スーパー塩辛探訪記|パリッコの「つつまし酒」#237
堂々と宣言できる自分になりたくて
一度はっきりさせちゃったら楽になるんだけどな……。
って思うこと、ありません? あ、いやいや、色恋沙汰の話ではなくてですね、たとえば、自分がいちばん好きなめんつゆ、いちばん好きなそうめん、いちばん好きな牛丼チェーン、とか。
いつも漫然と目についたものを選び、それに対して特に不満も抱かないんだけれども、あれ? 前回すごく美味しいと思ったのってどれだっけ? とたまに感じては、思い出せず、もしかしたら一生をそんな感じで過ごすことになるのかもしれない。とはいえ、一気に食べ比べて確認する機会というのも、そうそうないですよね。
だからこそ、一度はっきりさせちゃいたい気持ち、ないですか? 「私のいちばん好きな〇〇はこれなの!」って、堂々と宣言できたら、気持ちよさそうじゃないですか?
僕は仕事がら、そういう比較検証をさせてもらうことがたまにあるのですが、あれってある種の快感なんですよね。
たとえば以前、スーパーでよく見るカレールー8種類を一気に食べ比べてみたことがあります。すると、これもうまい、これもうまい……けど、あれ? おれのいちばん好きな味、これだ! って具合に、視界がものすごくクリアになる瞬間がある。今後はこのルーを基準に生きていこう! と。
加えて、その他のルーももちろん美味しいことが確認でき、食べ比べたからこそ、それぞれの方向性の違いも把握できた。ゆえに、「今日は気分を変えてこっち」とか「これとこれをかけ合わせるとおもしろそう」とか、家でルーで作るカレーの可能性ですらも、格段に広がるんですよ。
そして今! 僕がはっきりさせたいのが「塩辛」というわけなんですね。
きっかけ塩辛
酒場で「自家製」なんて書いてあると、つい頼まずにはいられない、いかの塩辛。ごはんのおかずにはもちろん、やっぱり酒のつまみとして、すさまじい破壊力を持った料理ですよね。
もちろん、生のいかを買ってきて自宅で作ることもできる。労力はそれなりにかかるけれども、間違いなくうまい。されどまた、市販品もいくらでもあるから、買いものをしていて目につき、「あ、今夜、塩辛いいな」なんて思うと、かごにほうりこんでしまう。ただし! 覚えていられない。あれ? こないだめっちゃ美味しかったのってどれだったっけ? メモっとけばよかった〜、なんて思うんだけど、次にスーパーに行くときには忘れている。対処しないと一生このままですよ。
実は、この案件をはっきりさせておきたいと思った“きっかけ塩辛”があるんです。それが、僕が常日頃から大変お世話になっているスーパー「ライフ」のオリジナル商品「いか刺身塩辛」。
いかの塩辛、ではなくて、いか“刺身”塩辛という商品名が、なんだかよくわからないんだけどなんだかいいな、と思って、なんだか買ってみたんです。そうしたらこれが、うまい。といっても、衝撃の美味しさ! 系ではなくて、しみじみと体になじむような味わいなんです。
どういうことだろう? と思い、原材料を見てみて驚きました。なんと、
・するめいか(北日本近海)
・いかわた
・食塩
しか使われていないんですよ。
パッケージされた市販の塩辛の多くには、品質をたもつための化学調味料や食品添加物が使われていることが多いですよね。ところがこのライフの塩辛は、原材料だけで言ったら、港町のおばあちゃんが手作りしたものと変わらない。そりゃあ、変な風味や不自然な甘みもないよなぁと。
マイベストスーパー塩辛
そこで、僕の悪い癖。いやむしろ、良い癖と言えるのかもしれない。市販品は幅が広すぎるので、僕が日常的にお世話になっているスーパーのオリジナル塩辛たちを食べ比べ、どれが好みかを一度はっきりさせたい! と思ったわけですね。
……さて。ここまでの文章を書いていたのが昨日の午前中のこと。そして午後、さっそく地元のスーパーをめぐってみたところ、なんと不測の事態が発生。わりとどこにでもあるイメージだったんだけど、見つからないんですよ。オリジナル塩辛が。「サミット」「いなげや」「西友」「あまいけ」「クイーンズ伊勢丹」、どこにもない。もしかしたらある場合もあるのかもしれないけど、今回僕がめぐった店舗にはなかった。ライフ以外では唯一「食品館あおば」に入っている「海宝丸」という鮮魚専門店で見つかったのみ。
「うにいか」「黄金いか」みたいな、いか刺しを使った珍味はどこにでもけっこうあるんです。けど、わたとあえて漬け込む必要のある塩辛は、手間がかかるからなんでしょうか。こんなにレアなものだったとは……。
どうしようどうしよう……。一度書きはじめちゃった原稿なのに、これじゃあ企画が成り立たない……。と、一度は思ったものの、よく考えたら今回の目的は「一度はっきりさせたい」でしたよね。つまりはもう、だいぶゴールに近づきはじめている。自分にとってのベストスーパー塩辛は、ライフのいか刺身塩辛である、というゴールに。
というわけで、最後にライフに寄ってもう一度塩辛をピックアップし、海宝丸のものと頂上決戦といきましょうよ。よ〜し、これではっきりするぞ〜!
……と思いきや、またしても不測の事態が。といっても、今回は良いほうの。なんと我らがライフ、塩辛のバリエーションが3種類もあったんです。
そこでこの3つに海宝丸を加えた4種類を、いざ食べ比べてみようと思います。当然、食べるたびに日本酒で口をリセットさせつつ。
まずは、今回のなかでいちばん高級品の海宝丸の「いか塩辛」。コク深く、味が濃厚でほんのり甘く、身はむちっとして噛み締めると旨味があふれる、いきなりお手本のような塩辛。うまいです。ほんのりと酒っぽい香りがするのは、市販品に共通しがちな特徴かな。
続いてライフの「いか塩辛」。海宝丸よりもさらに甘さと味が濃く、身にねっとり感がありますね。ひとつひとつの身が大きいから食べごたえがあり、費用対効果を考えてもお買い得な一品でしょう。
ライフの「蔵出しいか塩辛」は、一体どこの蔵から出してきたんでしょうか? それはおいおい調べていくとして、これまた味は濃く、甘さは同じライフのいか塩辛よりは控えめ。いかのぷりぷりとした食感が良く、とてもバランスのいい商品だなと感じます。
そしていよいよ、ライフの「いか刺身塩辛」! これがね、やっぱり際立ってるんですよ。個性が、前3つの違いがものすごく繊細なものだったのに対し、これは、目隠しをされて食べさせられても「いか刺身塩辛!」と答えられるレベル。やっぱり、イカとわた本来の味以外に、余計な要素がないんですよね。味がすごく濃いわけではなく、特に甘みに関しては、素材に由来するもののみ。だけど、優しくて、深くて、心に沁みるような美味しさなんですよね〜。
ひとつだけ断っておきたいのが、さすがオリジナル商品たち。どれも美味しかったことは、断じて間違いありません。けれどもいか刺身塩辛だけは、目指している方向性が違うように感じる。そして、その方向性が個人的に大好き。
よし、はっきりしたぞ。今のところのマイベストスーパー塩辛は、ライフの「いか刺身塩辛」だ!
それにしても、こんなに“いかもの”の在庫が一気に増えちゃって、どうすんでしょうね、うちの晩酌事情……。まぁ、賞味期限がそんなに短いもんじゃないし、いざとなったらチャーハンやパスタに使ってもいいし。しばらくは、いか三昧の日々を堪能しようと思います。