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私の「5、6個コレクション」〜とっくり形の日本酒瓶〜|パリッコの「つつまし酒」#181

誰もがひとつふたつは持っている

 人に胸を張って自慢できるようなコレクションでもないし、そもそも自分にはコレクター気質がない。けれども、なんとなく好きで、見つけるたびに買っているうち、5、6個くらい同じジャンルのものが家に集まっていた。そんなものって、ないですかね?
 以前、それを飲み友達のライター、スズキナオさんと一緒に「5、6個コレクション」と名づけ、とある媒体で記事にしたことがあります。内容は、きっとそういうコレクションを持っているだろうな、という友人知人に、「なにかないですか?」と聞いて、オンラインで実際に見せてもらうというもの。するとやっぱり、みんなそれぞれに持っているんですよね。5、6個コレクションを。
 ライターの泡☆盛子さんなら、晩酌のときに使う「お膳」。編集者の大久保潤さんなら「広島東洋カープ関連のレコード」や「トートバッグ」など。編集者の高田真莉絵さんなら「ダサかわくつした」。ナオさんがリーダーをつとめるバンド「チミドロ」のメンバー、ハナイさんなら「捨てられないTシャツ」。といった具合に。
 みんな最初は「いや〜、人に見せるようなもんじゃないですよ……?」なんてテンションなんだけど、話しだすとすごく嬉しそうな顔になる。やっぱり、好きなものの話をしているときって、誰しも、なんだかんだ幸せなんですよね。
 あ、ちなみにいま紹介した話は、最近出た僕とスズキナオさんの共著『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』にも収録されていますので、ご興味あればぜひ!(宣伝)
 ところでもちろん、僕にもいくつかの5、6個コレクションがあり、なかでも真っ先に思い浮かぶのが「とっくり形の日本酒瓶」。今日はちょっと、それを紹介させてもらってもいいでしょうか? まぁ、ダメと言われても勝手にしゃべりはじめるんですが。

こいつらについてです

一度見つけてしまうと気になるように

 そもそも写真を見てもらえるとわかるとおり、長年かけて少しずつ増えてきていて、すでに5、6個コレクションの枠を超えて12本あるんですが、まぁあんまり厳密に考える話でもないのでいいでしょう。
 きっかけは、この1本でした。

「櫻正宗」

 数年前、出かけた先でふらりと入った酒屋の棚で、こいつと出会ったんです。まずこの、ころんとしたフォルムが愛らしく、そしてやっぱり、瓶のデザインですよね。レトロなんだけれどもモダンさもあり、かわいくてたまらない。これ、絶対に欲しい! と、1本買って帰ったというわけなんですね。
 それからというもの、街で酒屋を見つけると同様の日本酒がないか、なんとなく探すようになりました。するとたま〜に見つかるんですよね。似たような規格の瓶の酒が。

「白老」「日置桜」「沢の鶴」

 王道であり花形であるのは、このタイプ。先ほどの櫻正宗とも同じで、透明の瓶に赤と白、2色を使ってデザインされたものですね。
 白老のシンプルさや、日置桜の華やかも素晴らしいし、沢の鶴の、ほんの少しだけ瓶のフォルムが違う感じも、5、6個コレクター心をくすぐるんだよな〜。

「千代八千代」「藤娘」「瀬戸内ネコの散歩道」

 もちろん赤白のものだけではありません。千代八千代の白一色という潔さや、藤娘の名前どおり小粋な感じもいいでしょう。珍しいのは瀬戸内ネコの散歩道で、こちら、広島県の蔵元「酔心山根本店」と、なんと「カルディコーヒーファーム」とのオリジナルコラボ商品。まさかこの瓶に目をつけてくるとは、カルディさん、さすがっす!

「純平」「酔鯨」「司牡丹」「華燭」

 緑色の瓶のものもけっこうあります。白いインクが暗い緑に映えて、どれもいいでしょう?

家飲みでも、あえてひと手間

 このガラスとっくりについては、僕の尊敬する居酒屋研究家、太田和彦先生も、恐れ多いことにイベントで対談させてもらった際に、「いいものである」と語られていました。いわく「家で酒をお燗するとき、なかが見えるのがいい」と。そこでとっさにスマホで僕のコレクション写真をお見せすると、「いい趣味だねぇ」とひと言。これは嬉しかったですね〜。ちなみに太田先生、もちろん冗談ですが、続けて「ひとつ5000円でオレに譲らない?」と、またひと言。その時は「いや〜……」なんて笑っていたものの、太田先生、その提案がもし本気ならば、喜んでぜ〜んぶお譲りしますので! 「いくら金を積まれたって、私のコレクションを他人に譲るわけにはいかない!」なんてテンションでは集めていないのもまた、5、6個コレクションの特徴ですからね。
 さて、最後にこのなかで、僕が最もお気に入りの1本をご紹介させてください。

「宮の雪」

 大衆酒場ファンには「キンミヤ焼酎」でおなじみの「宮崎本店」が作る日本酒、宮の雪。キンミヤ焼酎のラベルデザインが素晴らしいことは誰もが知るところですが、この宮の雪の瓶もめちゃくちゃ良くないですか!?
 筆文字で描かれた宮の雪の文字。その角度に合わせるように俯瞰から見た鳥居が描かれ、上には雪が積もっている。こんなにもシンプルな線でありながら、心のなかに情景が広がって、しんしんと降る雪の冷たさまでをも想像してしまうような。
 もちろん、これで日本酒をお燗するのも最高なんですが、僕の場合、他にも好きな使いかたがあります。
 たとえば時間に余裕のある休日。早めの夕方から飲みはじめてしまおうか。しかもいつもよりちょっぴりていねいに手間をかけて。なんてときに、まずは駅前の酒屋へ行ってホッピーを買ってきましょう。ストックが切れていればキンミヤ焼酎も買ってきましょう。
 で、軽めのちょっとしたつまみを用意して、そうだな、缶詰のいわし蒲焼きでいいか。ミル挽きの実山椒をたっぷりかければ、上等上等。さぁこれをつまみにホッピーで一杯! といきたいわけですが、ここでひと手間。宮の雪の瓶にいったん、キンミヤ焼酎をわざわざ移すんですよね。つまり、自宅でありながらきちんと「ホッピーセット一式」を用意する。で、ゆっくりゆっくりと、それを割りながら飲むというわけ。

宮の雪の瓶で「ナカ」を作って
今日は業務用のホッピーが手に入らなかったのが残念ですが

 もちろん、毎日の晩酌でこんな面倒なことはしてられませんよ。だけど、たまにやるからこそ、これが実にいい。自分で焼酎とホッピーをグラスに配合しつつ、「この店のナカ、濃いね〜」なんて言いながら。


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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