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【第5回】地球は特別な惑星ではなかった!

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■自分の頭で論理的・科学的に考えていますか?
★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、哲学者・高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

「太陽系外惑星」発見のエピソード

幼い頃に読んだ宇宙の本に、夜空に輝く星々は私たちの太陽と同じ恒星であり、各々の周囲を惑星が回っているかもしれないが、「それらを発見することはできない」と書いてあった。なぜなら、星々はあまりに遠く、その周囲の惑星はあまりに微小だから……。読んでガッカリした記憶があるのだが、現在では、太陽系外惑星が4000個以上発見されている。嬉しい驚愕である!

本書の著者・成田憲保氏は、1981生まれ。東京大学理学部卒業後、同大学大学院理学系研究科博士課程修了。国立天文台・東京大学助教などを経て、現在は自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター特任准教授。専門は、天文学・地球惑星科学。現時点で64編の専門論文を発表している。

本書は、成田氏が初めて一般向けに公表した単著だが、宇宙論を国際的にリードする佐藤勝彦氏が「最先端研究者によるたいへん読みやすい解説だ」とオビに推薦しているように、単なる解説書に留まらず、最先端の研究成果を社会に還元するという意味で、非常に意義深い作品になっている。今後、このようなレベルの「新書」が出版されていくことを願ってやまない。

さて、本書に詳しく紹介されているが、太陽系外惑星を探査するには、「アストロメトリ法」・「視線速度法」・「トランジット法」・「マイクロレンズ法」・「直接撮像法」などの方法がある。飛躍的な成果をもたらしたのは、アメリカ航空宇宙局(NASA)が2009年に打ち上げた宇宙望遠鏡「ケプラー」だった。

「ケプラー」は、3年以上にわたって10万個の恒星の光度を測定し、惑星が主星を隠す時に生じる周期的な光度の微弱な変動を検出する「トランジット法」により、2019年までに4000個以上もの惑星の発見を導いたのである。

この分野の先駆者であるカナダの天文学者ゴードン・ウォーカーは、1980年から1992年にかけて、ハワイ島マウナケア山頂の天体望遠鏡を使って21個の太陽型恒星の光度を観測した。彼が12年間の長期観測を行った理由は、太陽系で最も巨大な惑星である木星の公転周期が12年だからである。

残念ながら、21個の恒星に木星以上の巨大惑星を発見できなかったウォーカーは、その論文を2015年8月に発表した。ところが、その2カ月後の10月、スイスの天文学者ミシェル・マイヨールが大学院生ディディエ・ケローと共に、太陽型恒星である「ペガサス座51番星」を公転する系外惑星を発見した。この惑星は、木星の半分の質量であるにもかかわらず、恒星のごく近傍を、たった4.2日で公転していたのである。人類史上、最初に系外惑星を発見したマイヨールとケローは、2019年度のノーベル物理学賞を受賞した。

本書で最も驚かされたのは、マイヨールとケローの論文が掲載された『ネイチャー』の「解説」をウォーカーが書いていることである。もし彼が「ペガサス座51番星」を観測していたら、最初の発見者になれたはずだ。しかし彼は、まさか巨大惑星が主星の近傍を数日で公転するはずがないという先入観に支配され、その可能性を除外してしまった。自らの失敗を淡々と語り、他者の偉業を潔く称える科学者としてのウォーカーの姿が、実にすばらしい!


本書のハイライト

2020年代以降、太陽系の近くにある惑星系に地球に似た惑星を発見し、そこに生命の兆候を探すという研究がおこなわれようとしています。とはいえ、研究の進展にはまだまだ観測技術の向上が必要で、系外惑星に生命の兆候を探すという研究が実現するのは2030年代、あるいは2040年代以降のことかもしれません。しかし今ようやく、太陽系以外にも地球のように生命を育む惑星があるかという問いに、科学的な答えが出せる時代が近づいてきたのです。(p. 4)


第4回はこちら↓

著者プロフィール

高橋昌一郎_近影

高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『ゲーデルの哲学』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

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