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【第50回】日本の農業が消滅してしまうのか?

光文社新書
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日本の食料自給率は危機的

官公庁のサイトには豊富な情報がある。中でも農林水産省のサイトは、見やすくカラフルで、わかりやすく構成されている。メインページの「知ってる? 日本の食料事情」から「知る」に進むと「食料安全保障について」・「食料自給率・食料自給力について」・「デジタルコンテンツ」などのコーナーがある。

ところが、日本の食料事情について読み進めていくと、ネガティブな情報ばかりが出てきて、目を覆いたくなるほど悲惨な状況である。そもそも日本の「食料自給率」は2020年度で37%にすぎない。これは日本と似た島国イギリス65%、国土面積が日本とほぼ同じドイツ86%、人口が日本の半分程度のフランス125%に対して圧倒的に少ない。もちろん、肥沃な国土のアメリカ合衆国132%、オーストラリア200%、カナダ266%とは比較にもならない。

「食料安全保障」とは、「すべての日本国民が、現在から将来にわたって、良質な食料を合理的な価格で入手できるよう保障」することと定義される。1999年施行の「食料・農業・農村基本法」で法的に規定され、必要な農地・農業用水、農業資源、農業の担い手の確保、農業の持続的な発展や高齢化で縮小している農村の復興などを支援する法律が盛り込まれている。そして、農水省は、2030年までに「食料自給率」を45%に上げる目標を掲げている。

しかし、世界的な人口増加による食料需要の増大、気候変動による生産減少、自然災害や経済危機による輸入途絶など、不測の事態は幾らでも起こりうる。実際に「国連食糧農業機関(FAO: Food and Agriculture Organization of the United Nations)」の報告によれば、新型コロナウイルスのパンデミックが確認された2020年3月から6月の4カ月間に輸出を規制した国は19カ国に及ぶ。日本でも、マスク・トイレットペーパー・消毒関連製品に加えて、生鮮食品やインスタント食品がコンビニから姿を消した記憶は新しいだろう。

本書の著者・鈴木宣弘氏は、1958年生まれ。東京大学農学部卒業後、農林水産省に入省。農業総合研究所研究交流科長、九州大学助教授・教授などを経て、現在は東京大学教授。専門は農業経済学・国際貿易論。著書に『食の戦争』(文春新書)や『悪夢の食卓』(KADOKAWA)などがある。

さて、鈴木氏の試算によれば、「食料国産率」に「飼料・種自給率」を掛けた「実質的な食料自給率」は、2035年時点の日本では、米が11%、野菜が8%、牛乳・乳製品が12%、青果物・畜産物は1%から4%にすぎず、危機的状況に陥るという。たとえば、野菜の「食料国産率」は80%と試算されるが、その種子の90%は外国の圃場で生産されているため、種まで遡ると「実質的な食料自給率」は8%(0.8×0.1)しかない。この試算は衝撃的ではないか!

国産の野菜が相対的に高いのは、生産コストに占める種子の経費が高いからだ。その種子の90%を輸入品に頼っているということは、日本が食料輸出国系グローバル企業の「餌食」になることを意味する。国が責任をもって公的に優良種子を育てて安価に普及させるための「種子法」は、2017年に突然廃止された。2023年には「遺伝子組み換えでない」表示も事実上禁止になる。

本書で最も驚かされたのは、2050年頃に日本が「飢餓」に陥る可能性の指摘である。なぜ日本の「農政」で愚策が繰り返されるのか、本書の批判は重い!


本書のハイライト

日本の農業の現状をみると、際限なき貿易自由化を進めていることで、国産の農産物が買い叩かれている。さらに高齢化による担い手不足、耕作放棄地の増加、集落消滅の危機が拡大し、いま、頑張ってくれている農家がいつまで耐えられるのかも分からない、そんな状況が続いている。農業・農村の疲弊と消滅の危機は深刻度を増しているのだ。食料こそが国民の命の源である。その生産を担う農業を、あまりにも軽視してきたのではないか(p. 10)。

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著者プロフィール

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高橋昌一郎/たかはししょういちろう 國學院大學教授。専門は論理学・科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。


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