私の歯医者克服法|辛酸なめ子
「その遺伝子、ほしいです!」
先日、LINEグループに、大きめの虫歯が見つかってショックだと書き込んだところ、とくに誰からも反応がなく……。いたわりの言葉や、はげましの言葉があったら心強かったのですが、仕事関係の仲の良い方々のLINEグループで、皆さん忙しいからリアクションできなかったのかもしれない、と思いました。
でも、そのあと皆で集まった時に、歯医者の話題になって驚きました。2人の女性は「矯正で毎月歯医者に通っているから、慣れていて歯医者は大丈夫です」とのことで、1人は「今まで一度も虫歯になったことないんです」と言い放ちました。
虫歯にならない体質が羨ましすぎます。思わず「40代の8割は歯周病みたいですよ」と、呪いのようなことを言ってしまいました。歯医者が大丈夫な人と、虫歯にならない人の集まり……だから誰も虫歯の話に反応しなかったんですね。私は今まで何十本治療したかわからないくらいです。そして、歯医者の恐怖と闘ってきた半生でした。
全国500万人の悩み
そのトラウマの記憶をたどると、幼稚園の頃までさかのぼります。歯医者でずっと口を開け続けることができなかったのですが、無慈悲なおじいちゃんの歯科医に猿ぐつわ的な器具をはめられ、無理矢理口を開けられて痛い治療をされた恐怖が刷り込まれてしまいました。
以来、歯医者に行くと治療中、気持ちが悪くなってしまう症状に。でも、同様の症状を持つ「歯医者恐怖症」の人は20人に1人いるとされていて、全国で500万人位もいるそうです。同じ悩みの人がたくさんいて心強いですが、怖いからといって歯科検診に行かないで歯を放置していると、ますます虫歯が進んで治療の行程が増えてしまいます。
私はネットでできるだけ治療が丁寧で怖くなさそうな歯医者さんを探して、そちらに通っています。優しくてきれいな女性の歯科医の先生のおかげでなんとか通えていますが、やはり歯医者への不安は常につきまといます。とくにここ数年、気持ちが悪くなる反応が出がちで、その理由を考えたのですが、コロナ禍にあるように思いました。
得体の知れない疫病が蔓延し、副反応が強いワクチンを打ち、世の中の活動が制限され、息苦しいマスク生活が続き……気付いたら、不安にスイッチが入りがちな精神状態になってしまっていました。恐怖症の症状は、不安にスイッチが入り、それがどんどん膨らんでいくことで起きると体感しています。数年間続くコロナ禍で、不安癖がついていたようです。
念のため「虫歯 スピリチュアル」で検索すると、「心の奥底に怒りや不満、不安などのネガティブな感情を抱えている」と出てきました。体質だけではなく、スピリチュアル的なことが要因になっている場合もありそうです。
これは「歯エステ」、これは「歯エステ」
今まで、歯医者恐怖症を軽減させるために、試行錯誤しながらやってきたことを書かせていただきます。
・歯医者ではなく「歯エステ」と思い込む
歯医者に行かないと……と思うと恐怖やネガティブな思いが膨らむので、歯をきれいにしてくれる心地よい「歯エステ」だと自分に言い聞かせます。これはちょっとしたクリーニングの時に役に立つことがあります。
・歯医者に行ったら自分へのご褒美に何か買う
経済の一部は歯医者で回っているのでは? と思うことがあります。歯医者に行く前に近くのデパートやアパレルショップに寄って、クリーニングや治療が終わったら何か買おうと心に決めて、歯医者で施術を受けている間にはなるべくそのことだけを考えたりします。先日も、そうやって、これが終わったらどのバッグを買おう……と考えて耐えていたのですが、大きい虫歯が見つかってしまい「セラミックの詰め物は10万円くらいです」と宣告され、バッグの夢は消えました……。
・スピリチュアル系のカウンセリングを受ける
神にもすがりたい気持ちで、カウンセリングやセッションも受けました。スピリチュアル系のイベントの、「ブロックを外す」というコーナーで受けたセッションで、歯医者への苦手意識をなくしたい、と伝えると「お地蔵様の前にアイスクリームが供えられているイメージを思い浮かべるといいですよ」というシュールなアドバイスが。半信半疑だったからか、残念ながらあまり効果はありませんでした。
また、次世代のエネルギー分析システムで、肉体情報や潜在意識、先祖、過去のトラウマなどが検出されるという「TimeWaver(タイムウェーバー)」のセッションも受けたことがあります。歯医者への苦手意識を克服できるような波長を出してもらい、リラックスできました。そのあと一時的に苦手意識が薄らいだのですが、しばらくしてまた戻りました。TimeWaverの施術者が調べてくれたところによると、先祖も影響しているとかで、もしかしたら虫歯に悩んだり歯医者が苦手だった先祖がいらっしゃるのかもしれません。現代よりも歯科医療が進歩しておらず、治療も大変だったことでしょう。先祖が安らかになるように念を送りました。
「ネガティブ絶ち」のむずかしさ
ハイヤーセルフ(高次元の自分自身)と話せる特殊な能力を持つ女性のアドバイスを受けたこともあります。
高次元からのアドバイスは、「イメージ力があるので、気持ちが悪くなると思ったらそういうイメージを作り出してしまいます。逆に違うイメージを思い浮かべると良いですよ。歯医者で急激な眠気が襲ってきて、寝ている間に終わる、とか。不安を打ち消すイメージを強く持ってください。」というものでした。納得できる内容でしたが、その、良いイメージを保つのが難しいです……。高次元存在のアドバイスはレベルが高いです。ポジティブなイメージを持つためには、前日からネガティブなニュースを見ないようにする、というのも有効かもしれません。
・歯に霊験がある神社に参拝する
歯の神様として人々に信仰され、「歯守り」も授与している「荻窪白山神社」に参拝。文明年間(1469~1487年)の頃、関東管領の上杉顕定の家来、中田加賀守が、歯痛に悩まされていたら、夢枕に神様が現れたという伝説が。この地に自生している萩の枝を箸にしてご飯を食べれば治る、とお告げをしたことが神社のいわれだそうです。白いお守り袋が歯の輝きのような「歯守り」を購入。神社の境内に猫がいて、歯で毛をすいて毛繕いしている姿が、歯の大切さを伝えるメッセージのようでした。このお守りを持って歯医者に行ったら、少し不安が軽減されました。
「学びをありがとう!」「学びをありがとう!」
歯にまつわる様々な霊験や効果を探し求めていたのですが、恐れていた、大きめの虫歯が見つかってしまいました。一番奥歯な上、かぶせものをするため型取りもしなければならないという、自分にとって最大の試練が迫ってきました。
前日は不安と恐怖でいっぱいで、なぜ地球が自転すると次の日が来てしまうのか、なんとか止めることはできないか、などと考えて鬱々となっていました。そんな絶望のさなか、高次元存在が応援してくれているのか、UFOを見たり、イルカの形の雲を目撃したり……。高次元の存在は虫歯にならないから良いですね、なんて思いながらも応援は嬉しいです。
当日は白装束でも着たいところでしたが、パワーストーンを身に付けたり、リラックス効果のあるオイルを口に入れたり、気分が落ち着く「エマージェンシー エッセンス」が入ったオイルを塗ったり、大谷翔平のニュース映像を見てポジティブな気持ちを心がけたりしました。ちょうど読んでいた『100年人生を好転させる 年齢にとらわれない生き方』(ヨグマタ相川圭子 著/中央公論新社 刊)には、マイナス思考を手放す方法が書かれていました。「マイナスな気持ちを振り払うように、手首を軸に手を左右に振る。その後、『学びをありがとう』と心の中で唱える」だそうで、部屋で手を振りまくり「学びをありがとう!」と連呼。
また、不安や恐怖を感じる時は交感神経が優位になってしまっているので、深呼吸して副交感神経優位になるように心がけました。吐きそうな時は左右の鎖骨の間のくぼみにある「天突」というツボを押すのも良いみたいです。
もう、すべてを委ねます
そうこうしているうちに運命の時間が近付いてきました。もはや断頭台に向かうマリー・アントワネットのような心境で、吐きそうになりながら歯科医院までの道を歩いていきました。もしかしたら最初に吐きたい衝動を全部出し切れば、逆に施術中はラクになるかもしれません。
ついに歯科医院で名前を呼ばれると、顔面蒼白でブースへ。その時、一見近寄りがたく見えた若い歯科衛生士さんが「そのバッグ、私も持っています。美術館のショップのものですよね」と話しかけてくれて、少しリラックスするというできごとが。守護霊様の采配を感じました。歯科医院の方もできれば患者の気を楽にするために、いきなり治療や虫歯の話じゃなくて雑談を入れていただけると良いかもしれません。
最初に下の歯の型取りがあり、まずそこで気持ち悪くなりましたが、そんな自分も受け入れようという思いでした。それから、奥歯を削りまくり、さらに型取りというハードな治療タイムが。この時心がけたのは「委ねる」ということと「感謝」です。治療してくださってありがとうございます、というポジティブな気持ちを持つようにしました。また、自分の体を高次元の存在や歯医者さんに委ねて、共同作業で治療しているイメージを持ちました。
そしてなんとか無事に奥歯の虫歯除去や、虫歯部分の型取りを終えることができ、解放感に浸りました。ただ、次にセラミックをはめて削って調整する施術が待っているので、ひとときの安らぎですが……。
不安になりがちな性格なので、歯医者では自分の心の使い方と向き合うことになります。歯の試練は、自分の心を肯定的に使うための訓練で学びの機会なのかもしれません。人生にムダなものはなく、虫歯にも意味があるように思えてきました。
(後日談)
その後、さらに複数本の虫歯が次々見つかり、もしかしたら歯医者に行くことを極度に恐れていたのは、私自身というより、退治される虫歯たちだったのかもしれない、と気付きました。