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【第20回】沖縄における「秘密戦」とは何か?

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★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、哲学者・高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

「本土決戦」が導いた「狂気」

太平洋戦争末期、日本の指導者層は「本土決戦」を国内外に表明して「一人十殺」の徹底抗戦を叫んでいた。大本営陸軍部は、昭和20年(1945年)4月25日発行の『国民抗戦必携』という冊子を国民に配布した。その内容は、全8回にわたって全国版の新聞各紙にも絵入りで掲載されている。

巻頭には、「敵若し本土に上陸し来つたならば、一億総特攻に依り之を撃滅し、郷土を守り皇国を絶対に護持せねばならぬ」とある。「敵が上陸してきたら国民はその土地を守って積極的に敵陣に挺身切込みを敢行し、敵兵と激闘し、これを殺し、また兵器弾薬に放火したり、破壊して軍の作戦に協力しなければならない」という「抗戦命令」が、すべての日本国民に下されたのである。

表紙には、国民服を着た日本人が、アメリカ人兵士の上に馬乗りになり、喉元に短刀を突きつけている姿が描かれている。この『国民抗戦必携』には、「白兵戦の場合は竹槍で敵兵の腹部を狙って一突きに」とか、「背の高いヤンキーと戦うには、刀や槍をあちこちにふりまわしてはならない。腹をねらって、まっすぐに突き刺せ。ナタ、カマ、熊手などをつかうときは、うしろから攻撃せよ」などといった殺害方法が、絵入りで入念に解説されている。

私は、留学中にワシントンD.C.の「国立アメリカ歴史博物館」を訪れた際、この冊子が展示されているのを見て、驚愕した。乏しい素材から「爆雷」を作る方法の後には、敵戦車の「進行前面へ7キロの急造爆雷を抱えて飛び込むのも適切な攻撃法である」と書いてある。まさに「特攻」ではないか!

本書の著者・三上智恵氏は、1964年生まれ。成城大学文芸学部卒業後、「毎日放送」にアナウンサーとして入社。「琉球朝日放送」を経て、現在はフリーランスのジャーナリスト・映画監督。「沖縄と戦争」をテーマに活動し、本書は、映画『沖縄スパイ戦史』のために取材した貴重な証言の記録である。

さて、アメリカ軍は1945年3月末から沖縄諸島への上陸を開始し、日本軍による組織的な戦闘は、6月23日、牛島満・陸軍大将の自決で終結した。ところが、本島北部では「秘密戦」と呼ばれるゲリラ戦が9月頃まで続いたのである。この戦闘の中心となったのは、10代の少年たちによる「護郷隊」だった。この部隊を組織したのは「陸軍中野学校」から沖縄に送り込まれた42名の若手将校である。諜報活動の専門家が、効率的な敵の殺害方法を教え、狙撃や爆破を含めたスパイ活動を行う「少年ゲリラ」を育成したのである。

当時18歳の宮城倉治氏は、1人で100人以上のアメリカ兵を殺したと証言する。彼は体格が小柄なので、着物に赤いふんどしを着けて、村の子どものフリをしてアメリカ軍の捕虜になる。収容所の食事で満腹になると、夜中に抜け出してガソリン缶を連続爆破し、燃料庫を何度も壊滅させた。竹林に隠れて、歩いてくる大柄なアメリカ兵を小銃で「面白いように撃てた」という。

本書で最も驚かされたのは、「村の優秀な人たち」が、村の存続や降伏を進言したばかりに「スパイ容疑」で惨殺されたという証言である。当時17歳だった宮城康二氏は、海軍大尉が気に入らない住民を何人も虐殺した事件について、軍人が「人を殺すのはヤギを殺すより簡単だった」と述べている。戦争を美化するような現代人には、まず本書の膨大な証言を熟読してほしい!


本書のハイライト

沖縄戦を、敵が上陸したからたくさん人が死んでしまった出来事だと表面だけ捉えたり、防波堤にした、すまなかったという感情論に流されたりすることはもう止めて、軍隊にはつきものの秘密戦の中で、ごく普通の住民の運命がどこまで無残にも変えられていくのか、敵に殺されるのではない、友軍の作戦の中で自家中毒の形で命を落としていくという戦争の裏側こそ、学校でも教えてほしい。(p. 714)

第19回はこちら

著者プロフィール

高橋昌一郎_近影

高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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