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岩田健太郎 「ゾーニングには、必要な『イメージ』を身体に落とし込む必要がある」(新刊より一部公開)


神戸大学医学部感染症内科教授の岩田健太郎氏の新刊丁寧に考える新型コロナ』(光文社新書)。発売直後より大好評を博しています。
その第5章で、岩田氏は、感染対策・感染防御と、専門家に求められる感覚について、豊富な経験をもとに解説しています。その一部をここでご紹介しましょう。

丁寧に考える新型コロナ_帯付_RGB


シエラレオネでのエボラ流行時の感染防御



ゾーニングは、2014年から西アフリカで流行したエボラ出血熱でも活用されました。

ぼくは14~15年にかけて1カ月ちょっとシエラレオネにいました。エボラは国中に蔓延(まんえん)しており、ただでさえ少ない病院ではとても対応できない大問題でした。よって、各国の協力でエボラ治療センター(ETC)を作って、患者をそこで治療したのです。

エボラウイルスは、新型コロナウイルスよりも感染管理は簡単で、基本的に感染経路は「接触」のみです。患者(とその体液)に触らなければ、感染しません。よって、ゾーニングもシンプルで、「患者のいるゾーン」と「いないゾーン」に分けていました。

とはいえ、致死率が非常に高いエボラに感染するのは文字通り「命取り」になりますから、レッドゾーンに入るときはガッチガチの宇宙服のようなPPEを着用します。

でも、グリーンゾーンにいるときは普通のスクラブで大丈夫。向こう側に患者が見えていても、大丈夫。

我々は普通の服で、机越しに患者に薬や食事を渡していました。エボラは「空気感染」しませんから。

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ぼくはシエラレオネでもギニアとの国境に近い「コノ」という場所で主に活動していました。世界保健機関(WHO)のコンサルタントとして、感染防御や治療の専門家として行きました。

WHO単独で行動するのではなく、UNICEFやアメリカのCDC、英国の軍隊など、たくさんの機関と共同作業していました。

ある日、アメリカCDCの疫学者と一緒に病院の周囲を歩いていると、そこに看護師さんがふたり、宇宙服のようなPPEを着けて歩きまわっていました。

ぼくらは戦慄(せんりつ)しました。

すでに本書で述べたように、PPEはレッドゾーンでのみ着用すべきで、グリーンゾーンでPPEを着用するというのは、エボラウイルスをグリーンで撒(ま)き散らすような行動だったからです。

ぼくは隣りにいたCDCのTさんに言いました。

「やばいよね」

「うん、やばい」

大慌てで、この病院の介入に取り掛かりました。

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その看護師さんたちの勤務する病棟では、エボラの院内感染が多発していました。

ぼくらはゾーニングを再設定し、ウイルス汚染の恐れのあるベッドなどを燃やし、スタッフへの再教育で「PPEは着ればよいものではない」ことを再度念を押し、院内アウトブレイクを調査してその原因と打開策を追求しました。

シエラレオネではたくさんの国から来たたくさんの団体の、たくさんの人たちと一緒に仕事をしました。

国連組織、CDC、国際赤十字、国境なき医師団(MSF)、尊敬する医師ポール・ファーマーが主催するパートナーズ・イン・ヘルス(PIH)などなど。

疫学、感染防御、感染治療などそれぞれの専門分野は異なれど、みなプロ集団でした。専門知識や概念は共有されていたので、恐ろしいウイルス感染を相手にしていても、チームで仕事をするという点ではまったくストレスはありませんでした。

相手はぼくの言うことややることを理解していましたし、ぼくも皆の言うことややることを理解していました。

もちろん、見解の相違や、意見の対立はありましたが、それは「感染症学」という同じプラットフォームのうえでの、同じ土俵の上での相違や対立でした。

対立であっても、それは土俵の上で相撲を取るようなもので、お互いにやっていることは理解し合えていたのです。

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クルーズ船には「やばさ」を共有できる人がいなかった

 ところが、これができなかったのが、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号でした。

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以上、第5章(「ファイル5」)の一部を、少しだけご紹介いたしました。

第5章(「ファイル5」)のその他の項目は、以下の通りです。

ファイル5: プール、温泉……そして、「専門家」と「信用」の基準

◆水中よりも、水上・更衣室・付き添いがリスク
◆プールでも、温泉でも、「感染経路さえ遮断」できればよい
◆感染経路が「見える」ことの恐怖――専門はさまざま
◆臓器別のスペシャリストと、臓器横断的なスペシャリスト
◆ダイヤモンド・プリンセス号の「感染防御の破綻」が理解されなかった理由
◆識者でも、専門領域以外は「にわか」同然
◆イワタの感染症医としての歩み
◆ラッキーの連続――アメリカでの経験
◆「城壁」という古典的ゾーニング
◆シエラレオネでのエボラ流行時の感染防御
◆クルーズ船には「やばさ」を共有できる人がいなかった


光文社新書『丁寧に考える新型コロナは全国の書店にて発売中です。電子書籍は10/23(金)リリースです。ぜひ、読んでみてくださいね。

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