わりに近づいているけれど、最近、日中は日差しがポカポカと暖かいことも増えてきた。予報を見ると明日は天気も良さそうだ。絶好の芋煮日和じゃないか! と思ったわけなんです。
 コロナの影響で、大勢で予定を合わせて集まったりはできないけれど、ひとりで好きにやる芋煮会ならば、むしろこのご時世向きの楽しみと言えるでしょう。はたしてそれは「会」なのか? という疑問は残りますが、とにかく楽しそうだ。
 というわけで当日、午前中からの仕事をつつがなく終え、いよいよひとり芋煮会のスタートです。

芋煮会に関するさまざまな気づき

 今日家から持ってきたのは、コンパクトな折りたたみテーブル、鍋、コンロ、取り皿用のカップ、小さなナイフとまな板。なるべく身軽でいたかったので、食材はすべて現地調達の方針にしました。
 なので、まずは駅ビルのスーパーで買い出し。必要なのはえ〜と、サトイモ、牛肉、ネギ、こんにゃく。それからめんつゆがいるな。おっと、酒を忘れるわけにはいかないぞ。それから、芋煮ができるまでの間用の軽めのつまみ。そのくらいかな? あ、シメのうどん玉もだ! なんてあれこれ買い込み、徒歩10分ほどの河原まで移動。ここで今回ひとつめの気づきがありましたね。ひとり芋煮会、荷物運びを分担してくれる人がいないので、荷物がめちゃくちゃ重い!

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手がちぎれるかと思った

 冬の終わりの平日の河原には、人出はほとんどありませんでした。なので無事、トイレや水場が近い場所に陣取ることができ、準備開始。が、ここでもまた新しい気づきが。大きめのサトイモが4つ、ぶっといネギが2本、こんにゃくが1枚。これでもスーパーで売られていた最小単位なんですが、とてもひとりで食べきれる量じゃないですよ。ひとり芋煮会、食材が余る!
 続いて小さなテーブルの上に乗せたさらに小さなまな板の上という、限られたスペースでの食材の仕込みを始めます。これがまた、ものすご〜く大変。特にサトイモの皮むき。自宅だったら一度ゆでたり電子レンジを使うなどして、つるんっとむく方法も使えますが、ここは容赦なき屋外。ひとり芋煮会、家で仕込みしてきたほうが圧倒的に楽! ……って、もう気づきの話はいいですね。

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不格好ながら、なんとか準備完了

こんなに楽しいことを隠してたんですね

 下ごしらえが終わった野菜類を鍋で煮つつ、いよいよ飲み始めましょう。
 今日の一杯目は「さつま白波ハイボール」。はい。芋煮に合わせて芋焼酎を使ったハイボールを選んでみました。これを、つなぎにしては立派すぎるスモークサーモンをつまみにゴクゴクっとやれば、目飛びこんでくるのは真っ青な空。う〜ん、まだ芋煮ができてないうちからすでに最高だぞこりゃ……。

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湯気を眺めながら飲んでるだけでもいい

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日差しが暖かくて上着脱ぎました

 しばらく鍋を煮込んだのち、目分量でドボドボとめんつゆを投入。再び沸騰したら、いよいよ肉を加えていきましょう。また、今日買ってきた牛肉が、どう考えてもお買い得だったんですよね。脂身と赤身の対比が美しい国産牛肉の切り落とし218g。なんと税抜き300円! 

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「広告の品」だそうで

 なにしろひとり芋煮会ですからね。この牛肉、ぜ〜んぶひとりじめですよ! あはは、楽しいなぁ、もう。

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牛肉率高すぎの芋煮となりました

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いただきます!

 いざ本番。欲望のおもむくままに芋煮をむさぼっていきましょう。まずは主役のサトイモから。まだほんのりサクッとした食感が残っていて、だしも染みきっていないんだけど、だからこそ素朴な芋自体の味わいが感じられる。こういうのがしみじみとうまいんだよな〜、いよいよ。大好きなネギもたっぷりで幸せだし、こんにゃくの名脇役っぷりもさすが。そして何より牛肉! 柔らかくて、上品な旨味たっぷりで、つゆのカツオだしの香りとのハーモニーがまたいいんだ。は〜幸せ。完全に到来したな、芋煮の時代。

 さて、鍋の最後のお楽しみといえば、やっぱり“シメ”。おおかたの具を食べ終わりうどん玉を投入しようと思うんですが、なんでも聞くところによると、本場東北の芋煮会では、そこにカレールーを加えた「シメカレーうどん」が流行っているのだとか。想像しただけでたまらんですよね? そんなの。というわけで実は、スーパーでカレールーも買っておいたんだ〜。

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シメはカレーうどんで!

 お酒はこのタイミングで日本酒にチェンジ。さすが埼玉県というか、スーパーで秩父の地酒「秩父錦」のカップが売られていたので、そちらを。
 鍋をつかんで、直接ずるずるとうどんをすする。あ〜はいはい。豪華食材から出ただしがたっぷりと効いた、和風のカレーうどん。うますぎるわ。いつのまにやらとろりと熱が通り、もはやペースト状と言ってもいい食感のサトイモにカレー味が染み込み、日本酒のつまみにも最高すぎますよ。

 うん。なるほどね。こんなに楽しいことを隠してたんですね。東北地方の人たち。いや〜、気づくのが遅かったなぁ。お〜い! 沖縄とか九州の人たちも、あのさぁ、こんど芋煮会やってみなよ! めっちゃくちゃ楽しいから!

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。
2020年9月には『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)という2冊の新刊が発売。『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。Twitter @paricco


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