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どうすれば日本の若者を「抑圧」から解放できるのか?|高橋昌一郎【第25回】

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★現代の日本社会では、あらゆる分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。
★「新書」の最大の魅力は、読者の視野を多種多彩な世界に広げることにあります。
★本連載では、哲学者・高橋昌一郎が、「知的刺激」に満ちた必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します。

「民主主義」の基盤は「ロジカルコミュニケーション」

私は長年に渡って大学やカルチャーセンターで「ロジカルコミュニケーション」を提唱している。その対極に位置するのが、いわば「相手を黙らせるコミュニケーション」である。こちらは、自己主張を大声で述べ、相手の発言を平気で遮り、自分の立場は絶対に譲らず、場合によっては相手を嘲笑したり罵倒したりして、相手が黙り込むと「はい、論破!」と勝ち誇るというタイプである。

テレビやネットの討論番組などの悪影響もあるのか、このような「論破」こそが「ロジカル」だと勘違いしている人が多いが、それはまったくの誤解である。一般に、賛成や反対を表明する意見に含まれる個別の理由や根拠のことを「論点」と呼ぶが、そもそも賛否両論が生じるような問題の背景には複雑な論点が隠れていることが多く、どちらの解決法にも複数のメリットとデメリットがあり、安易に「論破」できるほどに単純化できるような問題はほとんどない。

私が常々学生に勧めているのは、賛否両論に対しては、常に「賛成論(メリット)」の立場から論点を少なくとも3つ、「反対論(デメリット)」の立場から論点を少なくとも3つは挙げられるように視野を広げることである。たとえば「日本の死刑制度を存置すべきか否か」という二者択一に対しては、「存置すべき」と「廃止すべき」の論点を各々3つ以上挙げてみる。これらの賛否両論の論点を明確化した上で、初めて公平な判断の出発点に立つことができるからである。

両論の論点を整理した結果、最終的にどの論点に最も価値を置くのかは、もちろん個人の自由である。逆に言えば、論理的に整理することによって自分がどの論点に価値を置いているかを見極められる。ロジカルコミュニケーションが重視するのは、あくまで新たな論点を発見するディスカッションの「過程」であって「結論」ではない。したがって、議論を進めていくと、当初は死刑制度に賛成だった学生が反対に変わることもあれば、その逆もある。最終的な結論は個人の価値観に依存し、その結論を変更するのも個人の自由だからである。

さて、残念ながら現代の日本社会に知的なロジカルコミュニケーションが根付いているとは思えない。その最大の理由は、議論以前に「子どもだからわかっていない」「子どもだから黙っていろ」といった「論点のすりかえ」が多用されているからではないか。要するに、日本の若者は「抑圧」されているのである!

たとえば2021年の衆議院選挙では、当選者の平均年齢は55.5歳だった。最年少は29歳、最高齢は82歳である。選挙権は18歳に引き下げられたにもかかわらず、衆議院の被選挙権は25歳、参議院の被選挙権は30歳のままであり、しかも選挙に出るためには世界一高い供託金300万円を準備しなければならない。日本では、そもそも若者が政治参加したくてもできない構造になっている。

本書の著者・室橋祐貴氏は、この状況を「権力者にとって都合の良い日本の民主主義」と呼ぶ。選挙・被選挙権年齢が同じアメリカのアーカンソー州では18歳の市長が誕生した。室橋氏は日本も①被選挙権の引き下げ、②民主主義教育、③子どもの権利尊重、④若者団体の基盤整備、⑤人権機関設置という「5つの武器」を若者に渡し、社会課題の解決に積極的に参加させるべきだと提言する。

本書で最も驚かされたのは、自分の意見を自由に述べ他者の意見を尊重する民主主義の基盤が、実は「ロジカルコミュニケーション」そのものだということ!

本書のハイライト

ジェンダーや多様性、テクノロジーなど、変化の激しい時代になっているにもかかわらず、新しい価値観や経験を持った若い世代が意思決定に関われていない。それこそが、日本の低迷の大きな理由ではないだろうか。政治の話だけではない。学校では、理不尽な校則(以下、ブラック校則)を押し付ける、部活動に強制的に加入させる、子どもは大人の言うことを聞くだけ、といった旧態依然とした学校の姿が根強く残っている。結果的に、自分の意見を積極的に言う人は少なく、「生きる意味」がわからない、目立ちたくない、リスクを負いたくないという空気が充満している。そんな若者にとって抑圧的な日本社会を変えることが今最も必要な日本の処方箋である。

(pp. 5-6)

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著者プロフィール


高橋昌一郎(たかはし・しょういちろう)
國學院大學教授。情報文化研究所所長・Japan Skeptics副会長。専門は論理学・科学哲学。幅広い学問分野を知的探求!
著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』(以上、講談社現代新書)、『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『新書100冊』(以上、光文社新書)、『愛の論理学』(角川新書)、『東大生の論理』(ちくま新書)、『小林秀雄の哲学』(朝日新書)、『実践・哲学ディベート』(NHK出版新書)、『哲学ディベート』(NHKブックス)、『ノイマン・ゲーデル・チューリング』(筑摩選書)、『科学哲学のすすめ』(丸善)など多数。

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