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人間は、そして生命は情報である―僕という心理実験Ⅶ 妹尾武治

トップの写真:ビッグバン直後に誕生した最初の分子「水素化ヘリウムイオン」が発見された惑星状星雲NCG 7027 © Hubble/NASA/ESA/Judy Schmidt
妹尾武治
作家。
1979年生まれ。千葉県出身、現在は福岡市在住。
2002年、東京大学文学部卒業。
こころについての作品に従事。
2021年3月『未来は決まっており、自分の意志など存在しない。~心理学的決定論〜』を刊行。
他の著書に『おどろきの心理学』『売れる広告7つの法則』『漫画 人間とは何か? What is Man』(コラム執筆)など。
過去の連載はこちら。

人間は、そして生命は情報である―僕という心理実験Ⅶ 妹尾武治

大昔、生命は単一の意識だった

意識のコピーについて、もし火星で動くコピーロボットに意識をコピーしたとする。その後、火星の自分は火星で悠々自適に生活をする。この時、もしコピーと本体が意識や記憶や体験を共有しない場合、そのコピーはもはや別の個体、別の意識になっていると私は思う。地球の本体が死ぬ時「火星には自分のコピーがいるから私には永遠の命がある」と思って安らかに死ねる訳はない。

そうなると、複数の身体の意識を共有することで、永遠の命を実現する形を人は目指すだろう。複数の身体の中の意識がアップロードされ共有フォルダに保存され、その全ての情報を管理する者がいるならば、その者が実体であり私の本体になるだろう。しかし、人間の脳の容量で果たしていくつまでの身体の意識を把握しきれるだろうか?

もしかすると、我々は既にそんな存在なのではないか?とさえ思う。

大昔、生命は単一の意識だった。その意識が複数の身体にコピーされ、大元の共有フォルダに共通意識(集合意識)が管理されていた。二人、三人までは、お互いに離れた身体の中の意識に気がつけた。しかし1万、10万と身体が増えていくにつれて、次第に共有している感覚は薄れ。さらに共有しているという事実さえ忘れていく。

(ちなみに『寄生獣』のミギーは、自己の身体の分裂数が少なければお互いがものを考え喋ることができるが、分裂しすぎると知能は低下していって何もできなくなり死ぬ、と主人公に解説する。我々の世界においても、種としての個体サイズが小さい方が知性のレベルが低く死にやすいように見える。つまり、情報の大元からのコピー量が知性と関連するという可能性が指摘できる。)

我々の古い脳の中には、爬虫類や魚類だった時の古い生命の記憶が残っている可能性がある。サルは生まれてから一度も見たことのない蛇に対して恐怖から回避行動を取る。乳児は泳げる。ぶつぶつしたものを見ると鳥肌が立つ。普通の人は、実際には落ちたことが無くても高所が怖いし、閉所もなんだか怖い。これらは、生物としての古い記憶だ(極端な高所恐怖症の人や、生まれもっての鳥恐怖症の人などは、この理不尽な自分の初期設定を恨んでいることもあるだろう)。

コピーを繰り返したことで、共有フォルダの意識についてその記憶を失いつつも、それを直観レベル(霊性)で感じる。それが人間なのかもしれない。

大秘宝 “ONE PIECE” の正体

これから先、人間が火星やその他の惑星で自己の意識を機械の体にコピーし続けることで、私自身がその惑星の意識の大元、つまり神になるのだろう。

我々が生きているところまでで、どこまで行けるか? それはわからない。そして、もしも命が無限なら生きることの意味も今のそれとは大きく変わるだろう。

『火の鳥』黎明編では、主人公の一人のナギが「人はいつか死ぬからこそ美しい」と述べている。生命が情報を拡散し、増やすことを宿命づけられているとしても、私たち一人一人の命の意味はまた違う次元にある。そもそも人間として生きることの意味を問うことそのものに、意味が無いのかもしれない。

〝海賊王〟ゴール・D・ロジャーが「この世の全てをそこに置いてきた」とする、ひとつなぎの大秘宝とはこのことだろう。世界は一つの情報から始まり、それを知ろうとする態度が「旅」だ。他者は全員が不可避的に「海賊仲間」であり、世界そのものが、全ての命の意識が「ひとつなぎの大秘宝」なのだろう。(続く)

過去の連載はこちら。


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