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【新刊】橋爪大三郎『アメリカの教会』まえがき&目次を公開――日本人にはなかなか分からない「アメリカを動かす血液」の歴史と現在を、植民地時代から丹念にたどる

光文社新書の10月新刊『アメリカの教会』。移民の国であるが故に、多くの宗派が存在し、分裂や統合を繰り返してきた。いまでもキリスト教が「元気な」国、アメリカの、政治・経済・社会を動かす血液ともいえる「アメリカのキリスト教」の理解なくして、この国の真実を読み解くことはできない。社会学の泰斗であり、キリスト者でもある橋爪大三郎の渾身の一作、その「まえがき」と目次を公開する。


『アメリカの教会』
 ――「キリスト教国家」の歴史と本質


「まえがき」    橋爪大三郎



アメリカのキリスト教は、不思議だ。

トランプ大統領が登場したとき、みんなそう思った。

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「福音派」という保守的な宗教右派の人びとが、アメリカには大勢いて、トランプ大統領を当選させたのだという。

「福音派」ってなんだろう。日本にそんなものは存在しない。想像しようにも、考える手がかりがない。

宗教「右派」ってなんだろう。「右派」というなら、「左派」もあるのだろうか。そもそも「右派」「左派」は、政治の話ではないのか。宗教に「右派」があるというのがわからない。

よって、トランプ大統領がなぜ、登場したのかわからない。

要するに、アメリカがわからないということだ。

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アメリカはよその国だから、わからないところがあるのは当然だ。

それを言えば、ほかの国だって、わからないことだらけだ。

ただし、アメリカは大事な国である。
日本の運命を左右する国、と言ってもよい。

そのアメリカのことが、よくわからないのは、やはり困ったことなのだ。なにを考え、どう行動するのか。その頭のなかみを、しっかり理解しておくに越したことはない。

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そこでこの本を書くことにした。

テーマは、アメリカのキリスト教である。アメリカにどんな教会があるか、いろいろと書いてある。

こういうことは、アメリカでは常識なので、みんな知っている。だから取り立てて、それを詳しく説明する本など売っていない。なくはないが、日本人向けではない。

日本語で書かれたアメリカの教会の本は、なおのこと存在しない。読むひとがいない。日本にはキリスト教徒がほとんどいない(人口の1%ぐらい)。そして、書くひとがいない。アメリカのキリスト教の専門家、みたいなひとがいない。いや、たぶんいるのだろうが、一部のひとに向けて、専門的なことを書いている。

ただし、よく探せば、まったく存在しないわけではない。私の知る限りでは、森本あんり『キリスト教でたどるアメリカ史』(2019年、角川ソフィア文庫)がある。この本はコンパクトで、よくできている。キリスト教を切り口に、アメリカの歴史をたどっている。

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私はもう少し欲張って、さまざまな教会の違いを、人びとの考え方の違いに分け入って明らかにしようと思った。アメリカでは、人びとは少し意見が違うと、すぐ別な教会をつくる。自分の考え方(信仰)に敏感で、責任をもっている。その実際のところが、アメリカを理解するカギだと思う。

私は20年前、最初にアメリカにしばらく滞在したとき、近くのメソディスト教会に1年間通った。聖書研究会にも半年間出席した。そのあと数年して、ユニタリアン教会のメンバーとなった。ユニタリアン教会は、会衆派の流れをくむので、カルヴァン派の雰囲気が残っている。ほかにも機会があるたびに、さまざまな宗派の教会の礼拝にも参加した。だから教会の違いは、それなりに体感できる。

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とは言え、私は、アメリカのキリスト教が専門ではない。

そこで、ケンブリッジ大学出版会から出ている、『ケンブリッジ版・アメリカの宗教の歴史』という本によることにした。電話帳のように分厚い三巻本で、大勢の学者が手分けをして執筆している。『アメリカの宗教・百科事典』という、これも分厚い四巻本も参考にした。どちらも、ハーバード大学ディヴィニティ・スクールの図書館で、司書のひとに相談して教えてもらった。書誌情報は本書の巻末に載せておいた。

事実関係やデータは、主にこの『アメリカの宗教の歴史』に依拠したので、出典のページ数を示すことにした。Ⅰ‐123とあれば、Ⅰ巻の123ページ、という意味である。

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そういうわけで、ありそうでなかった、アメリカのキリスト教と教会についての本が、できあがった。

この本は、今までキリスト教に縁がなかった人びとに、役立てていただきたいと思う。ビジネスパーソンや、政府職員や、学生や市民のみなさんである。もちろん、キリスト教とずっとつきあってきた人びとにも、参考にしていただけると嬉しい。

それでは、アメリカのキリスト教の世界にご案内しよう。

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アメリカの教会  目次


まえがき

序論 教会とアメリカ合衆国

【コラム さまざまな教会、さまざまな宗派――①プロテスタント、イングランド国教会、ピューリタン】

第1章 植民地の教会

1・1 ヴァージニア植民地
1・2 プリマス植民地
1・3 マサチューセッツ植民地
1・4 ロードアイランド植民地
1・5 ニューネーデルラント植民地
1・6 メリーランド植民地
1・7 カロライナ植民地

【コラム さまざまな教会、さまざまな宗派――②改革派、ルター派、会衆派、長老派】

第2章 アメリカ合衆国の独立へ

2・1 なぜ教会の歴史なのか
2・2 ニューイングランドの会衆派
2・3 オランダ改革派
2・4 クエーカーとペンシルヴァニア
2・5 中部植民地のそのほかの宗派
2・6 南部植民地の宗派

【コラム さまざまな教会、さまざまな宗派――③クエーカー、バプティスト、メノナイト】

2・7 黒人奴隷の宗教
2・8 植民地のユダヤ教
2・9 植民地のカトリック

【コラム さまざまな教会、さまざまな宗派――④カトリック、ユダヤ教】 

2・10 国教会・対・プロテスタント
2・11 プロテスタントの福音主義
2・12 さまざまなセクト
2・13 リベラルな宗教運動

【コラム さまざまな教会、さまざまな宗派――⑤アーミッシュ、シェーカーズ】

第3章 南北戦争からアメリカ帝国へ

3・1 南北戦争のころ
3・2 地理的拡大と宗教の変容

【コラム さまざまな教会、さまざまな宗派――⑥エピスコパル、メソディスト、モルモン教】

3・3 神学論争
3・4 宗派のいがみ合いと南北戦争
3・5 南北戦争とキリスト教
3・6 プロテスタント(1800年~1950年)

【コラム さまざまな教会、さまざまな宗派――⑦セブンスデー・アドヴェンティスト、ホーリネス、ペンテコスタル】

3・7 カトリック
3・8 新宗教運動
3・9 第一次世界大戦とキリスト教会

【コラム さまざまな教会、さまざまな宗派――⑧クリスチャン・サイエンス、エホバの証人、救世軍】

第4章 キリスト教と現代アメリカ

4・1 戦後とキリスト教
4・2 公民権運動
4・3 イスラエル建国のインパクト
4・4 さまざまな新宗教
4・5 アメリカのカルト
4・6 メガ・チャーチ
4・7 テレビ伝道師 
4・8 キリスト教と公教育

結論

あとがき
参考文献

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以上、光文社新書『アメリカの教会』(橋爪大三郎著)より一部を抜粋して公開いたしました。




光文社新書『
アメリカの教会』(橋爪大三郎著)は、全国の書店、オンライン書店にて好評発売中です。電子版もあります。

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著者プロフィール


橋爪大三郎(はしづめ・だいざぶろう)
社会学者。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。1948年神奈川県生まれ。1977年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。執筆活動を経て、1995年~2013年、東京工業大学教授。『教養としての聖書』『戦争の社会学』(以上、光文社新書)、『世界は宗教で動いてる』(光文社未来ライブラリー)、『ふしぎなキリスト教』(共著)(講談社現代新書)、『いまさら聞けないキリスト教のおバカ質問』(文春新書)、『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫)、『はじめての聖書』(河出文庫)、『アメリカ』(共著)(河出新書)、『これから読む聖書 創世記』『これから読む聖書 出エジプト記』(以上、春秋社)、『世界は四大文明でできている』(NHK出版新書)、『フリーメイソン』(小学館新書)など著書多数。


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