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生成AI、どう使う?|辛酸なめ子

消えた10万円

 生成AIを活用できるかできないかが、運命の分かれ道……。そんな空気が高まっている中、インスタに流れてくる「ChatGPTセミナー」のURLをついクリックしてしまいます。2020年のコロナ禍に、手に職をつけなければと焦燥感に駆られた感覚が蘇ります。データサイエンティストに憧れて「データサイエンススクール」に10万円(全国民に配られた給付金)を入金したけれど、結局何も身に付かなかった件の再来かもしれません。

 いっぽうで、今回の生成AI活用術はデータサイエンス以上に身につけなければいけない処世術だという予感がしています。インターネットの登場以来のインパクトで、AIのシンギュラリティ(人工知能が人間を超える技術的特異点)を早める、などと言われています。

 ChatGPTはアメリカの非営利法人OpenAIが開発した対話型の生成AI。入力ボックスに質問を入力すると瞬時にテキストで答えてくれます。生成AIが台頭することで、ホワイトカラーの人間の職業がAIに取って代わられる、という予測もされています。イラストやライティングなども生成AIが作成する事例が増えてきて、不穏な気配を感じながらも、まだ自分ではAIを活用することも、対策もできていないという状況です。

 クリックするだけで絵や文章ができてしまったら、人間から創作の喜びやモチベーションが失われてしまわないかと危惧もしています。いっぽうで、ChatGPTを創造的に使用した作品が芥川賞を受賞したり、AIと人間のコラボで仕事が発展する可能性もあります。

ChatGPT活用の「コツ」

 私のChatGPT活用法はというと、知人について聞いて間違ったプロフィールが出てくるのをおもしろがったり、アスキーアートを描かせたり、といったレベルの低さです。2022年にChatGPTが登場して間もない頃、プログラミングのコードを書かせたり、マーケティング戦略の提案をさせたりと、すぐに高度な使い方ができる人がたくさんいることに驚きました。自分がどれほどハイレベルなことをChatGPTにやらせているか、マウントの取り合いの空気も漂っていました。

 業種によっても使い方が変わってきますが、私もリサーチやアイディア出しをChatGPTに頼んでみたところ、満足する結果は得られませんでした。「今年の世界の王室ニュースを教えてください」と聞いたら「残念ながら、私のデータは2021年9月までのものであり、それ以降の情報は持っていません」と返ってきて、自力で調べることに。また、ChatGPTに「江戸時代の女性の人生についての本のタイトルを考えてください」と頼んでみたら『花嫁の夢、妻の実――江戸時代の女性の生活と挑戦』『紅の糸、白い衣――江戸時代の女性の愛と抗争』と、微妙なタイトル案が。繰り返し聞いていたら面倒くさくなったのか『江戸の女性たち』と、適当なタイトルが出てきました。

 どうやらChatGPTは質問のしかたにコツがあるようです。素人なので単純な質問を投げかけていましたが、高度な内容を導くには具体的で詳細な「プロンプト」と呼ばれる指示文を書く必要があったのです。いちいち前提条件とか考えて、文章の形で入力するのは面倒で、本当にこれは文明の進化なのかと疑念がわいてきますが、プロンプトを使いこなせるかどうかが今後の仕事に大きく関わってくるそうです。

クリック&コピペのポテンシャル

 そこで、まず受けてみたのは、インスタの広告で見つけた、プロンプトについて教えてくれるChatGPTの無料セミナー。有名なプロンプトエンジニアの男性が講師です。データサイエンティストに憧れていましたが、これからはプロンプトエンジニアの時代かもしれません。それにしてもChatGPTが登場して約1年でプロンプトエンジニアのトップになるとはすごいポテンシャル。早口のトークで情報が濃くてわかりやすい講義でした。

 まず、今までITの世界では「左脳で理系」でITリテラシーがある人間が活躍していましたが、これからは文章で説明する能力がある「右脳で文系」の人の時代が来るそうです。プロンプトに関してわかってる人なんてほとんどいない今、早く始めることで活躍の場が広がるとのこと。プロンプトを書いて生成AIに指令を出せば、作業スピードが上がり、時給も上がる。プロンプトを作成して販売することもできます。プロンプトで本を書くこともできます。と、自信に満ちた口調で語る先生。クリックとコピペで本が書けてしまうとは……。一文字一文字心を込めて打ち込んでいる身としては穏やかではありません。

 とにかく今後、ChatGPTのプロンプトが書けるプロンプトエンジニアの需要が高まっていくそうです。

「2024年の3月に補正予算が可決されて補助金が決まります。そうすると4月以降に3000~4000億円のAI補助金がばらまかれる予定です。どうやって何千億円というお金を奪い合うか、人生数回あるかないかのチャンスが今です!」

 これから、数千億円の奪い合いがネットの水面下で巻き起こるのでしょうか。周りを見ていて、あやしい人ほど政府の補助金や助成金がもらえる話をしている気がしますが、生成AIに関しては、国も今後、本腰を入れていくのでしょう。

AIだって休みたい

「インターネット、スマホと来て、AIブームが来ます。もし財を作りたければ新しい産業、新しい職業に挑戦するべきです」

 という先生の言葉が心に響きました。先生も、この半年でチャットGPT関連で億のお金を稼いでいるそうで景気が良いです。プロンプトを学べるオンラインスクールの入学金は、このセミナー終了後、一時間以内に申し込めば4万8000円。本来なら19万8000円の価値がある内容だとか。「年齢も気にしなくて大丈夫です。高齢の方の方がプロンプトがうまいんです」。

 そして実際に生徒のおじさんが登場。「どのくらいプロンプト叩けるの?」などと先生に質問されていましたが「ドラマのあらすじを作って読み込ませても、シーンが3つくらいしか出てこないです」とあまり活用できていない様子。先生は慌てて「ちがうちがう、全然できるから! この人の言うこと一切信じちゃダメだよ。わかってないから」と説明。まず、目次を作る、などの段階が必要だったようです。例えば何かストーリーを考えてもらうにしても、前提条件や制作者条件、目的と目標、テーマ、ジャンルなど細かく指定しないと、いい働きをしてもらえないようです。

 このやりとりを見てプロンプトの世界はハードルが高いと感じ、申し込む寸前でしたが、スクールの入会は保留にしました。プロンプトのサンプルなど無料特典が充実していたので、それでしばらく勉強できそうです。ただ、プロンプト集にあった「ChatGPTに短編小説を書いてもらうプロンプト」をさっそく使ってみたところ……詳細な前提条件を入れたのに「それでは、執筆を始めます」と言ったまま、止まってしまいました。一行も進まず、終了。AIもやる気が出ないときがあるようです。

初心者のつきあい方

 続いて、今度は別のChatGPTセミナーに申し込みました。AIに精通する方々が惜しみなくノウハウを伝授してくれるというオンラインイベント。

 何人かの登壇者の中で、ChatGPTのビジネス活用アドバイザーの男性は初心者向けにわかりやすい講義をしてくれました。ChatGPTでできることは「画像認識」「文章作成・アイディア出し」「画像の作成」「音声会話」で、例えば画像認識は、冷蔵庫の写真を撮ったら、そこにある食材でレシピを考えてくれるそうです。そんな活用法もあったとは。おそらく有料バージョンの話でしょう。

 先生によると、AIに仕事を代替される、という不安を持つ人も多いですが、一緒に仕事することでできることの幅を広げることも可能だそうです。あくまでも操縦士は人間で、副操縦士がAIだと考えることで、AIを時短に活用し、自分の創造性を広げられるとのこと。

「プロンプトが重要なんですけど、しっかり質問しようとすると入力が面倒でハードルが高い。でも、音声入力の精度が高いので声で質問するのがおすすめです」

 というアドバイスに希望を感じました。

「パソコンではじめると質問するのが大変。スマホの音声入力を使いましょう。プロンプトをしっかり考えると、良いアウトプットでてくるけど、初心者はもっと適当に気軽に使ってみましょう。誰かと話している感じでアイディア出しをしていくのも良いです」

私の仕事も、なくなってしまうのでしょうか……

 やはり初心者がいきなり高度なプロンプトを書こうとするから行き詰まってしまうのです。音声入力ならできそう、とポジティブな思いがわいてきたのですが、次のChatGPTコンサルの方の話に軽いショックを受けました。その先生はChatGPTを使って本を執筆して、電子書籍などをメインに販売し、実績を上げているそうです。前のセミナーでもそんな話がありましたが、今回はさらに具体的なテクニックが伝授されました。

「現状、本の執筆は20分でできます」とのこと。私の場合、だいたい2年くらいかけているので、そのうち執筆にかかった時間を仮に480時間だとすると、その1440分の1の時間で本が書けてしまうということに。手順は、まず「あなたはプロのライターです」と設定。売れそうなタイトルを決めてもらう、大見出しを10個くらい考えてもらう、続いてその中の小見出しをさらに考えてもらい、小見出しごとに数千字の文章を書いてもらう、という流れであっという間に一冊の本ができるそうです。

 表紙イラストや挿絵もまた別の生成AI「DALL-E(ダルエ)」に描いてもらって完成。「私はすごい勢いで本を出していますが、それは集客にも役に立っています」と、羽振りの良さを漂わせていました。

 文章とイラスト、両方AIが生成できるなら、私の仕事などは置き換えられてしまいます。今はまだ、人間が書いた文章に情緒や味わいを感じる読者の方々がいてくださいますが、今後人間の思考がAIに支配されていったら、もっともらしいけれどあたりさわりのないAIの文章を好む人が増えてしまうかもしれません。

 でも、私はできるかぎり自分の脳を信じたいです。何でもすぐAIに聞くのではなく、インナーChatGPTも活用し、自分の脳に問いかけてみたら、意外と答えは返ってくるもの。思考を手放したらもうAIの思うつぼです……。

今回の言葉

ChatGPTになめられないように、人間のプライドを保ち、可能性を信じましょう。

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