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夏の湘南プチ旅行|パリッコの「つつまし酒」#233

夏到来

 今年、娘が小学生になり、初めての夏休みがやってきました。そこで先日、さっそく夏の家族旅行に行ってきました。
 行き先は湘南江ノ島方面。こういう場合、なにかと便利なので実家の車を借りて僕が運転して行くパターンが多いのですが、今回の移動手段は電車(正確には宿までが車で、そこからは電車)。つまりどういうことかというと、酒が飲める! こりゃあもう、旅行の楽しさが2倍、いや3倍、いや100倍にもなりかねない事態ですよ。
 というわけで、久しぶりに夏らしさをたっぷりと満喫できた、その日の記録を。

片瀬西浜

 ところで今回最大の目的地は「新江ノ島水族館」。まだこれほど大きな規模の水族館に連れていってあげたことのない娘が喜ぶだろうと思って。
 小田急電鉄の片瀬江ノ島駅を降り、歩いてすぐに眼前に広がる海。その光景を見て感動しました。海岸線に沿って、はるか彼方までずらりと並ぶ海の家! その、どこかノスタルジックさもあるリゾート感。そして当然、その向こうには江ノ島。あぁ、夏だ。夏がやってきたんだ。

パーフェクトな風景

 でまた、最近の海の家ってどこも趣向を凝らしてあるんですよね。料理ジャンルもお店の作りなどの雰囲気も、どこも様々。さっそくそのなかの1軒にふらりと吸い寄せられ、生ビールをごくごくごくっとのどへ流しこみたい。なんなら、体力が持つ限り海の家をハシゴするなんてのも楽しそうだ。
 けれどもですね、今回は家族旅行なんです。しかもこの日は、気温35℃を超える猛暑日。大いなる制約がある。それは「子どもの体調最優先」ということ。こんな暑い日にわざわざ、汗をかきかき、オープンエアな店で飲み食いすることは、選択肢に入れられないわけですよ。海水浴に来たんじゃないので。
 つまりこの旅は、そのようにくちびるを噛み締めるシーンもありつつ、制限のなかでどう酒を飲むか? というゲーム性も(僕のなかだけで勝手に)帯びており、それがまた楽しかったという話なんですが。

あそこで飲めたら最高だったろうが

イルカショービール

 というわけで、可及的速やかに新江ノ島水族館に到着。屋外の展示も一部ありますが、基本的には屋内メインの施設で空調が利いているので、着いてしまったらこっちのもんです。

「新江ノ島水族館」

 ところで、この水族館のストレートな良さを、今さら僕がレポートする必要はないでしょう。充実の展示満載で、娘はもちろん、親である我々も大興奮。

大水槽の迫力

 加えて、十数年前に一度来たきりですっかり忘れていた僕がものすご〜く嬉しかったのが、この施設、“けっこう飲める”んですよね。館内にいくつかある売店で、生ビールが売ってるんです。
 たとえば大きな目玉のひとつ、イルカショー。その会場の両サイドに小さな売店があるから、イルカをつまみにビールが飲める。いや、本当の意味でのつまみじゃないですよ。あくまで、かわいいかわいいイルカちゃんが見事なショーをくり広げている様子を見ながら、ビールが飲めちゃうんです。

イルカショーを
見ながらのビール

 これが非日常感満載でなんとも最高。
 また、水族館と言いつつ、立地に恵まれているので、ちょっとした休憩処のリゾート感もすごいんです。

ほらほら

 ここで、家族には館内で休憩していてもらいつつ、10分ほどの自由時間をもらって飲んだビール。うまかったなぁ。また「ポップコーン」(320円)なんていう、あまりにもちょうどいいつまみが売ってるもんだから……。

言うことなさすぎ!

 ちなみにビールは全館共通で、Sサイズが580円、Lサイズが720円となっていました。シチュエーション込みと考えたら安すぎるくらい。
 最後に、新江ノ島水族館で個人的になんだか気に入ったのが「ウミガメの浜辺」エリア。屋外プールに普通〜に何匹もの海亀が泳いでいて、上からも真横からも眺めることができ、その感じがなんだかのんびりしてていいんですよね〜。

気持ち良さそう
しかも視界の先は海!

 次は秋くらいに来て、日がな一日海亀を眺めていたい。

「マイアミ貝新」

 さて、なんだかんだひととおり回って楽しんだら、数時間が経ってしまいました。さすがに娘も疲れが出てきたよう。こんなとき、僕ひとりだったら、ちょっくら江ノ島にでも渡って、いくつかある茶屋のなかのひとつに寄って一杯、とでもいきたいところですが、今回は一刻も早くお昼休憩をとりたい状況です。
 ほぼ下調べをしていなかったものの、そういえば来る途中に雰囲気のいい食堂があったよな。あそこへ行ってみよう。というわけで向かったのが「マイアミ貝新」というお店。

「マイアミ貝新」

 海産物、特にこのあたりの名物であるしらすを売りにした食堂のように見えるけど、なんだか不思議な店名。抜けの良い風景のせいもあって、まさかアメリカの「マイアミビーチ」から来ている? とすら思ってしまいそうです。が、きっと「舞網」とかそういう言葉が由来なんでしょう。と思って今調べてみたら、なんと、藤沢市とマイアミビーチ市が姉妹都市提携を結んでいることからついた店名だそう。本当にマイアミだったとは……。

魅力的なメニュー

 で、ここがふらりと飛びこんだだけなのに、ものすご〜い名店だったんです。そもそもかなりの人気店で、すんなりと入れたのが幸運だったらしく。

店内メニュー

 メニューを見ると、まず、この立地にしてまったく観光地価格ではないのが嬉しい。そして、時期や漁の具合によってないことも珍しくない「生しらす」が、今日は食べられるらしい。そりゃあもう、頼むしかないでしょう、「生しらす丼」。もうひと品は趣向を変え「マグロブツ定食」にして、夫婦でシェアするのが良さそうですね。それから娘は、水族館で海亀の形のパンなどを食べてしまっていてあまりお腹が空いていないようなのですが、せっかく入れてもらえたお店だからひとり1品は頼みたい。そこで「いか焼」の単品も注文。
 そして当然「生ビール」。注意書きに「アルコール類はお一人様一パイだけでお願いいたします」とありますが、店員さんいわく、「外に行列がないときはおかわり大丈夫ですからね!」とのことで、あ〜もう、大好きすぎるこの店。

「生ビール(中)」(700円)

 水族館でも何杯かビールは飲んだんですが、ジョッキの生はやっぱり別格ですね。全身に染み渡るうまさ。

「生しらす丼」(1400円)

 いよいよやってきました、生しらす丼。これがもう、夢のような美味しさ。とろりと甘くて、ほろりと苦くて、量がたっぷり。

層の厚さがすごい

 近海で獲れた新鮮な素材ゆえのぜいたくさというか、もう幸せとしか言えません。

「マグロブツ定食」(1400円)
色鮮やかなまぐろ刺
「いか焼」(1100円)

 香りの良いまぐろも、ぷりっぷりのいか焼きも、うまいな〜。
 と、半日にも満たないくらいの滞在時間でしたが、夏っぽさと、絶品料理と、うまいビールを堪能することができた、いい江ノ島旅になりました。

のれんの先に、ヤシの木

 さて、このあたりで娘は体力の限界。水族館で大はしゃぎしたこともあり、一度昼寝を挟まないと持たなそうというわけで、大人しく宿へ。
 それにしても、海の家にも行きたいし、江ノ島やその近辺の散策もしたいし、なんなら江ノ電にだって乗りたいし。
 この夏はもう一度、ひとりでこっそり、江ノ島飲み旅行を敢行してしまおうかな……。


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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