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新刊「失敗しない定年延長 『残念なシニア』をつくらないために」まえがき全文公開!

光文社新書10月刊「失敗しない定年延長 残念なシニアをつくらないために」の著者は、気鋭の人事コンサルタントである石黒太郎氏です。「そもそも、人事コンサルタントって、何する人?」 という方のために、さっそく自己紹介をしていただきました。

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「はじめまして。石黒太郎と申します。組織人事分野のコンサルタントです。私がコンサルティングの世界に身を投じたのは40歳代半ばになってからであり、コンサルタントとしてはデビューが非常に遅い部類です。これまでの社会人人生の多くを大手メーカーの人事部門で過ごし、国内外の様々な人材マネジメントの現場でキャリアを積みました。また、事業部門にも数年間在籍し、年間売上高300億円の製品群の事業企画を課長として統括した経験もあります。私のように事業会社に20年以上在籍し、人事キャリアでの海外駐在と管理職経験、そしてビジネスの現場を取り仕切った実績を有するコンサルタントは、広い業界のなかでも稀少と言えると思います」

石黒さんは現在、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に所属する、コンサルティング事業本部組織人事戦略部長・プリンシパルです。真面目な肩書きを背負い、日々コンサルタント業務に勤しむ石黒さんが、「定年延長」について書こうと考えたのはなぜでしょう?

「私が本書の執筆を志したのは、多くの日本企業が旧態依然とした時代遅れの人事施策・制度を継続する姿を看過できず、経営を取り巻く環境変化に順応した人材マネジメントへのアップデートに少しでも貢献したいという想いからです。スキルがないまま高齢化した社員=『残念なシニア』が跋扈する日本企業の多くは、未だに『会社従属型(メンバーシップ型)雇用』を採用し続け、欧米企業の主流である『ジョブ型雇用』への移行ができていません。極端な少子高齢社会で労働人口の激減が確実な中、このままでは企業の崩壊どころか、日本経済全体が破綻するのは目に見えています。これをなんとしても止めなくてはという使命感が、私を本書の執筆に駆り立てました」

石黒さんの熱い思いが詰まった「まえがき」を、以下に(ほぼ)全文公開します。

まえがき 

安易な定年延長が会社を潰す

本書では3種類の読者層を想定しています。第一の読者層は、新卒採用を毎年続けているような一定以上の規模の日本企業において、人事関連の職務に携わっている方々です。「定年延長」について、その検討に必要な様々な視座・視点を紹介し、日々の職務遂行に役立ててもらいたいと考えています。

第二の読者層は、そういった企業において人材マネジメントのあり方を真摯に憂えている経営者の方々です。定年延長をきっかけに、今後、日本型雇用システムは大きな曲がり角に差し掛かります。人事部門を味方として自社の人材マネジメントをどう方向付けていくべきか、そのヒントを本書で提示していきます。

最後は、ご自身がシニア就労者、または40〜50歳代のシニア予備軍の方々です。本書は人事部や経営者の方々に向けての提言の形を取っていますが、社会人の皆様ご自身が「残念なシニア」にならないための参考書としても、使っていただけると思います。

「定年延長」4択クイズ:マクロ編

ここで、唐突ではありますが、クイズを3問出します。いずれも定年延長検討の前提として知っておくべき、労働市場のマクロ的動向に関する4択クイズです。
まずは先入観なしに、妥当と思われる選択肢を直感で選んでみてください。

問1 日本の総人口は、2008年の1億2808万人をピークに減少が続いています。では、生産年齢人口(15〜64歳の人口)は西暦何年をピークに減少し始めたでしょうか?
あ:1995年
い:2000年
う:2005年
え:2010年
問2  平成元年(1989年)の日本における大学進学率は約25%でした。では、平成30年(2018年)の大学進学率は約何%でしょうか?
あ:20%
い:30%
う:40%
え:50%
問3  人類の労働の歴史は、技術革新による職務代替の歴史と言っても過言ではありません。では、多くのホワイトカラーの職務を代替すると言われる「汎用型AI」の実現はいつ頃になると予測されているでしょうか?
あ:2025年
い:2030年
う:2035年
え:2040年

いかがでしたか? 少し簡単過ぎたでしょうか。答えは、以下の通りです。

問1解答 :1995年
生産年齢人口は、総人口のピークよりも10年以上前から減少の一途であり、2つの人口指標の間には大きな時差があります。
問2解答 え:50%
今の18歳は2人に1人が大学に進学します。その結果、若者の数は大きく減少しているにも関わらず、大学生の数は以前よりも増えています。
問3解答 い:2030年
汎用型AIは2030年に実現すると言われています。ホワイトカラーの業務の多くが汎用型AIに代替されてしまうとしたら、これまでのような新卒一括採用を続けていて大丈夫なのでしょうか?

本書では第1章でシニア(本書ではシニアを「60歳以上の就労者」と定義付けます)の雇用の現状を振り返り、第2章で日本の労働市場のマクロ的動向について人事の実務者の視点から紹介します。このクイズを間違えた方は、第1章と第2章を注意深く読んでみてください。


「定年延長」3択クイズ:ミクロ編

では、マクロに引き続き、ミクロに関するクイズも3問出しましょう。ミクロ、すなわち、シニア一人ひとりの心やカラダがどのように変化するかも、定年延長検討の前提知識となるからです。最初の3問よりも難しいので、3択にしました。

問4  日本人男性の全身持久力のピークは14歳です。ピークを100%とすると、60歳代前半では何%まで落ち込むでしょうか?
あ:50%
い:40%
う:30%
問5  同一人物の70歳時点と25歳時点の知能水準は、どのような関係にあるでしょうか?
あ:70歳時点の知能水準は、25歳時点よりも高い
い:70歳時点の知能水準は、25歳時点と同等
う:70歳時点の知能水準は、25歳時点よりも低い
問6 人間のストレス耐性は、年齢に応じて変化します。ストレス耐性が最も低い年代は次の内のいずれでしょうか?
あ:20歳代
い:40歳代
う:60歳代

いかがでしょう? 最初の3問に比べ、確信をもって答えられた方は少ないのではないでしょうか。解答は以下の通りです。

問4解答  う:30%
残念ながら、60歳代になると、男性の全身持久力はピーク時の30%、女性は25%まで落ち込みます。持久力が求められるような職務は、シニアには向いていないと言えるでしょう。
問5解答  あ:70歳時点の知能水準は、25歳時点よりも高い
「年を取ると、知能が落ちる」というイメージを持っている読者が多いと思います。しかし、答えは逆。少し古いデータですが、アメリカの心理学者シャイエによる1980年の研究では、70歳時点の知能は25歳時点を上回っているという結果が出ています。
問6解答  う:60歳代
若者の方が打たれ弱いイメージがあるかもしれません。しかし、人間の心身は年齢を重ねるにつれてストレス耐性が低くなる傾向にあります。

「定年延長」に失敗すると日本企業は崩壊する

シニアの方々にいきいきと活躍してもらうためには、加齢に伴う心身の変化を正しく理解し、就労への影響を考慮する必要があります。本書では第3章で「雇用ジェロントロジー」と題し、シニアの心身の変化についてジェロントロジー(日本語では「老年学」)の観点から様々な統計データや研究結果を引用し、紹介していきます。

私が本書の執筆を志したのは、多くの日本企業が旧態依然とした時代遅れの人事施策・制度を継続する姿を看過できず、経営を取り巻く環境変化に順応した人材マネジメントへのアップデートに少しでも貢献したいという想いからです。

日本には昭和以前に創業した企業が100万社以上あると言われています。これらの企業の多くに共通する特徴として、社員の年齢構成に大きな歪み(ある年代の社員は相対的に多数在籍しているのに対し、別の年代の社員は少ない状況)が生じていることがあげられます。この歪みは、平成時代の30年間に何度もあった好況・不況の波に対応するため、日本企業各社が毎年の新卒採用数を増減させた結果であり、キャリア採用枠の少々の拡充などでは是正できないような組織構造にしてしまったのです。

そういった状況の中、日本社会の大きな変容を背景に、本書のテーマである「定年延長」が企業経営の趨勢を決めかねない重要な課題の一つになることは間違いありません。その理由として以下の4つがあげられます。

1 人材不足の解消にはシニアの活用が不可欠
日本全体の少子化進展により、生産年齢人口は急激に減少していきます。労働力不足を人手の確保によって解消する手段としては、女性活躍の促進、外国人材の受け入れなどが当然考えられますが、日本企業の強みである高度な技術・技能の活用・伝承を併せて考えると、経験豊かなシニアの活用が有力な手段になります。

2 モチベーションを失ったシニアが急増
2013年施行の改正高齢者雇用安定法による65歳までの雇用義務化に対応するため、日本企業各社は定年後再雇用の仕組みを急ぎ導入しました。戦後の経済成長を背景に続いてきた旧来の日本型雇用システムでは、社員の報酬水準が50歳代でピークを迎える傾向にあります。この水準を是正するため、多くの企業が再雇用者の報酬を定年直前の額から一方的に大きく縮減する運用を行っているのが実態です。
その結果、多くのシニアがやる気を失ってしまい、日本企業の現場では扱いづらい「残念なシニア」が急増しています(残念なシニアについて、詳しくは第1章で紹介します)。今のシニアの多くは、本来期待される高度な技術・技能の伝承どころか、周囲の同僚に悪影響を与える存在になってしまっている状況も見受けられます。

3 人生100年時代を見据えた更なる高齢者雇用が国策化の見込み
年金財政の安定化を図りたい日本政府は、近い将来、企業における定年延長の義務化に踏み切る可能性も考えられます。現在、前述1の人材不足が喫緊の経営課題にはなっていない企業でも、近いうちに定年延長への対応を余儀なくされ、年齢に関わりなく働き続けられる雇用・就業環境の整備を迫られることになるでしょう。前述2の通り、シニアのモチベーションが低下していても、国策としてシニアの雇用を拡充しなければならない、という経営者にとっては頭の痛い状況が想定されます。

ここまでの3つの理由だけでも、定年延長を重要な経営課題として位置付けるに十分ですが、4つ目の理由がさらに企業に追い打ちをかけます。

4 バブル入社組の60歳到達が目前
1990年前後に新卒入社した大量採用世代、いわゆるバブル世代が50歳代となり、残り数年で彼/彼女らは60歳を迎えます。創業が昭和以前の日本企業の多くでは、この大量採用世代が社員構成全体の20%前後ないしはそれ以上を占めており、最多社員層になっています。この世代が「残念なシニア」として会社に居座ってしまうと、日本企業の組織風土・労働生産性ひいては事業品質が著しく劣化し、競争力が大きく毀損してしまう可能性があります。

これら4つの理由を勘案すると、定年延長を単なる定年退職年齢の見直しと捉え、小手先の人事制度見直しだけで乗り切ろうとすると、企業経営に重大な悪影響を与えかねず、最悪のケースでは経営が傾く要因にもなり得ると考えられます。そうならないためにも、日本企業の人事部門は、定年延長を重要な経営課題の一つとして明確に位置付け、経営トップを巻き込んだ検討を早急に進める必要があります。本書の第4章から第6章では、その際の参考にしていただくため、定年延長のあるべき姿と今後の日本企業の人材マネジメントの方向性を提言していきます。

以下が本書の目次です。人事部門や経営者の皆さま、そして「シニア予備群」のすべての会社員の方に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です!

「失敗しない定年延長 『残念なシニアをつくらないために』」 目次


まえがき  安易な定年延長が会社を潰す   
第1章 「残念なシニア」が大量発生した理由  第2章 少子化時代に不可欠なシニア活用   
第3章 シニアを正しく活かす「雇用ジェロントロジー」   
第4章 失敗しない定年延長   
第5章 日本経済を衰退させる会社従属型雇用  第6章 「ジョブポートフォリオ・マネジメント」へのシフト  
あとがき   


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