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「日本人の”面白い”コンテンツは海外でもほぼそのまま通用する」という話

こちらの記事より全6回にわたり、『伝え方は「順番」がすべて』(小沼竜太・著)の本文を抜粋してご紹介します!本書は「Fate/Grand Order」や「ペルソナ」シリーズなど人気作のプロモーションに携わる〝ゲームの宣伝屋〟が「伝え方」の極意を明かした一冊。※詳細はこちらの記事を…。
今回はコンテンツを海外に伝える際のお話です。著者の小沼さんは実体験から「日本人の感覚で”面白い”コンテンツは海外でもほぼそのまま通用する」と説きます。その真意とは…? 

日本はしんどい

 筆者は日本人であるし、日本語以外はロクに喋れないので、必然的に日本という国・地域がビジネスや生活の基盤となっている。そんな日本だが、コンテンツ産業という観点だけで見ても、国内市場だけでは先行きが暗いのは言うまでもない。慢性的な人口減は避けようがなさそうだし、今後劇的に経済的な拡張が起こる気配はない。日本の未来は多分、しんどいだろう。
 しかし、日本のゲームコンテンツは、すでに海外市場で確固たる存在感を確保している。これは作り手の意図、企みが海外のユーザーにも適切に作用したということの証左でもある。
 では、作り手でない人たち……、筆者のようなユーザー・コミュニケーションのプランニングを生業にしているような、(広義での)マーケターは、国外市場へのコミュニケーションにおいて蚊帳の外に置かれるのだろうか。

日本人の感覚で作られた「面白い」コンテンツは海外でも通用する

 結論から言うと、日本人が、日本人の発想と言語で組み立てたコンテンツを、日本人が海外に届ける(コミュニケーションする)ことは可能であると考えている。
 ひとまず、筆者の実体験をお伝えしよう。
 日本発の、世界でも有数のRPGシリーズ最新作のSNSコミュニケーションのコンサルティングを担当した時の話である。当初、筆者は日本国内のSNSコミュニケーションのコンサルティングを受注したと認識していた。
 最初に着手したのは、Twitter のフォロワー数を増大させる、というものだった。
 そのためのキャンペーンを設計し、提案したところ、国外拠点でも同様に実施したいという話になり、日本語・英語で同時に全く同じ内容のキャンペーンを実施することになった。

国内のキャンペーンを英訳して海外展開

 当初、全く予定していなかったので泡を食ったのだが、筆者の設計したキャンペーンの企画内容を理解でき、筆者の書いた日本語を確実に英訳できるスタッフに参加してもらい、慎重に英訳を行って実施してみることにした。
 英語圏、特に米国においては、ジェンダー表現、宗教的な表現、差別的な表現であると受け取られるとコミュニケーション上、致命的な問題を発生させる恐れがある。そのため、翻訳作業については極めて慎重に対処することにした。
 北米消費者のコンテクストを詳細に分析し、彼らのコンテクストに沿った表現を心掛けたというわけだ。

結果は大成功

 翻訳を担当した方は日本人であったが、英語で小説が執筆可能なレベルの英語力を持ち、北米消費者のコンテクストを知悉していた。
 結果として、シリーズのファンのコンテクスト分析を反映し、更に英語圏のコンテクスト分析を行ってフィルタリングした上で設計したキャンペーンは、国内のみならず英語圏でも成功を収めた。
 日本人も英語圏の消費者も、想定したとおりの反応を返してくれたのがうれしかったし、ゲームコンテンツへの愛は国境を越えて伝わるのだという確信に至るきっかけとなった。
 他の例も挙げてみよう。

ライブストリーミングに外国語でコメントがつく

 筆者の経営するリュウズオフィスでは、ライブストリーミング施策(生放送)を、ゲームコンテンツの魅力を伝えていくコミュニケーション上の、重要な施策として位置付けている。
 ライブストリーミングのリアルタイムという特性から、以前紹介した「in Minutes Operation」の中核的な存在でもある。
 年間実施する数十を数える番組の中で、一度に数十万の視聴数を稼ぐ番組はいくつも存在する。YouTube Live にせよ、Twitter のPeriscope にせよ、ユーザーのリアルタイムのコメントが寄せられることになる。
 それらのコメントの中には、外国語(英語、中国語、フランス語)などが多く含まれることがある。
 日本人が日本人向けに作っている生放送番組を、情報欲しさに日本語ネイティブではないユーザーがわざわざ視聴してくれているのだ。

ただ言葉を外国語訳しただけで大成功

 たとえばこれを同時に英訳して放送してみたらどういうことが起こるだろう、と考え、何度か実験してみた。
 結果としては、驚くべきほどに視聴数が増大した。彼らの言語に合わせて放送をしただけで、伝わる規模が拡大したということだ。情報の中身や伝える順番、編集(見せ方)を変えたのではなく、ただ言葉を外国語訳しただけ、というのが重要だ。
 これは特定のブランドに限らず、複数のブランド、メーカーで同じように実施をしてみたが、常に同じ結果であった。
 日本人が日本人の発想と言語で組み立て、日本人の感覚で「面白い」と感じたコンテンツは、ほぼそのまま、外国に持っていっても通用する(ただし、文化圏や国ごとに文化がありタブーがある。その配慮は忘れてはならない)。 

実証実験としてのINDIE Live Expo 2020

 2020年6月6日、筆者の会社(株式会社リュウズオフィス)はインディゲーム(独立系ゲーム/Independent game の略)界隈の国際的なオンラインイベントを開催した。
『INDIE Live Expo 2020』というイベントだ。これは本書で述べたことの実証実験の一つでもある。日本語・中国語・英語で同時に配信されるライブストリーミングイベントである。
 個人あるいは少人数の開発チームで作られることが多いインディゲームは、これまで述べてきたゲーム産業とは、また違った性質を持つ。基本的には小規模な資本で制作・発表されるため、宣伝予算をほとんど持たない。コロナウィルスの影響で次々とイベントが中止されてしまったが、その影響を大きく受けたのが、インディゲーム界隈であった。
 彼らに対して何か貢献することはできないか(そして、上海で味わった興奮を、再び味わうことはできないだろうか)と考えて企画したのが、INDIE Live Expo であった。
 情報発表後、中国を中心に多数の配信プラットフォームからの問い合わせやゲームメーカーからの問い合わせが殺到し、日本語・英語・中国語でのやりとりが入り乱れた。1回目の実施につき、細かいところまで手が回らなかったのは事実であり、反省も大いにある。
 しかし、合計で730万の視聴を達成し、Twitter トレンド1位(国内)にもなった。日本発のライブストリーミングの視聴数としては、おそらく最大規模と言えるだろう。
 このイベントは日本語・英語・中国のメディアに取り上げられただけでなく、フランス語・スペイン語・ロシア語等のニュースサイトでも取り上げられ、世界中で100を超えるメディアに取り上げられることになった。国内では同月内に業界雑誌(『週刊ファミ通』)で取り上げられ、BSフジからの取材もあった(翌月の番組で放送され、著者が出演した)。
 ライブストリーミングの施策としては大成功に終わったと思っている。多くの企業に賛同いただき、協賛までいただいたのは望外の喜びでもあった。
 これは本書で書いたステップを一つ一つ実施していった結果に過ぎない。その結果、国を越え、コンテンツを届けることができた。

消費者には外国のユーザーも含まれる

 ゲームの価値は消費者の心の中にあり、企業が決めるものではないと述べた。この消費者には、外国のユーザーも含まれている。
 消費者の一人一人がかけがえのないお客様である。日本の人口はますます減っていく。しかし海外において日本のゲームを愛するお客様は、実はたくさんいる。ブランド・ロイヤルティは国境も言語も超えて広げることができる。
 基本的には、日本語で考え、日本語で組み立てたロジックを、英語または諸外国語で話す=アウトプットするだけ、だ。
 ちなみに筆者は、英語はからきしである。学生時代にきちんと勉強をしておけばよかったと後悔することしきりだが、そんな筆者であっても、外国のユーザーとはコミュニケーションがとれるというわけだ。

 ゲームコンテンツのコンテクストを正しく理解し、正しい伝え方を設計するということは大前提ではあるが、それを諸外国のコンテクストに沿って正しく翻訳することができれば、きちんと伝わるのだ。
 あなたが日本でやっていることが正しくコンテンツのコンテクストを踏まえたものであるならば、それが諸外国でも通用する可能性は大いにある。
 極論すれば、日本でやっていることをそのまま外国に持っていくだけで、通用するかもしれない。受容者に届けば、愛は伝わる。
 これはゲームに限らず、あらゆるコンテンツ、ブランドに応用可能だと思う。

『伝え方は「順番」がすべて』より一部抜粋・再編集しました。本文公開は今回でいったんおしまいです。
本書は「プロモーションを成功させたい」「自社製品の良さをもっと伝えたい…!」という方におすすめの一冊です。ご興味ありましたら、チェックしてみてください!


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