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かに缶万歳!|パリッコの「つつまし酒」#219

かに缶との急接近

 先日、仕事の都合で、かに缶をはじめとしたいくつかの海鮮系の缶詰をどんぶりメシにのせ、海鮮“缶詰”丼を作ってみたことがありました。どういう仕事の都合だっていう話ですが、あったんだからしょうがないじゃないですか。
 かに缶、ご存知ですかね? かにの缶詰。以前からスーパーの缶詰売り場に、あるな、とは思ってたんですよ。だけど、買ったことはなかった。というのもあいつ、なんだかちょっと、寂しいような貧弱なような、どう考えたって丸ごと1杯のかにをゆでたものには敵わないような、なんとも頼りない存在に感じてしまっていて。けれども、先述のようなきっかけがあり、生まれて初めてきちんとかに缶と向き合ってみて、驚きましたよね。

かにの缶詰たち

 まずね、小さな缶にみっしりとかにの身が詰まっていて、そこからどさっと出すと、え? こんなにたっぷり? っていうくらい、しっかりとした量があるんです。

3種類をごはんの上にのせてみたところ

 で、そりゃあ加工食品ですから、ゆでたてのかにに比べたら風味などは落ちますよ。ただ、想像していたよりもかなりしっかりと食感や味を楽しむことができて、しかも面倒な“身をほじくる作業”が必要なくて、数百円で思いっきりかにをほおばることができる。こんなにいいものだったのかと。こりゃ、いろいろと使いようがあるぞ〜! と勝手に盛り上がってしまいまして。

かにめし弁当

 そこで今回は、このかに缶を思いつくままにアレンジしつつ、それをつまみに飲んでやれ、というわけです。

この2缶を使って

 さて、僕がいくつか食べ比べて特に気に入ったのが、キョクヨー「べにずわいがに ほぐしみ」と、業務スーパーで見つけた「わたりがに フレーク」。買った時の金額が、それぞれ388円と、298円。
 まずはそうだな。王道のずわいがにのほうを使って、駅弁風の「かにめし弁当」を作ってみるなんてどうでしょう?
 とはいえ、レシピもなにもないので、いつものとおりフィーリングで。まずはごはん1.5膳ぶんほどに、酢飯の素「すしのこ」を適量混ぜ、そこにどさっと1缶ぶんのずわいがにを投入。さらに彩りを考え、“かにそっくり系”のかにかまも3本ほどほぐして入れたら、全体をよく混ぜましょう。

酢飯に
かに缶
かにかまを加えて
混ぜるだけ

 ここで味を見ながら、醤油少々を加えて最終調整。かに缶の水分でちょっとお米がしっとりめになっていましたが、粗熱をとっている間にいい感じにまとまってくれることを願っておきましょう。
 30分ほど放置しておいた後、これをお弁当箱に移して、家にあったお漬もの2種を加えれば、オリジナルかにめし弁当の完成! コップ酒を用意して、いただきま〜す!

缶詰かにめし弁当
かにがたっぷり

 すると、これがやっぱりいい! お米ひと粒ひと粒にまでしっかりとかにの身が行き渡り、しっとりした酢飯がその甘みと香りをぐっと持ち上げ、ものすご〜くぜいたくな、ちゃんとしたかにめしです! もぐもぐもぐとよ〜く味わっては飲む日本酒が最高。388円のかに缶ひとつでこの満足感は、かなりありなんじゃないでしょうか。

わたりがにのトマトクリームパスタ

 さて、僕がかに缶の世界に足を踏み入れ、さらにびっくりしたのが、業務スーパーで見つけた「わたりがに フレーク」。そもそも缶詰自体が一般的なものよりでかく、なんと内容量170g、うち固形量が120gという大ボリューム。わたりがにって、たまに生のものがスーパーで安く売っていたりしますけど、あれはあくまで鍋のだしであったり、料理の素材用。ゆでて身を取り出そうとしても、労力ととれる身の量が釣り合わないんですよ。つまり、そんなわたりがにの身だけを集め、缶詰にみっちみちに詰めてくれてあるだけでも大感謝。
 で、今回は缶詰を使い、見よう見まねで「わたりがにのトマトクリームパスタ」を作っていってみようと思います。が、その前に、ちょうどスーパーで生のわたりがにも売っていたので、そっちも合わせて、よりかに感の強い一品に仕上げていきましょうか。
 というわけで、まずはフライパンに1人前弱のパスタを入れ、それが浸るよりちょっと多めの水を入れ、わたりがにも入れて火にかけます。

かに、この量で200円ほどでした

 そうしたらそこへ、かに缶全投入! 大量のかにの旨味を吸わせながらパスタをゆでてやろうという魂胆ですね。

わたりがにフレーク
全投入!

 少しずつ水分が減り、パスタが柔らかくなりはじめてきたら、ここで市販のトマトソースと豆乳(牛乳でもいいでしょうが、好きなので)を加え、さらに煮詰めていきます。味を見ながら、塩、醤油、オリーブオイル、バターなどもフィーリングで加えていきましょう。しっかりと全体が融合したら、お皿に盛って仕上げに生クリームと黒コショウをかけてやれば、完成! わたりがにのトマトクリームパスタ!

よく煮詰まったら
できあがり!

 いや〜、これほどに“かに度”の高い料理を自分で作ったのは、確実に初めてです。まず俯瞰して見ると、パスタが見えないほどのかに。その下のパスタに絡んだソースにも、飽和状態のかにの身。
 甘酸っぱくもとろりとコク深く、そして目一杯かに風味なトマトソースが度を超えて美味しすぎる。そのソースを吸ったちょっと柔目なパスタがまた、いいつまみになる。さっき「身が少ない」なんていいましたが、それでもちゅうちゅうとしゃぶれば、しっかりとかにの醍醐味を感じられる、殻つきのかにの新鮮な美味しさにもうっとり。このパスタをつまみにちびちびと飲む赤ワインの、ま〜優雅なこと!
 これは、かに好きならば一度は作ってみて損のない、かに欲満たしメニューなのではないかなと。

ソース最高!
パスタも最高!

 以上、殻つきのものとは違い、「素材」という側面が強いからこそ、そして高級なイメージのある食材としてはだいぶリーズナブルだからこそ、まだまだいろいろと遊べそうな「かに缶」の世界。次はどんな料理に使ってみようかな〜と、引き続きわくわくしています。


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パリッコ(ぱりっこ)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター。2000年代後半より、お酒、飲酒、酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌、ウェブなどさまざまな媒体で活躍している。フリーライターのスズキナオとともに飲酒ユニット「酒の穴」を結成し、「チェアリング」という概念を提唱。2021年8月には、新刊『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』を上梓! また、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(スタンド・ブックス)『晩酌わくわく! アイデアレシピ』 (ele-king books)、『天国酒場』(柏書房)、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』(光文社新書)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、漫画『ほろ酔い! 物産館ツアーズ』(少年画報社)、など多数の著書がある。
Twitter @paricco

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