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「肉そば」で飲みたい|パリッコの「つつまし酒」#220

江古田「のじろう」

 先日ですね、僕が住む西武池袋線沿線の江古田という街で軽く飲んだ帰り道、ふらりと吸い寄せられた店があるんです。それが、比較的最近できたと思われる「のじろう」という立ち食いそば店。

「のじろう」

 ちょうどなにかシメっぽいものを食べて帰りたかったので、これはいいぞと。近寄っていくと、なんとお店の名物が「肉そば」らしいんですね。肉そばっていったっていろんなスタイルがありますが、甘辛く煮込んだたっぷりの豚肉を、そばの上にどさっとのせた、僕の大好きなタイプ。

「肉そば」(630円)と「ごぼう天」(160円)

 初めてのお店だったもんで、欲張ってトッピングにごぼう天まで頼んでしまい、最終的にお腹いっぱいすぎになってしまったわけですが、歯ごたえも香りもしっかりとある太めのそばとたっぷりの豚肉の相性が、そりゃあもうばっちりで、なんとも幸せな一杯でした。

ごちそうさまでした

椎名町「南天」

 ところで、肉そばといえば僕が真っ先に思い出すのが、同じ西武池袋線で池袋方面へふたつ進んだ、椎名町駅前にある立ち食いそばの「南天」。ここはけっこうな老舗で、立ち食いそばファンの間では超有名店です。

椎名町「南天」
「肉そば」(500円)

 ここの肉そばを初めて食べた時は驚きましたよね〜。僕の大好きな豚肉が、それこそ麺よりも多いくらいに丼にのって、当時はいくらだったっけかな? 2024年2月現在で1杯500円なんだから、それより安かったことは確か。もう、半分中毒みたいな感じですよね。僕は長く、椎名町の隣の池袋で会社員をしていたんですが、月に数回くらい無性に食べたくなっては、短い昼休み中に、わざわざ電車に乗って食べにいってたくらいですから。

駅の目の前なので、なんとか1時間で戻れた

 ただですね、のじろうも南天も、お酒類の扱いがないんです。そこでかつて、どうしても南天の肉そばをつまみに酒を飲みたいなぁと思った僕。なんと、今思うと完全にどうかしていたんですが、執念で南天が使っているものと同じそばどんぶりをネットで見つけ出して購入し、肉そば自体はテイクアウトしまして、近くの公園でそばをどんぶりに移し替え、それをつまみに飲むなんてこともやったことがありました。

きっちり同じ皿が見つかった
南天でテイクアウトしてきた肉そばを
公園で器に移し替え

 はい。重ね重ね、完全にどうかしてましたよ。だって、この皿がひとつ2000円くらいしたんすもん。だけど、盲目的になってたんでしょうね。とにかく満たされたというか、大充実の経験でした。

富士見台「盛盛」

 ところで先日、旧Twitterこと「X」で、同じ沿線の富士見台という駅近くにも最近、肉そばが名物の立ち食いそば屋さんができたと教えてくれた方がいました。なんで? 西武池袋線、なんでそんなに肉そばの店ができがちなの? とは思いつつ、なんとWEB上の情報を見ると、その盛盛さんには、お酒もメニューにあるらしい! つまり、テイクアウトしてお皿に移して……なんてことをせずとも、肉そば飲みができるということ。これは嬉しいですよ。家からもそう遠くないことだし、さっそく突入してみましょう!

富士見台「盛盛」
の、メニュー

 お、確かに右下にあるぞ。「ワンカップ」「ハイボール」「瓶ビール 小瓶」のメニューたちが。それぞれ390円とリーズナブルなところもありがたい。
 メニューはやっぱり「肉そば」「肉うどん」推し。が、それ以外のオーソドックスな品々もあるし、きつねとたぬきが融合した「ねこそば」なんて遊び心のあるメニューもあります。それと、気になるのが「煮込み」の存在。ただ、肉そばを食べちゃったらきっとそれなりにお腹がいっぱいになっちゃうだろうしな〜。うん、今日は初めての訪問ということもあり、「肉そば」のあたま(肉)大盛りバージョン、780円をつまみにビール。という感じでいってみましょうかね。

「肉大そば」(780円)、「瓶ビール 小瓶」(390円)

 う〜む、なんでしょうかこの良さは。つゆから立ち上るだしの芳醇な香り。肉とネギの潤沢感。小瓶ビールのちょうどいい“付き添い”感。
 それと、あ! よく見たらこのどんぶり、南天と同じで、僕が家にも持ってるやつじゃないですか! となると、南天となにか繋がりがあるのかな? お客さんも多くて忙しそうだし、初訪問だし、そのあたりのことを店主さんに聞いてみることはできなかったんですが、今後探ってみたい、興味深いポイントではありますよね。
 で、で、いざ肉そばをいただこうと思うわけですが。

大迫力

 いや〜、適度に脂ののった、ロースあたりと思われる豚肉の、ボリュームがとにかくすごい。で、それをかきわけると、今回紹介させてもらったどのお店よりも太いと思われる、麺の存在感。

肉!
麺!

 かつ、かなりくっきりと香りたつだし、そして、甘みを抑えたきりっとした仕上げのつゆが、肉、そば、両者のポテンシャルを最大限に引き立てていて、こりゃあたまらならい美味しさです。
 加えて、卓上にはフリーのたくあんやら福神漬けやらがあり、これはカレー用のものとも思われますが、食べちゃだめということもないでしょう。

つまり
こう

 なかなかない経験ではありますが、そばに漬ものをのせ、それもまたちびちびとつまみにしながら飲む。生姜や辛いにんにくみそなども、後半に味変で加えてみると、これまた味わいが変わって楽しい。と、僕が勝手に命名するところの「西武池袋線肉そば三銃士」のなかでは、かなり自由度の高い楽しみかた、というか、飲みかたができるお店であることが判明しました。

あ〜楽しかった

 3店それぞれに特色はありますが、なにしろ、自分の住む沿線にこんな個性的な肉側のお店が揃っているのは、なんともありがたいこと。これからも、気分に合わせて利用させてもらいたいと思いますし、どなたか、なんなら石神井公園にも肉そばのお店開いてもらっていいですからね〜!


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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