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サメってどうなの?|パリッコの「つつまし酒」#210


よく目にはするものの

 スーパーの鮮魚売り場へ行くと、「もうかさめ」とか「モーカざめ」とか、単に「さめ」という名前だったりいろいろですが、とにかくサメの肉が売られていることがけっこうあります。
 前から気にはなってたんですよね。サメだなって。だけど、買ったことはなかった。サメって、肉に独特のアンモニア臭があるというイメージがあるし、そもそも食材としてなじみが薄すぎる。けれどもまた、こんなにも売られているということは、買う人がいるってことだよな、とも思っていたんです。それに、かなりお手頃な食材でもある。見た目がちょっと似てるメカジキの切り身なんかと比べると、半額くらいだったりする。一度、向き合ってみないとな。そんな思いが先日頂点に達し、ついにサメ、初購入。

人生初サメ

 ここで基本情報。スーパーで一般的に売られているサメは、気仙沼で水揚げされることの多い、正式名称「ネズミザメ」。色々な呼び名がありますが、通称は「もうかさめ」が一般的でしょうか。その他のサメ類に比べてくさみが少ないのが特徴で、低カロリーで高タンパクで栄養豊富。東北地方では特に人気の食材なのだとか。また、その心臓は「もうかの星」と呼ばれ、生で食べると、懐かしきレバ刺しにも似た味わいで、居酒屋などで出会うことも珍しくありません。僕も以前食べたことがありますが、ごま油塩で食べると確かにかなりレバ刺し風味。くさみが少ないので、むしろレバ刺しより好きという方もいるかもしれないな、と思ったくらいでした。
 さてさて、それでは買ってきたサメを調理していきましょう。

いいじゃない!

 とはいえ未知の食材。どう調理するのがベストかはわからない。けれども、あんまりこう、おすすめレシピなんかを調べてそのとおりに作るのではおもしろくない。そこでまずは、きっと間違いないであろう、にんにく醤油味のステーキ風でいってみますか。

きれいな身だな

 作りかたはシンプルに、まずはにんにくを油で炒めて香りを出し、そこにサメを入れて焼くだけ。

もうかさめのステーキ

 焼きあがりました。さっそく食べてみましょう。フォークとナイフでカットして、ひと口ぱくり。ああ〜、なんとなくそんな気はしはじめていたけれど、もうなんの文句もなくうまい。ふわりと柔らかく、クセなどまったくなくて、白身魚にほんのりと鶏むね肉のテイストをプラスしたような。ものすごく強い旨みがあるというわけではないんですが、だからこそ誰もが好きなにんにく醤油味の魅力をぞんぶんに堪能できます。もうかさめ、いいじゃない!
 次の夜、ちょうど家でフライパーティーをやってたので、もうひときれ残っていた身をカットし、フライにしてタルタルソースで食べてみました。すると、わはは、これはもう、この世に嫌いな人など誰もいないんじゃないかなという味わい。今後、フライ、天ぷら、竜田揚げなど、揚げものをするときは、もうかさめをスタメン入りさせることにしようっと。

もうかさめのフライ

サメサンドの衝撃

 なんだか楽しくなってきたので、またもうかさめを買ってきて、今度は煮付けにしてみることに。酒、醤油、砂糖を煮立たせ、刻んだしょうがを加えて。

ぐつぐつ

 さらにもうひときれは、魚焼きグリルでシンプルに、塩焼きにしてみましょうか。

もうかさめの煮付けと塩焼き

 煮付け、そうだろうなとは思っていたんですが、普通〜に、超うまいっすね。ふわふわとしていて、けれどもしっかり食感もあり、ちょっとぶりに似ているかもしれない。白メシがものすごくすすむ味です。
 塩焼きがこれまたいい! たらとカジキを合わせたような味というのかな。けど、口のなかでほぐれる食感は鮭にも近いかもしれない。って、煮付けと塩焼きにしただけで、たとえにいろんな魚の名前が出てきすぎですが、そのくらい柔軟性があるというか、調理次第でいろいろな表情を見せてくれる食材ということなのでしょう。そこまで強くはないな、とさっき言いましたが、塩焼きにするとちゃんと感じますよ、旨味。
 さて、最後にもうひと押し。自家製ツナ風に調理してみましょうか。

オリーブオイルで煮ていく

 サメの切り身に塩をふってしばらくおき、キッチンペーパーで水気をふいたら、にんにく、ローリエとともに、オリーブオイルでじっくり煮ていきます。まぐろの切り身なんかがお安かったときに作ると満足できるメニューですが、さて、サメではどうか?

もうかさめのツナ風

 まずはそのまま、バゲットにのせて白ワインのつまみに。うん、もうね、とっくにサメのことは信頼しているので当然と言えば当然なんですが、ただただ、うまい! なんていうか、強い主張はないけれども、しっかりと芯はあって、そして柔軟に、調理法ごとの魅力を引き立ててくれる。そんな食材ですね。サメ。

小粋な一品

 よし、じゃあ最後に、身をほぐしてマヨネーズとあえ、ツナサンドならぬ「サメサンド」にして食べてみましょう!
 と、思いきや、あれ? まぐろで作ったのと違い、かなり身がしっかりしてますね。ヘラでぐいぐいやっても、ほろほろとほぐれてくれないぞ。まぁいいか。それならもう、どーんとパンにのせ、マヨネーズをドバーッとかけて、そのままサンドイッチにしちゃえ。

サメサンド

 するとこれが、いわゆるツナサンドとはかけ離れているにもほどがあるものの、身がぷりっぷりで食べごたえがあって、こんなにうまいものがこの世にあったの? ってくらいにうまい。
 なんて優秀な食材だったんだ、サメ。今まで損をしていたよ。みそ漬け焼きに、ねぎま鍋風に、サメカレー。まだまだ作ってみたいメニューが盛りだくさんだし、これからも末長く、付き合わせてもらうことになりそうです。


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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