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”ビジネスパーソンに一読していただきたい一冊”―カマラ・ハリス著『私たちの真実』翻訳者による読みどころ紹介

光文社新書編集部の三宅です。

好評発売中のカマラ・ハリス氏初の自伝『私たちの真実』。翻訳者のお一人、藤田美菜子さんが本書の読みどころを紹介してくださいました。

ハリス氏の“仕事の現場”での闘いぶりに焦点を当てた本記事は、ビジネスパーソンの方々にも示唆に富む内容になっています。

こちらのマガジンで、本書の抜粋記事、書評などが読めます。

”ビジネスパーソンに一読していただきたい一冊” by藤田美菜子

 第49代アメリカ合衆国副大統領、カマラ・ハリス――女性初、黒人初、アジア系初の副大統領として、歴史に名前を刻む女性である。

 この“スーパーウーマン”が誕生するまでの道のりをひもとくのが、ハリスの自伝『カマラ・ハリス 私たちの真実』(光文社)だ。

 本書は、とりわけビジネスパーソンに一読していただきたい一冊だ。というのも、本書の読みどころは、ハリスの“仕事の現場”での闘いぶりにあるからだ。

 マイノリティの出自で、母子家庭に育ったというバックグラウンドゆえに、ハリスの幼少期や思春期に関心を抱く読者も多いだろう。もちろん、乳がん研究者であった母・シャマラをはじめ、周囲の魅力的な大人たちの薫陶を大いに受けた幼い日々のエピソードは、本書の中でもとりわけ心温まる部分だ。

 一方で、非凡な両親(父親も著名な経済学の教授)から類まれなる聡明さを受け継ぎ、小学生のころから経済的に豊かな白人の子どもたちに混じって学んできた(行政の差別撤廃プログラムによるもの)ハリスには、自身がマイノリティとしては“恵まれた”環境で育ったという自覚もあるはずだ。だからなのだろう、彼女は昔の思い出話に多くのページを費やすことはしない。それよりも、与えられたチャンスを生かし、社会を良くするために、いかに闘ってきたかをつづることに熱量を込めている。その点にこそ、本書の良さがあると思う。

 30代にしてサンフランシスコ地方検事という要職についたハリスは、最優先事項として防犯対策に力を入れる。
 このときハリスが注目したのは「再犯率の高さ」だった。そこで、初犯者に対して高校卒業と就職の機会を与えるプログラム「バックトゥトラック」をスタート。このプログラムは極めて低い再犯率を達成し、のちにカリフォルニア州全域で採用された。
 また、「犯罪者の多くは不登校者だった」という事実に目を留め、小学生の不登校問題にも取り組んでいる。その結果、不登校児童数を23パーセント削減することに成功した。
 このように、対処法的な解決策に終始せず、ファクトをベースに問題の根源に切り込んでいこうとするハリスの姿勢には学ぶところが多い。

 2010年の選挙で、カリフォルニア州司法長官に当選したハリスは(これも女性初、黒人初、アジア系初の快挙だった)、就任直後から「サブプライム(住宅ローン)問題の後処理」という難題に取り組むことになる。
 この問題で、不当に住宅を差し押さえられた大勢の住民を救済するため(差し押さえ危機で最大の打撃を受けた全米10都市のうち7つはカリフォルニア州にあった)、ハリスは大手銀行を相手に大立ち回りを演じる。「ウォール街の帝王」ことJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOに電話で直談判し、巨額の救済金を引き出すことに成功するエピソードは、本書のハイライトのひとつだろう。

 リーダーとしてのハリスの行動原則を、コンパクトかつ密度高くまとめた最終章「人生が教えてくれたこと」も必読だ。「仮説を検証する」「目立たないものを大切にする」「言葉にこだわる」「後進を育てる」など、8つのルールが紹介されているが、その一つひとつにハリス本人の経験と実感が込められている。

 本書がアメリカで刊行されたのは、ハリスが翌年の大統領選挙への立候補を発表した2019年1月のことだ。2021年の現在、副大統領となった彼女の仕事ぶりを念頭に置きながら読むと、(とりわけ難民政策については)「志」と「現実」のシビアなギャップを感じずにはいられない部分もある。だからこそ、これから彼女がどのように闘っていくのか、ますます目が離せないのだ。

「私たちは、複雑さと危険性に満ちた不確実な世界に生きている。そのなかで、未知かつとらえどころのない試練に直面することもあるだろう。そのとき私たちに求められるのは、恐れではなく、賢さによって行動することだ」
――カマラ・ハリス

(了)


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