雪の降る日に……|パリッコの「つつまし酒」#142
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雪の降る日に……|パリッコの「つつまし酒」#142

光文社新書

1年ぶりの雪見酒チャンス

 酒飲みの生態ってのは非常にわかりやすいものでして、春に桜が咲けばそれをつまみに、夏に蝉が鳴けばそれをつまみに、秋に木々が色づけばそれをつまみに、なにかというと酒を飲みたがるものです。
 僕の場合、その最たるものが「雪」。特に僕の住む東京では、きっちりと積もるほどの雪というのは1年に一度あるかないかで、ふだん見ている街並みが真っ白に雪化粧した景色なんかを見てしまったらもう、それをつまみに酒が飲みたくて飲みたくて、いてもたってもいられなくなるわけです。
 なんてことは昨年の同じころにも、「雪見酒」という原稿に書かせてもらいました。そこにあるとおり、家やその近所の仕事場にいたならば、コンビニで酒でも買って、近所の石神井公園の東屋にでも行けば、すぐに雪見酒ができる。
 ところが、東京に数年ぶりレベルのしっかりとした雪が降った昨日。昨日はですね、まさにこの連載「つつまし酒」の新しい担当さんとの初顔合わせで、護国寺にある光文社さんにおじゃましていたんです。「これからどんなネタを書いていきましょうかね〜」なんて、わきあいあいと打ち合わせをしつつも、窓の外を見るとしんしんと雪が降っている。こんな雪見酒チャンスはそうそうないぞと、内心、気が気じゃない(って、ここに書くことじゃない)。
 無事打ち合わせが終わったのが午後3時。次の予定は、葛飾区のお花茶屋という街に午後5時に集合して、とある取材が1件。移動のことも考えると、僕に与えられた雪見酒チャンスは約1時間。さて、どうする!?

赤い灯の正体を確かめに

 そもそも今いる護国寺という街には、あんまり昼飲みのできるような店があるイメージがありません。仮に飲めたとしても、地下の店で、外の雪景色が見られないなんてのは論外。加えて、地元とは勝手が違い、公園の良き東屋なんてのはさらに見当がつかない。つまりは、まったくあてがない。
 う〜む、これはもう、ここよりは確実に酒が飲める店が多そうなお花茶屋に移動するのが正解か……。なんて考えつつも気ばかり焦り、未練がましく護国寺の駅周辺を徘徊していた僕の視線の先に突然、グレーにくすんだ景色から浮かびあがるように、ひとつの赤い光が飛びこんできたのでした。

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あそこに見えるのは……

 飲み屋……だろうか? でもなぁ、こんな駅前でも商店街でもなんでもない、高速道路の高架下にぽつんと飲み屋があるなんて、ちょっとできすぎだよなぁ。このパターンには何度も泣かされてきた。期待して近づいていってみるとたいてい、ぱっと見飲食店っぽい灯油の店だったりするんだ。とはいえ、確かめないというわけにはいきません。道を渡って前まで行ってみると……おぉ! 持ち帰り焼鳥の専門店だ。

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「やきとり いいね」という店らしい

 ただ、持ち帰りか〜……惜しいな。ひと串オール80円は魅力的だけど、それを買ったところでどこで食べるかが問題だよな〜。
 ……ん? ちょっと待って、さらによくよく店内を見てみると、なにやら立ち飲み風カウンターがあり、そこで飲んでるらしきおじさんふたり組がいませんか? いや、いるいる! 確実にいる! ここ、店内でも飲める店なんだ!
 さっそく扉を開け、「飲めますか?」と聞いてみると「どうぞ〜」とのこと。うおー、こんな時間、こんな場所で、こんなにもジャストなタイミングで、こんなにもジャストな店に出会うってこれ、ほとんど奇跡と言ってもいいほどの幸運なんじゃないでしょうか。

念願の雪見酒タイム

 石油ストーブと焼鳥の焼き台、ダブルの効果でポカポカの店内は、通りに面して全面が窓という、いわば全席アリーナ状態。そのいちばんいい位置に陣取らせてもらいまして、まずはホッピーセットで、念願の雪見酒タイムスタート!

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「ホッピーセット」(400円)

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窓に映るメニュー短冊と雪景色

 やがて、よくばって8本も注文してしまった焼鳥も到着。目の前の雪景色を眺めながら、ぬくぬくの店内で、熱々の焼鳥をつまみにキンキンのホッピーをやる。酒飲みとして、これ以上の幸せはないんじゃないだろうか? っていう、完全なる天国です。

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自家製の浅漬け(200円)がいい箸休め

 またここの焼鳥が、塩加減も、甘みがありつつもキリッと引き締まったタレの味も、ものすごく美味しい。ふわふわのつくねやとろりとしたレバーなどなどはもちろん、タレ味の輪切りウインナーのちょっとチープな美味しさなんかもう、抜群にホッピーがすすむな〜。
 そんな絶品の焼鳥をつまみにホッピーのナカのおかわりも飲みつくし、せっかくだからもうちょっとあったまってやれ! と、芋焼酎のお湯割り(300円)をもらいましょう。

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石油ストーブがある店=いい店

 いつの間にか先客が帰り、客席に僕ひとりとなった店内に響くのは、控えめなTVの音声のみ。浅漬けをぽりぽりつまみ、芋焼酎をズズズとすすり、各地の雪の状況を伝えるワイドショーをぼーっと眺める静かな時間。目の前には降りやむ様子のない雪景色。
 あぁ、なんて贅沢な時間なんだろうか。こういうことがあるから、酒飲みはやめられないんだよな〜……。

パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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