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「会食自粛」を乗り切った現代人の進化の果ては…? | 辛酸なめ子#06

庶民の感覚とズレまくる、政治家の価値観

緊急事態宣言が発令され、ますます人と会わなくなりました。それでもニュースなどでは専門家がしきりに会話を控えてほしいというようなことを言っていて、これ以上どうすれば良いのでしょう。時々出るひとり言を抑えることくらいしかできません。

いっぽう、政治家は会食したりクラブで夜遊びしているというニュースに脱力。自民党の松本純議員が23時すぎに銀座のクラブ街を歩いている姿をキャッチされました。そのあと、「店から要望・陳情を承っていた」「ひとりで行っていた」という言い訳をしていて、「要望・陳情」という一見、大義名分のような単語を使っていながらも、マスクでもカバーできないギラギラしたヴァイブスがにじみ出て、違和感が漂っていました。

その後、ひとりで行っていたというのは嘘で、若手議員2人も同行していたことが判明(後日、3人とも離党届け提出)。2人の議員は、松本議員にかばっていただいたとしきりに恐縮していて、松本議員も「前途ある議員をかばいたいから」と、吐露。自分の身を犠牲に若い議員を守ろうとした英雄みたいな感じになっていました。

政治家の価値観が庶民の感覚とずれまくっています。

名前が同音の松本潤の方がよほど後輩のことを考えてしっかりフォローしています。他にも、公明党の遠山議員が夜20時以降に、銀座のクラブを訪れた件で議員辞職。彼も、お店のはしごについて「知人の話を聞いてあげたいという思いが強くあった」と良い人感を出していたのが印象的です。

通常時ならとくに問題にならないクラブ通いですが、今は緊急事態で、庶民は飲食店の時短営業で、夜20時でお店が閉まって夕食難民になる人が続出している状況なので、議員の行為に対して怒りを覚える人も多いです。

私は怒りというより、呆れの感覚を覚え、なぜ政治家はつるんで食事したがるのか、ということが気になります。日本の政治経済は会食で回っていたのでしょうか。

政治家がクラブ通いを辞められない理由とは!?

自民党には結束確認の「箱弁当」という謎の風習があるのも、今回のニュースの流れで知りました。毎週、所属議員が一緒にお弁当を食べる習わしで「一致団結、箱弁当!」とかけ声をかけることもあるというのが、部外者からするとちょっと怖いです。

まず、そこで飛沫が弁当に浴びせられるような……。

弁当があるとどうしても議員同士で食べてしまうので、弁当自体をなくしてしまった派閥もあるとか。政治家は女子中高生のグループ並みに、誰と一緒にご飯を食べるかを気にしています。今や学校では感染防止のため、机に集まらず個々の机で前を向いて会話せずにお弁当を食べているそうなので、女子中高生の方が意識が高いです。

なぜ政治家がクラブに行ったり会食してしまうかについて、情報番組「ワイド!スクランブル」で検証がされていました。

脳科学者の中野信子氏は「自分の社会経済地位が高いという認識があるほどルールを破りやすい」という話をされていました。地位が高いと「自分は許されるべきと思ってしまう心理効果がある」そうです。

舛添要一氏も、議員は「どこに行ってもちやほやされるのでそんな感じに慣れちゃう。だから時々落選した方が良い」と同意。識者の言うように「上級国民」という意識が、自分たちは会食をしたりしても許される、という思いにつながっているのだと思います。また、政治家は周りに敵が多いので孤独感が強いから、という理由がありそうです。だから時々実際顔を合せて、本当に信じられる相手か確認したり、派閥の結束を強める風習が必要なのでしょう。

「私語禁止」のカフェを訪れてみた。すると……

街を歩いていると、ひとりでカフェに行って楽しんでいる人がたくさんいて、一般人の方が孤独慣れしていて、ソロ活動にも長けているようです。ぬいぐるみを連れてカフェでお茶を飲む女性や、ひとり言を言いながらも楽しそうな男性を見かけました。また、最近は友人と会っても会話をせずLINEでトークして飛沫を飛ばさない、という人もいると聴きました。

私も感染防止を念頭に、「私語禁止」のカフェを訪れてみました。ジャズ喫茶、名曲喫茶、読書カフェなど、調べると、中央線沿線に多い傾向が。ひとりで思索にふけったり、音楽に造詣が深い方が住んでいるのでしょうか。

そんな中、訪れた名曲喫茶は赤い布張りの椅子が並ぶ、なつかしい昭和の内装。昭和テイストだと当時の霊が集まりやすいと聞いたことがありますが、最初客が私ひとりだったのに、店内に霊圧というか、見えない存在がうごめいているようでした。霊はエクトプラズムは飛ばすかもしれませんが飛沫は出さないので安心して、音楽を鑑賞。名曲喫茶のお得なところは、しばらく頭の中で聴いた音楽が流れることです。無料で脳内ストリーミングが聴けました。

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高円寺で普通のカフェだったのが「私語禁止」を打ち出して話題になったお店も訪れました。このお店に行ったことがある友人曰く、美人の女性店長がいるので、私語禁止になれば客のおじさんに言い寄られない利点もあるのでは、とのこと。

お店の前には大きな文字で「私語禁止」と書かれた黒板が。「『音楽を聴くカフェ』として営業するため」「食事中の飛沫感染を防ぐため手探りですが、やってみようと思います」とのこと。

どの程度私語禁止なのか、メニューはどうやって頼めばいいのか緊張しながら入店。マスク着用で小声で店員さんにオーダーすれば大丈夫でした。「注文の時、お会計の時など必要最低限の会話の際はマスクの着用をお願いします。筆談できるよう、ペンと紙のご用意あります」とテーブルの注意書きにありました。

「紅茶はミルクかレモンは……」
「ミルクでお願いします」
「かしこまりました」

と、店員さんとお互いマスクごしで会話。センスが良く素敵な雰囲気のカフェで、音響にこだわっているのでボリュームが大きめでジャズを聴くことができます。その時せわしないジャズピアノだったので、ちょっと落ち着かない、と思っていたら以心伝心で店員さんに伝わったのか、曲を女性ボーカルの陽気な曲に替えてくれました。

私語禁止だとテレパシーが伝わりやすくなるのでしょうか。

他のお客さんはシニア世代の男性と女性のひとり客。しばらく静かにチーズケーキなど食べていたのですが、おばあさんのスマホが鳴って静寂が破られました。

店員さんに一言注意され、おばあさんは店のドアを開けて「出て行けって言うから」と電話で話していました。しばらくして電話を終えて戻ってくると「ちょっと駅まで、受け取りにいくものがあるので」と大きな声でしゃべっていました。しかもマスクを付けずに……。

私語禁止が伝わっていないのでしょうか。駅からまたカフェに戻ってきたおばあさんは、唐突に大きな声で店員さんに話しかけだしました。「私のね、妹の旦那さんが有名な人でね!!」と、いきなり自慢がはじまり、店員さんが私語禁止の紙を見せたら静かになり、また平和が戻ってきました。

自慢したいという強い欲求があると、緊急事態とか関係なくどうしても抑えきれなくなってしまうのでしょうか。彼女もまた認められたい承認欲求や、誰も自分の話を受け止めてくれない孤独があったのかねしれません。自分の内の孤独と仲良くならないと、ひとりの平和な時間は持てないようです。

今までで一番ムカついたソーシャルディスタンス

別の日、他の私語禁止カフェへ。池袋にあるソーシャルディスタンスをテーマにしたカフェです。繁華街なので、気を付けながら池袋の雑踏へ。大戸屋や和牛食べ放題の店、パンケーキ屋、アダルト系書店、カラオケ店などひしめく中、何度も歩き回ったのですがお店が見つからず……。まるでアダルトグッズを買いに来たけれど勇気が出ない人みたいでした。

何度か歩いて、おそらく該当するブルーの建物は見つかりましたが「弊社ビル前でタバコを吸うのは厳禁です。みつけた場合は警察呼びます」と何枚も貼り紙が貼られていて不穏な空気が。残念なことに扉は閉まっていて営業はしていませんでした。オープンしてからそんなに経っていないのに閉店してしまったようです。お店に行かないことが、一番のソーシャルディスタンスだと実感。

カフェを探すため池袋の狭い路地を何度もグルグルしていたら、奇妙なことがありました。ずっと路地で立っていたメガネの男性が、近付いてきた、と思ったら私をちらっと見てそのままスルーしたのです。1メートルほどの狭い道幅で、極めて不自然な行為でした。もしかしたらナンパか何かしようと思って顔をよく見てやっぱりやめた、ということかもしれません。今までで一番ムカつくソーシャルディスタンスでした。やはり家でおとなしくしているのがベストです。

今月の教訓
会食自粛を乗り切ることができた現代人は、孤独に対応できるように心身がアップグレードします。
辛酸なめ子(しんさん なめこ)
1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。 漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『霊道紀行』(角川文庫)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、最新刊に『女子校礼讃』(中公新書ラクレ)がある。

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