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オバマ大統領が「偉大な研究」とまで述べた革命的がん治療法を発明した日本人がいた

光免疫療法――人体に無害な近赤外線を照射してがん細胞を消滅させる、がんの新しい治療法が世界で注目を集めています。この治療法は2012年、アメリカ元大統領のバラク・オバマが一般教書演説で「米国の偉大な研究成果」と世界に誇ったことでも知られています。このたび、光免疫療法の開発者で、米国立衛生研究所/国立がん研究所の主任研究員の小林久隆氏は『がんを瞬時に破壊する光免疫療法』を上梓しました。光免疫療法とは、いったいどのような治療法なのでしょうか。「まえがき」を公開いたします。

コロナ禍でも「がん医療」を止めてはならない

2020年、1月から中国の武漢を発端に世界を襲った新型コロナウイルスの猛威は留まることを知らず、いまだ終息する兆しはない。最終的に、この新型コロナウイルスでどれくらいの方々が命を落とすことになるのかは分からない。

だが、感染症というものはあるときに燃え盛り、ある時期に必ず終息する。もちろん、いま医療はこの感染症に全力を注いで治療に当たらなければならない。

私は、新規のがん治療法である「光免疫療法」を開発し、アメリカのメリーランド州・ベセスダにあるNIH(National Institutes of Health、アメリカ国立衛生研究所)で働く医師である。NIHも新型コロナウイルスの影響を受け、2020年の4~5月はがん患者の受け入れは救急以外、すべて休止せざるを得ない状況になった。急を要する手術以外はすべて延期となったため、がんが悪化し、命を落とした方も少なくなかった。

私たちが忘れてはならないのは、世の中がどんな状況になろうとも、世界中で年間約2000万人が罹患、約1000万人が死亡し、日本でも年間約40万人が命を落とす「がん」という病への対応も着実に進めていかなければならないということだ。

たとえ新型コロナウイルスで1000万人の命が奪われたとしても、がんによる死もまた、毎年、同数かそれ以上に存在する。コロナ禍で、がん医療は確実に停滞した。こうしたかつてない危機に直面してみると、やはりコロナ禍にあっても「がん医療」が止まるということがあってはならないと私は痛感する。

バラク・オバマ元米大統領が治療法について語る

2020年は新型コロナウイルスの影響で世界中が振り回される一年になったが、本書のテーマである「光免疫療法」はその間も着々と治験の成果を積み重ね、いま、やっとその歩みが日の目を見る地点に到達した。

私が、がんを極めて「選択的」に死滅させることはできないかと考えたのは大学院時代であった。研究は出発点から遡(さかのぼ)ると30年越しで、アメリカへ渡ってから実に25年の月日を経ている。しかし、現時点は決して研究の結実ではなく、終わりの始まり、あるいは「決勝レースのスタートの一歩目」を踏み出したばかりであるのだが、プロジェクトを完遂するための重要な中間目標地点を迎えたことは確かである。

私にとって、この治療法の最大の転機となったのは2012年、当時の米大統領バラク・オバマが一般教書演説で、この治療法の可能性について言及してくださった瞬間だった。研究の大半は米国の税金で賄われている国立の研究機関で行われている。だからオバマ元大統領も、税金が有効に使われていることを示すための宣伝としてその有効性を考えて語ったのだろうが、これは私にとって嬉しい出来事だった。

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そして何より研究が加速度的に進んだのは、2013年の春に楽天代表取締役会長兼社長である三木谷浩史さんと出会ったことによってである。その後の、彼個人としての英断なしでは研究は前に進まなかったであろう。

「光免疫療法」は現在さまざまなメディアで伝えられている。私も、この医療を待ち望む方々に、過度な期待を抱かせることなくできる限り正確な情報を届けたいと思ってきた。だから、専門家に向けた学会などでの発表のみならず、テレビや雑誌の取材にも積極的に応じてきた。しかし「光免疫療法」を標榜する、まったく別の治療法を行う無関係な医療機関が現れている。誠に残念ながらそれらを法で規制することはできず、私は心を痛めてきた。

私が開発した「光免疫療法」は、日本国内であれば十数ヶ所で行われている治験の条件に該当して初めて参加が可能になるものだ。個人が開業しているクリニックでは受けられない。

切実な悩みを抱える患者さんとご家族に応えたい

この治療に望みを託したがん患者さんとそのご家族に申し上げたいことは、がんの治療は標準治療以外は玉石混交であり、落とし穴も多く、どうか翻弄(ほんろう)されずに正確な情報に行き着いていただきたいということ。そうした混乱を避けるべく、最近ではこの治療の技術基盤を「イルミノックスプラットフォーム」と呼称・区別化し商標登録をするに至った次第である。

これまで、「治療を受けるにはどうしたらよいのか」といった切実な悩みを抱える患者さんやご家族の方から、メールを2000通超もいただいている。私はある時期まで、その一通一通に返信していた。しかし、研究が治験へと進み、実用化がいよいよ視野に入った段階で、この治療法の効果などについて語ることは事前広告として規制に抵触する可能性が生じ、また守秘義務の観点から返事を差し上げることを控えなければならなくなった。

そうした忸怩(じくじ)たる思いを抱く中で、私の視点から、この治療の概略をここに記すことにした。この治療に望みを託したがんの患者さんやそのご家族、そして医療関係者の方々に、この治療法の一端をご理解いただけたら幸いに思う。

著者プロフィール

小林久隆(こばやしひさたか)
1961年、兵庫県西宮市生まれ。現在、NIH/NCI(アメリカ国立衛生研究所・国立がん研究所)分子イメージングプログラム主任研究員として勤務。87年、京都大学医学部を卒業し、95年に京都大学大学院内科系核医学を専攻し修了、医学博士号取得。同年に渡米、NIH臨床研究センターフェローに。98年に帰国し、京都大学医学部助手を経て、2001年に再渡米、NIHのNCIにシニアフェローとして勤務、05年から現職に。11年、光免疫療法の論文が米医学誌『Nature Medicine』に掲載される。光免疫療法の研究・開発により14年にNIH長官賞、17年にNCI長官個人表彰を受賞。他に5回のNIH Tech Transfer Award等を受賞。

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