コロナ禍で市民を分断したトランプ氏と団結させたアーダーン首相 2人の言葉にはどんな違いがあったのか
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コロナ禍で市民を分断したトランプ氏と団結させたアーダーン首相 2人の言葉にはどんな違いがあったのか

未曽有のパンデミックに世界がのみ込まれて1年以上が過ぎました。この間、各国はロックダウンや経済支援など数々の対策を実施。不自由な生活を強いられることもある中で、今も多くの人たちが感染収束に向けて協力しています。では、協力を仰ぐ立場にあった各国のリーダーたちは何を伝えどんな行動を示して、市民を率いようとしていたのでしょうか――。
※本記事は光文社新書1月刊「コロナ対策各国リーダーたちの通信簿」を一部抜粋・再編集して作成しました。

◆コロナ禍を率いたリーダーたちの共通点

 気が付くと、私たちは現地の人々とともに新型コロナの大波にのみ込まれていた。住み慣れた社会の営みが、家族や友人たちとの普通の日常が忽然と眠りについていく中、何が起こっているのかを見極めようと、住んでいる国のテレビやネット情報にかじりつき、周りの人々との情報交換にのめり込んだ。すると、未曽有の危機に、それぞれの国のリーダーたちが市民に向ける姿勢や言葉に圧倒された。それは良い意味でも悪い意味でも、日本では感じることができないほどの熱量を持っていた。これをなんとか記録して伝えたい――そう感じて、各国に散らばるジャーナリスト仲間と連絡を取り始めたのは、閉ざされた封鎖生活の最中のことだった。

 コロナ禍では3月後半に、ヨーロッパ諸国が爆発的な感染の震央と化したため、日本のメディアもフランスやイギリス、ドイツの大物リーダーたちの言動をある程度は伝えた。普段は目立たない小国のベルギーは2度も世界最悪の数値を出したことで、また、スウェーデンは厳しいロックダウンを行わない独自のやり方を貫いたことで、散発的にメディアに取り上げられた。ニュージーランドはアーダーン首相の見事なコロナ制圧が話題となり、断片情報でも日本人に強い印象を残した。アメリカでは、トランプ大統領の劇場のような言動が、選挙のタイミングとも重なり、センセーショナルに報道された。

 それでも、時間の経過とともに変遷していくリーダーと市民の様子が素肌感覚で捉えられているとは言えなかった。そこで、比較的日本でも多くの報道がなされたこれら7カ国のリーダーを取り上げてみることにした。

 取り上げた7人の中には、百年に一度現れるかどうかの大物政治家もいれば、キャラが際立つ人もいたし、一方で、国際舞台はもちろん国内でもほとんど無名だったり、さしたる評価のなかった人もいた。だが、コロナ禍で国を率いたリーダーにはいくつかの共通項があるように思う。まずはそれぞれが市民に向かって頻繁に、直接発信し続けたという点は確かな事実だ。

◆分断を強めるトランプ大統領の言葉の魔力

 その上で、市民との連帯を強めていったリーダーには「共感力」、つまり立場の異なる市民の不安やつらさを察し、思いやることができる能力があっただろう。さらにもう一つは「伝える力」、すなわち、言葉やあらゆる術を尽くして伝え、説得し、行動させる力もあったのではないだろうか。広く市民全体に対し、細やかな共感力とコミュニケーション力を持てば、それは連帯に繋がるが、ある特定のグループに向かってだけその能力を発揮すれば、見事なまでの分断を加速させてしまう。

 当初はかなりの上から目線だったリーダーたちの中には、自らの感染や市民の抵抗をきっかけに、引き返して軌道修正した人たちもいた。イギリスのジョンソン首相や、フランスのマクロン大統領、控えめだがドイツのメルケル首相の姿勢にもそれは表れている。一度動き出したら止まらない硬直化したやり方ではなく、踏みとどまり方向転換できる柔軟さに、指導者の勇気や度量がのぞき、それぞれの言葉には人間味や説得力が加わるように感じた。一方、そうした体験を経ても軌道修正せず、支持者層を煽ってさらなる分断を強めたリーダーもいた。言うまでもなく米国のトランプ大統領だが、その言葉には一定の人々を強烈に団結させ、行動させる魔力があったのも事実だ。

 コミュニケーションにおいては、テレビ演説や長時間にわたる記者会見というフォーマルな形を重視した人も多いが、ツイッターやフェイスブックなどのSNSを駆使した人も少なくない。ニュージーランドのアーダーン首相はフェイスブックライブで市民との双方向なコミュニケーションを成功させた。ジョンソン首相やトランプ大統領もツイッターでの発言力は高かった。ドイツのメルケル首相やスウェーデンのロベーン首相は、オーソドックスな地上波テレビという方法を重視し、ベルギーのウィルメス首相(現在は副首相)は、高齢者にリーチするためには地上波を、子どもたちには子ども番組を、若者にはSNSをとメディアを使い分けているようだった。特に注目して書いていた国はなかったが、ほとんどの国で視聴覚障害者のための手話通訳や字幕、少数言語話者への翻訳対応など、きめ細やかな努力が行われてきたことも付け加えておきたい。

 いずれにしても、誰かに用意してもらった原稿を棒読みしたり、標語のような文言をフリップにして語るリーダーはいなかった。多くは発信する際に「みなさん」と語りかけ、市民に浸透させるための「合言葉」を作って繰り返したリーダーも目立った。それは、市民の間でも反芻され、連帯のシンボルともなった。

◆私たちはこれからのリーダーに何を望むのか?

 ところで、新型コロナウイルスが猛威を振るう中では、世界のあちこちで自国ファーストの醜い出来事が頻発したこともしっかり記憶に留めておきたいと思う。マスクや消毒薬などの必須物資がものの見事に不足した時には、国策としてただちに自国や地域での生産に舵を切ったリーダーがいた中、国際的なぶんどり合戦も発展。消毒薬やうがい薬を特効薬かのように推奨するリーダーの珍言もあちこちで認められた。フランスでは古いマラリアの治療薬クロロキン、アメリカでは抗ウイルス薬レムデシビル、そして日本ではアビガンのように、リーダーまで加わって救世主かのようにもてはやし大騒ぎした国もあった。ようやく、COVID―19のワクチン開発に朗報が聞こえ始めたが、国際間での奪い合いも、国内での接種方針やワクチン抵抗運動への対応にも、リーダーの本質はまだまだ影響し続けることになるのだろう。

 歴史を振り返れば、ペストやコレラといった大きな感染拡大で多くの命が失われたのはいつも、覇権拡大によって大規模な人の移動が起こった時だった。そして、そのことでそれまでの権威が失墜し、市民革命や産業の大転換などが起こった。化石燃料をベースとしたグローバリゼーションが進み、人の動きがピークに達している今、新型コロナウイルスによるパンデミックは起こるべくして起こったのかもしれない。

 本書を通して、各国リーダーの物語を読むと、誠意や誠実さ、信頼や真摯さ、連帯や団結、透明性、科学や知性、感謝や謙虚さ、そして民主主義などの言葉が飛び交う。それはコロナ禍が収まった後に、地球社会は大きな転換点を迎えるのではないかと予感させる。

 行き過ぎたグローバル化の後に来るのは、どのような世界なのだろう。あなたの国のリーダーは、市民に向き合い、社会を守り、次なる持続可能な世界へとソフトランディングさせてくれそうだろうか。多くの死者を出し、経済が停滞しても、市民の納得と共感を得て今までと異なる価値や方向へと導いてくれそうだろうか。

 コロナ危機は、人と人を引き離して社会の分断をさらに拡大させもしたが、言葉の力で人と人を結び付け、結束を強めることに成功したリーダーもいる。

 さてあなたは、どんなリーダーとともにどのようなコロナ後の社会を希求するのだろうか。


著者プロフィール

栗田路子(くりたみちこ)
ベルギー在住30年。人権、医療、環境などをテーマに発信。
プラド夏樹(ぷらどなつき)
フランス・パリ在住フリージャーナリスト。
田口理穂(たぐちりほ)
ドイツ在住ジャーナリスト、ドイツ法廷通訳・翻訳士。
冨久岡ナヲ(ふくおかなを)
イギリスと日本を筆でつなぐロンドン在住ジャーナリスト。
片瀬ケイ(かたせけい)
アメリカ・テキサス州在住ジャーナリスト、翻訳者。
クローディアー真理(くろーでぃあーまり)
ニュージーランド在住22年のジャーナリスト。
田中ティナ(たなかてぃな)
スウェーデン・エステルスンド在住18年のフリーライター。 

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