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たどり着いた「ダーパンジー」|パリッコの「つつまし酒」#222

ノーチェックだった地元のお店

 ちょくちょく地元の話をしてしまって縁のない方には面目ないんですが、僕の住む東京都練馬区、石神井公園という街に「香満園」という中華料理屋さんがあるんです。
 本場の方がやっている、いわゆる大陸系と呼ばれるようなお店で、数年前までは同じ場所に違う店名の中華屋さんがあったので、居抜きで入った、比較的新しめのお店だと思われます。いや、思われますってなんだよって話ですけれども、地元には他にも好きでよく行くお店がたくさんあるので、けっこう最近までノーチェックだったんですよね。

「香満園」

 ところが数ヶ月前、友達と地元で飲もうということになって、好きな何軒かのお店が、運悪く満席だったり定休日だったりして入れず、あ、じゃああそこ行ってみよう! と、入ったのが香満園の初体験。そしたらこれがですね、想像以上に美味しくてリーズナブル。なにより、地元でこんなにも本格的な中華料理が食べられるなんて! と感激してしまうくらい、手抜きなしの本場の味わいだったんです。以来、気に入ってよく足を運ぶようになりまして。

本格的料理の数々

 この手のお店らしく、メニュー数は膨大。お得なランチセットから、名物のひとつである刀削麺類、もちろんオーソドックスな中華料理に点心類、酒飲みに嬉しいリーズナブルで種類豊富な前菜などなど、何度通ったってとても制覇できないくらいにあります。
 そこで今回は、これまでに香満園で頼んだメニューのなかの一部をご紹介。なんとなく、雰囲気が伝わるといいなという願いを込めて。
 まずは前菜メニューから、大好物の「ピータン豆腐」に、定番の「干し豆腐」「バンバンジー」。

「ピータン豆腐」(税込み390円)
「干し豆腐絲の和え物」(390円)
「バンバンジー」(490円)

 どれもこれも値段からは考えられないくらいボリュームたっぷり。特にバンバンジーなんか、インパクトすごくないですか? 容赦なくかけられた辛いたれの味わいもたまりません。
 続いては単品料理「ハチノスの辛口炒め」「麻婆ナス」「豚足煮込み」あたり、どうでしょう?

「ハチノスの辛口炒め」(880円)
「麻婆ナス」(600円)
「豚足煮込み」(390円)

 これまたどれもいいでしょう? スパイシーなハチノス炒め。どろりと濃厚な餡になすだけじゃなくたっぷりの野菜が入った麻婆ナス。ちびちびしゃぶりながらず〜っと飲んでいられる豚足は、たったの390円!
 また、さっき、地元でこんなにも本格的な中華料理が食べられることに驚いたと書きましたが、たとえばこんなメニュー。

「鴨血とモツの激辛スープ煮込み」(1280円)

 なんと、鴨の血を固めてスライスした、日本だったら少なくとも中華街などに行かないとなかなか出会えないような食材を使った料理もあるんですね。僕はこういう未知食材、けっこう躊躇してしまうほうなんですけれども、おそるおそる食べてみると、鴨の血、やわらかいレバーって感じで、クセもなく食べやすい。なにより、辛いんだけども滋味に富んだスープがものすごく美味しい!
 週替わりメニューでこんなものもありました。

「黄金ナス」(880円)

 どんなものかもわからず、しかし興味深いので頼んでみると、さっくりと揚がったなすに、クミンなどがベースと思われる、サラサラの謎の粉がたっぷりとかけられた料理。ハッピーターンで言うところの「魔法の粉」。これが、説明が難しいんですがなんともクセになる味わいで、ビールやホッピーがぐいぐいすすみます。

なすも粉も絶品!

 ごはんものもまた、種類たくさんのチャーハンも、ラーメンも、そして刀削麺も、なにを頼んでもはずれなし。

「叉焼チャーハン」(790円)
「油溌刀削麺」(800円)

 特にこの、お店のオリジナルであるという「油溌刀削麺」、汁なしの油そば風で、いいつまみになるんだよな〜。自分の取り皿の上で、他の料理、たとえばさっきの、鴨血とモツの激辛スープあたりをちょっと組み合わせてしまったりしてもまた良しで。

濃い味と麺のハーモニー

 そしてそして、今回のタイトルにつながるわけですが。先日も何人かで香満園で飲んでいまして、友達が何気なく「これ、どんなんだろうね〜?」なんつって頼んだ料理があったんです。それが「ダーパンジー」という、初めて聞くメニューだったんですけれども、僕、これを食べて、あまりの自分好みっぷりに感動してしまいまして。つまり、これだったんだ! と。自分がこの店で頼むべき至高のメニューは! と。いやもちろん、まだまだ頼んだことのないメニューのほうが多いわけで、あくまで「現時点では」ですが、何度かの訪問を経て「たどり着いた」と思ってしまったんですよね。
 というわけで、今日はあらためて、ひとりお店にやってきて、これからダーパンジー飲みをしていこうと思います。どんな料理か気になるでしょう? が、あわてなくたって頼むことは決まっているので、まずは「ホッピーセット」と、前菜の「ピータン」「辛味モヤシ」あたりで、軽くアップから始めていきましょうよ。

「ホッピー(白)セット」(450円)
「ピータン」(290円)
「辛味モヤシ」(290円)

 あぁ、いいなぁ。すでに最高だなぁ。日に日に春っぽくなってきた柔らかい空気が、気の早いことに開け放たれた入り口のドアから流れ込み、それを感じながら飲むホッピーと、ピータン、辛味モヤシのちょうど良さ。これぞ大陸系中華飲みの醍醐味だよなぁ。などとしばらく楽しんだところで、ホッピーのナカのおかわりとともに「ダーパンジー」を注文。
 さぁみなさん、いよいよ全容が明らかになりますよ〜! って、どんな料理か知ってる方ももちろんたくさんいると思いますが。

どん!

 まずはこのように、たっぷりの肉と野菜の入った熱々の鍋が到着。

どん!

 続いて、きらきらと輝く、ゆでただけの刀削麺も到着。つまり、この鍋と麺のセットが、香満園のダーパンジーというわけ。

「ダーパンジー」(1280円)

 さて、具体的にどういう料理かというと、基本的には、骨つきの鶏のぶつぎり肉とじゃがいも、そして刀削麺をメイン食材とする煮込み料理。中国の西の端に位置する「新疆ウイグル自治区」を代表する料理で、漢字では「大盤鶏」と書きます。
 ベースの味つけは、日本人でもなじみを感じるような甘辛味。ちょっとすき焼きとか、豚の角煮なんかにも近いような。ただし、そこに八角などのスパイスと、麻辣両方の辛味が容赦なく効いています。というか、5段階から辛さが選べて、僕はなんとなく3にしたんですが、それでも辛すぎて、途中何度か意識が飛びそうになりました。1でいいくらいだな、次は。
 具材は他に、ピーマンとごろごろのにんにくがたっぷり。これらの織りなすハーモニーが、まずかろうはずがないじゃないですか。で、しばらくは肉をしゃぶっては骨を別皿によけて、ホッピーをぐびぐび。う〜ん、幸せすぎる。そして鍋の内容量が1/3ほどになったところで、空いたスペースに麺を投入!

どさっと

 当然、全体をよ〜く混ぜる!

こう!

 すると、ぷりぷりむちむちの麺に濃い〜味がたちまち絡んで、絶品混ぜ麺風の料理に早変わりというわけ。コシがあって舌ざわりのいい麺が信じられないくらいうまいし、具材はまだまだ潤沢に残ってるし、楽しすぎるな、ダーパンジーで飲むの。やっぱり「たどり着いた」としか言えないわ。

「紹興酒1合」(450円)

 ホッピーを飲み干し、紹興酒をおかわりして鍋の残りをつまみにすべてをたいらげ、ごちそうさまでした。
 僕が知らなかっただけで、こんなにも自分好みの料理が、しかも地元で人知れず提供されていたんだなと勉強になるとともに、ダーパンジーにぞっこん骨抜きになったというお話でした。


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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