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【63位】ザ・ビートルズの1曲―史上初の「イェー、イェー、イェー」が、超特大の魔法を炸裂させた

「シー・ラヴズ・ユー」ザ・ビートルズ(1963年8月/Parlophone/英)

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Genre: Rock 'n' Roll
She Loves You - The Beatles (Aug. 63) Parlophone, UK
(Lennon-McCartney) Produced by George Martin
(RS 64 / NME 280) 437 + 221 = 658 

たった6音なのだ。言葉数ならば、たかが4つ(最後の3つは繰り返し)――シー、ラヴズ、ユー。それから(こんなぞんざいな口語の連発が歌詞のなかで叫ばれたのは史上初だった)「イェー、イェー、イェー」……たったこれだけの「一瞬」で勝負はついた。ロック音楽にとって必要なもののほとんどすべてが、この「3秒」に凝縮されていた。ザ・ビートルズ、天下御免の一大ヒット曲、初期の彼らを代表する大人気ナンバーがこれだ。

当曲は、UKにおける4枚目のシングル曲として発表された。前々作「プリーズ・プリーズ・ミー」、前作「フロム・ミー・トゥ・ユー」と連続してチャート誌のトップに輝き、まさに人気急上昇中の彼らが放ったのが「これ」だったのだから――もう大変なことになった。同年のUKにおけるベスト・セリング・シングルどころか「60年代で最も売れた」1枚であり、77年にポール・マッカートニーがウィングスの「夢の旅人」で打ち破る、というか自己更新するまで、同国史上最も売れたシングルの座には、この「シー・ラヴス・ユー」が君臨し続けていた。当然ながらUKにおけるビートルズのベストセラー・シングルはこれであり、かの有名な「ビートルマニア」の存在は、ここから本格化した。

成功の秘訣は、なんと言っても歌詞の「変わった」話法にあった。「彼女は君が好き」ということばかり、語り手は言う。自分のことには一切言及しない。「彼女」と仲違いしたと思い込んでいる「君」を、徹頭徹尾励ますのみ。ところが話を聞かされた「君」の反応すら、歌のなかでまったく描写されない。ゆえにストーリーの中心にて雁首揃えている、たぶん男どうしの「2人」の影というのはきわめて薄く、前面に出てくるのは、ただただ「彼女のことばかり」となる。話題のなかにしかいない、しかしとても性格のよさそうな「彼女」こそが、女神のごとき存在として浮上してくる――という歌なのだ。もしかしたら語り手自身も、じつは「彼女」に秘めた恋心すら抱いている、のかもしれない……。

という不思議な構造だからこそ、そこにポップの魔法は宿り得た。それは天真爛漫な楽しさであり、溌剌としたエネルギーの発散であると同時に、胸かきむしられるセンチメンタリズムでもあった。これら全部のアマルガムが、歌の波動の、その隅々にまであった。

UKと同時期にリリースされたときには、アメリカではまったく売れなかった。が、64年の大旋風のなかでスワン盤がビルボードHOT100で1位を奪取。同年の米年間ランキングでも、1位の「抱きしめたい」に次ぐ2位を記録する一大ヒット作となった。

(次回は62位、お楽しみに! 毎週火曜・金曜更新予定です)

※凡例:
●タイトル表記は、曲名、アーティスト名の順。括弧内は、オリジナル・シングル盤の発表年月、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●ソングライター名を英文の括弧内に、そのあとにプロデューサー名を記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
川崎大助(かわさきだいすけ)
1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌「ロッキング・オン」にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌「米国音楽」を創刊。執筆のほか、編集やデザイン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌「インザシティ」に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)、『教養としてのロック名盤ベスト100』(光文社新書)、訳書に『フレディ・マーキュリー 写真のなかの人生 ~The Great Pretender』(光文社)がある。
Twitterは@dsk_kawasaki


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