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【インタビュー】『巨人軍解体新書』発売記念! 野球部と「体育会系」文化の未来(前編)

野球ファンのみなさまにご好評頂いているゴジキ(@godziki_55)さんの連載「巨人軍解体新書」。今回は、本連載をベースにした書籍『巨人軍解体新書』の発売を記念して特別インタビューをお届けします。
近年問題としてあげられる「体育会系」の弊害や今後の指導方法、書籍でも折に触れて述べている「ヤンチャ」な選手といった野球選手の育成全般をテーマに語ってもらいました。

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◆高校野球と「体育会系」

―近年はそれこそお股ニキさんやゴジキさんのようにSNSで発信を続ける方も増えてきていますし、野球の技術指導や身体づくりなんかも専門家の知識を手軽に入手できる時代になっています。

最近は指導方法もどんどん変わってきていますよね。従来通り、指導者から学びそこに加えて教科書的なものを読むスタイルもあれば、ネットを見て学ぶ人もいる。大きくこの2パターンに分けると後者の勢いは当然盛んですよね。もちろん情報は玉石混交なので自分の頭と身体で取捨選択する必要があるわけですが、使いこなせば大きな武器になります。

昔はシニアチームや高校のコーチ、監督などが絶対的な存在で、例えば強豪校も一部は全寮制で生活も含めきっちり厳しく指導してきました。指導者や先輩・後輩との間には厳しい上下関係があり、暴力事件につながるケースもあったわけです。00年代前半まではよく耳にしましたよね。そして現在は減りつつあるけど、その名残が残っている部分もある、微妙な時期です。

―野球選手の育成というテーマだと、やはり「体育会系」「体罰」というキーワードが浮かんできます。これについてはどのようにお考えですか?

わかりやすい例は大阪のPL学園と大阪桐蔭でしょう。PL学園は漫画『バトルスタディーズ』にも描かれるような厳しい(をもはや通り越した)練習や人間関係で知られています。

一方、大阪桐蔭に就任した西谷監督は「同じようなことはしたくない」との言葉をインタビュー記事でも残しており、比較的柔軟な指導方針です。その結果、ほかにも様々な事情があったでしょうけれど多くの有望な中学生がPL学園ではなく大阪桐蔭を選ぶようになり、戦績は00年代中盤から逆転していきました。PL側から見れば、大阪という同じ地区の「競合他社」にリクルーティングで負けたわけですね。

中学から高校への進学は未成年ですし、金銭面を含めて親御さんが意思決定に大きく関わります。単純に野球のレベルの高さだけでなく色々な面を考慮されるわけで、ある意味プロ野球のドラフトよりもシビアな進路争いと言えるでしょう。だからこそ、時代に合った指導方針は重要ですよね。

1990年代の強豪校の中にはそうした指導方針や価値観をアップデートして甲子園常連校に残り続ける高校もあれば(明徳義塾、仙台育英、智弁学園、智辯和歌山など)、適応できずに衰えていった高校もあります。長期間務めた監督が変わる際などはブランド力も落ちるので、しっかりした方針を練った上でそれを説明できないと苦労するでしょうね。

体罰はダメなのが大前提ですけど、なおかつ近年はそうした指導方法では勝てなくなっています。上下関係の厳しさも含め、そういう環境に対して魅力を持つ人も減っているし、今は会社でも嫌ならすぐ辞めてよそに移ればいい時代なので。中学や高校だとそこまで簡単でもないですが、とはいえ転校という手段はあります。強権的に生徒を管理するスタイルは、将来的により厳しい状況に置かれると考えます。

◆変われる指導者の存在がチームの未来を決める

―ご自身や周囲を見渡すと、「体育会系」「体罰」に対するイメージはどのようなものですか?

自分が部活をやっていた時代には、肉体的な暴力はほとんどなくなっていましたけど、言葉の暴力やパワハラはまだありました。「やめちまえ」「帰れ」と言われる人は多かったです。言われて良い気持ちは当然しなかったけど、そこで「耐性」がついてしまった。一般社会において体育会系が「ストレス耐性がある」ということで評価されるのはこういうことなのかと。実際、日本企業だと今でもパワハラまでいかずとも「詰められる」ことはありえますからね。当然そうした行為を肯定しませんし、それで潰れてしまう人は全く悪くありません。しかし管理する側としては雑に扱っても休んだり文句を言ったりしない存在は楽だから、そういう勝手な都合で体育会系を重宝するのでしょう。

暴力もパワハラも言うまでもなく絶対NGです。ただ、その上でどうしても厳しく接する必要のある瞬間が出てくることもあります。そういう時にどうするのか、指導者の腕が問われていますよね。誰かを殴ったり罵倒したりせず、チームや選手に緊張感を保たせる方法が大切です。レベルの高いチームなら、そもそも個々の意識が高いから必要ないのかもしれませんが。

現在20~30代の人が指導者になった場合は、自身の原体験に体罰やパワハラが含まれていない場合が多いから問題なさそうですけど、40~50代くらいの人は難しいですよね。自分たちが学生時代にやられたことを絶対にやってはいけないわけですから。ただし、西谷監督のようにバリバリ古い「THE・体育会系」の経歴を持ちながら監督として自己をアップデートできている人もいます。

―自分がやられたのと同じことを下の世代に押し付ける指導者と、自分は繰り返さないと決められる指導者がいるということですね。

変われる指導者と変われない指導者がいて、残念ながら後者も多いです。その差が高校の長期的な趨勢を決めることになります。

◆「部活」という特殊空間

―日本の「部活動」って考えれば考えるほど、特殊ですよね。

なぜか部活だと「指導」になるんですよね。人格指導。「野球人」として~という言葉が出てきます。「挨拶は大きな声で!」みたいなことを言われたり。あれ、理由なんてないんですよ。自分がやらされたから人にやらせてるだけで。

―野球部はとにかく声を出している印象がありますね。

声だしとか、本当に意味がわからないです(笑) 四六時中ばかでかい声を出しても、試合中の本当に大事なタイミングで周囲に声がけをできる選手にはなりません。しかも、嫌々でもやることで、いわゆる「本音と建前」の文化を学ぶことになりますよね。結局、外面だけよくしとけばいいんだろう?という態度になってもおかしくありません。まさしく「誰得」な風習です。

―他に、野球部の練習や活動の中で無意味に感じたことはありますか?

指導者の話も長すぎますよね。ダルビッシュ選手も言ってましたけど、大会の開会式の偉い人の話とか。しかも夏は炎天下ですからね。こういう「儀式」はハンコ文化と同じで、おじいさんの名誉欲を満たすだけです。百歩譲って企業の接待ならともかく、こういう非合理な習慣が指導や教育という名のパッケージに詰め込まれているのは百害あって一利なしです。

―でも、真面目に聞かないと怒られるんですよね。

「こういう経験が今後に生きる」とか「ちゃんと聞かないと社会に出た後にやってけないよ」とか言われてきましたが、全くそんなことありませんよね(笑) でも、そういう態度をあからさまにすると学生野球だと「干され」るでしょうね。言い方を悪くすれば、こびへつらうほうが試合に出られる確率は上がるわけです。プロなら「坂本より山本の方が声出ているから遊撃手ね」なんてあり得ないわけですが。

―指導者も自分が正しいかわからなくても不安ですし、そうやって生活態度を絡めるほうが言い訳もできて楽なんでしょうね。

結局、自分の頭で考えることのできない人が世の大半を占めているのかもしれませんね。ひたすらノックされた目の前のボールを泥んこになって捕っているだけ、というか。

―とはいえ、こうした非効率的なスタイルは徐々に変わっていっています。今後はどういう風になってほしいですか?

必要なところだけ残して、不毛なことをなくしてほしいですよね。次世代に負の遺産を押し付けないことが大事です。敬語と最低限のふるまい(失礼なことはしない)ができればいいでしょう。

◆「反面教師」の効率性

―逆に、体育会系でよかったことはありますか?

うーん……。反面教師として効率的な考え方をするようになりました。
野球部って、本当に練習が長いんですよ(笑) これが陸上だと走りすぎると体を壊すからもう少しコンディションに気を遣ったりするのかもしれませんが、野球部はお構いなし。でも、何でも「量」で代替しようとする考え方は危険ですよね。パフォーマンスは集中力との掛け算だから、時間量だけを軸にするのはよくない。

―野球部ってやたらと走り込みをしているイメージがあります。試合中、そんなに走るっけ? という疑問も…。

走り込み文化(特に冬)はありますね。もちろん時には必要な場合もありますが、盲目的にやるのはよくない。プロでも走り込みのしすぎで故障するのを見るともったいないなと思います。効率よくサボる、それを自分の頭で考えられるのが大事かなと。勉強でもゲームでもそういう力配分って大事ですよね。すべてに手を抜くわけでもなく。

―ただ、そういう主体性は最初から持っている人とそうでない人でわかれますよね。しかも、そういう力を育てることのできる指導者に巡り合えるかは運の要素も大きい。

自分の場合は小学生の時にやっていたゲームの攻略でもそういう頭の使い方をしていたので、そこは苦労しませんでした。勝手がわかればどんどん進めるし、そうすると自分の得意分野と苦手分野、やるべき役割もおのずとわかってきましたね。(後編へ続く)

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