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【51位】ザ・ジャクソン5の1曲―呼び続ける声、二度とは戻れぬ「あの場所」で

「アイ・ウィント・ユー・バック」ザ・ジャクソン5(1969年10月/Motown/米)

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※画像はスウェーデン盤ピクチャー・スリーヴです

Genre: Pop, Soul
I Want You Back - The Jackson 5 (Oct. 69) Motown, US
(The Corporation - Berry Gordy, Alphonso Mizell, Freddie Perren and Deke Richards) Produced by The Corporation
(RS 121 / NME 163) 380 + 338 = 718

聴けばだれもが笑顔になる。天真爛漫にして明朗快活、これぞポップ・チューンのお手本だ。のちに「キング・オブ・ポップ」となるマイケル・ジャクソンが、たった11歳にして達成してしまった金字塔。まるで永遠に崩れ落ちないバベルの塔みたいな、だからつまり嘘みたいな――人類の理想にもほど近い「超・名曲」と呼ぶべき1曲が、これだ。

幼いマイケルをリード・ヴォーカルとして擁する兄弟グループ、ザ・ジャクソン5の、モータウン・レコードからのデビュー・シングルが、この曲だった。初期の彼らは「ダイアナ・ロスに発掘された」という設定があったので、彼女のTV番組に出演。またエド・サリヴァン・ショウでの伝説的なパフォーマンスの披露などもあって、人気が爆発。70年1月には当曲がビルボードHOT100で1位を獲得する。もちろんソウル・シングルス・チャートでも1位(を4週連続)。全英でも2位となる。

この曲は、まずコード進行が絶賛された。その神がかった躍動感、スピード感は、イントロからヴァース1までの約1分間で、だれでもわかる。そしてマイケルの、子供声だ。頭抜けた歌唱力なのに、しかし同時に、愛らしい小学生でもあるのだ。そんな彼が、別れた(?)恋人に向かって「戻っておいでよ」と呼びかけるという歌詞の意外性が、受けた。もちろんダンスも、「兄弟みんな」のあたたかなコーラス・ワークも、受けた。そして21世紀にまで延々と続く「ボーイ・バンド」の雛形ともなった。

という曲であるだけに、各人の(とくに、もちろん、マイケルの)後年のいろいろを知ってしまったあとに聴けば、つい落涙しそうになる人もいる、かもしれない(僕はそうだ)。真夏の正午の太陽みたいに、全方位を最高度に明るく照らすようなナンバーだから、逆説的に「その光」が届かないところに、影を追いやり、押し込んでしまうような効果を生んだのか。ゆえに実人生で、「闇」の負債分を償却せざるを得なかった、のか。

この曲を書いてプロデュースしたのは、モータウンの社長ベリー・ゴーディ含む4人組の特命制作チーム「ザ・コーポレーション」だった。同チームは、このあともずっとジャクソン5を担当した。そしてここから連続3つの彼らのシングル「ABC」「ザ・ラヴ・ユー・セイヴ」「アイル・ビー・ゼア」も当曲同様、すべて「ソウル・チャートと総合チャート」の双方で1位となる。つまり、4連発だ。70年代初頭、ジャクソン5は全米の(若年層の)恋人となって、未曾有の熱狂の中心となっていく。

(次回は50位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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